第091話 文化祭前日~コスプレは楽しい~
久しぶりに東京本部のロクロ迷宮に行き、20階層のボスであるミノタウロスを攻略した俺達は協会に帰ったあと、色々とあったが、無事に報告を済ませた。
そして、返却された俺のDカードは白になっており、俺は名実ともに真人間に戻ることが出来た。
その後もダンジョンには行っているものの、21階層以降の地図がまだ発表されていないことに加え、学校の文化祭の準備があるため、15階層程度でレベル上げをすることにしていた。
その間も特にスタンピード等の問題も起きず、ダンジョンは平和そのものであった。
アメリカでスタンピードが発生した直後は騒いでいたマスコミや民衆も、次第に収まりつつあり、一部の評論家や市民団体を除けば、エクスプローラ業界も以前の状態に戻りつつあった。
それはダンジョン学園でも同様であった。
二学期が始まった当初はエクスプローラを辞めるかどうