第093話 文化祭二日目~もしかして、俺って、馬鹿だと思われてる?~

 文化祭二日目も昨日と同様に、メイド服を着て、学校に行く。

 そして、クラスに顔を出した後は自由時間だ。

 実に楽な仕事である。


 しかし、昨日は高等部の2、3年のクラスを中心にまわっていたのだが、篠山の言う通り、ナンパされてしまった。

 中には焼きそばを買うから一緒に行こうとか、ほざく野郎もいた。

 俺のデート代は500円らしい。


 なめんな!


 当然、断ったのだが、しつこいヤツもおり、そういうヤツは先生にチクり、警備員に引き渡してやった。

 本当は殴りたいのだが、クラスに迷惑をかけるわけにもいかない。

 俺も成長したものである。


「今日はどうすんだ?」


 俺が立札を担ぎ、クラスを出ると、肩にいるシロが聞いてきた。


「今日は午後から三者面談があるから、まわるのは午前中だけだな」

「三者面談? お前の悪行を親にチクられるのか?」


 いや、悪行なんてしてねーわ!

 多分。


「別に、進路の事とかだろ」


 ウチは父親が仕事のため、母親が来る。

 そして、三者面談は姉、妹、俺と連続でやるらしい。

 母さんも大変だわ。


「午後からは帰るのか?」

「いや、母さんが色々と見たいって言ってるから案内する」


 たまには、親孝行をしようではないか!

 けっして、三者面談で色々言われた後のポイント稼ぎではない!


「まあ、親孝行は良いことだと思うぞ」

「そうだろ、そうだろ。よし、じゃあ、午前中は適当に見てまわるか!」


 俺は午前中、昨日と同様に高等部を中心に見てまわりつつ、ジュース券を配っていった。

 そして、昼飯を食べた後、三者面談の時間になったため、面談室に向かった。

 

 面談室の前には、すでに母さんが待っていた。


「もうお姉ちゃんとホノカの面談は終わったの?」


 俺は面談室の前の椅子に座っている母親に声をかける。

 

「ルミナ君、高校生にもなって、挨拶も出来ないの?」

「久しぶり?」

「何で疑問系なのよ」

「いや、この前、家に帰ったばっかじゃん」


 1ヶ月前、スタンピードが起きたことにより、俺は実家に呼び出され、姉と妹と共にエクスプローラを続けるのか聞かれたのだ。


「1ヶ月も経っているのよ」


 たった1ヶ月だろ。

 

「まあいいじゃん。それより、お姉ちゃんとホノカは?」

「もう終わったわよ。2人は自分のクラスに戻ったわ」


 俺と違って、忙しいんだろうな。


「次が俺ら?」

「多分ね。さっき篠山さんって方が入っていったわ」

「あー、じゃあ、次だわ」


 この三者面談は出席番号順で行われている。

 サ行の篠山は俺の前なのだ。


「それよりも何で、メイド服を着ているの?」

「まあ、文化祭の出し物的な」


 間違ってはいないと思う。


「よくわからないけど、似合ってるわよ」

「どうも」


 母親に誉められても嬉しくねー。

 ましてや、メイド服を誉められてもね。


「ありがとうございましたー」


 俺と母さんが話していると、篠山とおそらく篠山の母親であろうおばさんの2人が面談室から出てきた。


「よう。終わった?」

「ええ、終わったわよ。次はあんた。それよりも、その格好で面談するの? せめて、立札は置いていきなさいよ」


 俺は篠山に言われて、立札をずっと持っていることに気づいた。

 完全に体の一部となっていたわ。


 俺は立札を壁に立て掛けた。

 

「忘れてた」

「まあ、仕事熱心で良いことよ。じゃあ、私はクラスに戻るけど、あんたは引き続き、宣伝してまわるのよ」

「はいはい」


 篠山と篠山の母親が去っていったのを見て、俺は面談室をノックした。


「どうぞ」


 中から担任の伊藤先生の声がしたので、母さんと2人で中に入る。


「「失礼します」」


 俺と母さんは声を揃えて言った。


「どうぞ、お掛けください」


 中に入ると、伊藤先生が席に座るように促してくる。

 促された俺達は伊藤先生の前の椅子に座った。


「えーと、まずはむす………こさんの成績からです」

「娘って、言いかけたろ!」

「自分の格好を鏡で見てこい」


 メイド服でーす。


「コホンッ! えーと、神条君は実技においては言うことはありません。元々、免許を持っているプロのエクスプローラですし、実力もあります」


 フフン!


「そうですか…………それで、座学の方は?」


 ふふん?


「えーと、まあ、苦手な科目もあるようですが、頑張っているとは思います。ただ、もう少し、授業を真面目に聞くといいと思いますね」


 ふふん…………


「やはりそうですか…………」


 母さんの目が冷たい。


「赤点、回避したし」

「期末はね!」


 しょぼーん……


「まあ、テストの点数も上がっていってますし、今後の努力次第でしょう」

「そうですね」


 母さん、怒ってる?

 

「えーと、次に生活態度なんですが…………」

「ひどいですか?」

「ひどいのはあんただ! 息子を信じろよ!」


 グレちゃうぞ!


「小学校の時からあなたの生活態度が良かったことが一度でもありましたか?」

「………………」


 しょぼーん…………


「まあまあ。神条君はこの学園に入学してからは大きな問題は起こしていません。たまーにこんな格好をしたりしますが、この程度はエクスプローラなら普通です。それに先輩や後輩と混成のパーティーを組んでいますが、うまくやっていますし、後輩からはすごく慕われています」


 フフン!


「そうなの?」


 母さんはドヤ顔をしている俺に聞いてくる。


「シズルやアカネちゃんとパーティーを組んでるって言ったじゃん」

「そう…………うまくやっているならいいわ。シズルちゃんやアカネちゃんだけじゃなく、他の人にも迷惑をかけないようにね」


 迷惑なんてかけたことねーわ!

 多分!


「まあ、総じて、神条君はよくやっていると思います。今日もこうしてクラスのために、メイド服を着ています…………し? 何で、メイド服なんだ?」

「宣伝。目立つだろ」

「…………そうか」

「すみません、先生。この子は昔からバカなんです」


 バカじゃない!


「まあ、クラスにも馴染めてますし、問題はありません。それと、神条君の今後の進路についてですが、どのように考えていますか?」

「今後もクソも、俺はプロのエクスプローラだぞ」

「この子は卒業後もエクスプローラを続けるようです」

「ご両親も納得済みで?」

「はっきり言えば、私は反対です。この子は精神的に幼く、すぐに調子に乗ります。人様に迷惑をかけさせたくありません」


 ひでー!

 そして、先生も頷いてんじゃねーよ!


「俺はエクスプローラを続けるぞ!」

「とまあ、こんな感じで、人の話を聞かないところもあります」


 母さんがそう言うと、再び、伊藤先生が頷く。


 おい!


「じゃあ、エクスプローラ以外で何をすればいいんだよ!」

「………………」

「………………」


 母さんと伊藤先生は沈黙してしまった。


 え!?

 ないの!?


「あのー」

「まあ、本人も頑張っているようなので、もう少し様子を見ます」

「そうですね。わかりました」


 おーい!


「それと、これは全員に聞いていることなのですが、この前、アメリカでスタンピードが発生しました。正直に言いますが、日本でも起きる可能性はあります。これについてはどのように考えていますか?」

「それについてはミサキとホノカ、この子の姉と妹の担任の先生からも聞かれましたね」

「俺を誰だと思ってんだ? スタンピードがなんぼのもんじゃい!」


 なめんな!

 

「とまあ、本人はこう言っています」

「神条君はそうでしょうね。まあ、神条君は優秀なエクスプローラですし、無茶もしないでしょう…………おそらく」


 一言、余計だな。

 以前のアホばっかりなパーティーだった時とは違い、今は慎重にダンジョン攻略を進めているぞ!


「エクスプローラのことはよく知りませんが、ルミナが優秀なのは聞いていますし、本人の裁量に任せようと思っています。シズルちゃんもいますから大丈夫だと思います」

「そうですね。雨宮さんは真面目な子ですし、問題はないと思います。多少、雨宮さんに対する神条君の態度が気になりますが…………あー、それと、ご家庭のことに口出しするつもりはないのですが、神条君のお姉さんと妹さんへの関係性は大丈夫でしょうか? 特にお姉さんへの執着がすぎるような気が…………」

「そうなの?」


 母さんが俺を見てくる。


「別に普通だろ。お姉ちゃんもホノカも普通に仲良くやってるよ。まあ、ホノカとはちょっと前にケンカしたけど」


 前にアカネちゃんを巡って争った。


「うーん、この子は昔からお姉ちゃんっ子でしたし、甘えたいんでしょう」

「そんなガキじゃねーぞ」

「あなたは子供よ」

「こんなに成長しているのに」


 俺は自分の胸をさする。


「……すみません、先生。この子は本当にバカなんです」

「そうですね…………い、いえ、わかりました。少し気になったもので! 問題がないなら大丈夫です! えーっと、面談は以上です」

「本当にすみません。では、失礼します」

「失礼しまーす」


 俺と母さんは面談室から出る。


「ハァー、恥かいた」

「場を和まそうと思っただけなのに」

「もういいわ。ハァ……ホノカの担任の先生にも、もう少し勉強を頑張りましょうって言われるし、この子はバカだし」

「ププ、ホノカのヤツ、ウケる」

「ハァー…………」


 そんなにため息を吐くなよ。

 まるで、俺がダメな子みたいじゃん。


「それよりも、これからどうすんの? お姉ちゃんの所にでも行く? 喫茶店をやってるから休憩できるよ?」


 母さんがお疲れみたいなので、親孝行な俺はお姉ちゃんの喫茶店に誘う。

 

「…………そうするわ」


 俺は一気に老けた母さんを連れて、お姉ちゃんのクラスに向かった。


 

 俺達はお姉ちゃんのクラスに着いたので、入店する。

 今日は特に待つことなく、入ることができた。


「また来たよ(ボソッ)…………いらっしゃいませー! お姉さんは裏ですよー。会えませんよー」


 昨日と同じ名前を知らない女の先輩が対応してくれる。


「お姉ちゃんに母さんが来たって伝えてー」

「そこまでして(ボソッ)…………わかりましたー。呼んできますので、こちらの席にどうぞー」


 ボソボソ言っているが、聞こえてんぞ!


「あなた、何したの?」


 母さんが案内された席に座りながら聞いてくる。


「昨日も来たんだけど、あんな感じだった。店員の態度が悪い店なんだ」


 俺と母さんが待っていると、お姉ちゃんがやってきた。

 

「お母さん、来てくれたんだ! ありがとー!」

「ミサキ、あなたは頑張ってね」

「お母さん、どうしたの?」


 お姉ちゃんが俺に聞いてくる。

 

「三者面談で疲れたみたい」

「お母さん、このカモミールティーがおすすめだよ」

「それにするわ」

「俺、コーヒー」

「ちょっと待っててね」


 その後、何故かお姉ちゃんではなく、ちーちゃんが飲み物を持ってきて、遠回しに帰れと言われた。

 文句を言ったのだが、母さんに睨まれたため、あえなく出ることにした。

 そして、母さんがホノカのクラスにも行きたいと言ってきた。

 

 俺は断固として、拒否したのだが、母親には逆らえず、ホノカのクラスに行くことになってしまった。

 ホノカのクラスに着くと、見事、ヒトミちゃんと遭遇し、気まずい思いをしましたとさ、めでたし、めでたし。



 


攻略のヒント

 ウチのクラスの喫茶店に間違いなく、ミサキの弟である神条弟が来店する。

 そして、ミサキ目当てに居座ることが予想されるため、神条弟が来店したらミサキを表に出さずに早々に帰ってもらうようにすること!

 

『2年2組 神条弟対応マニュアル』より

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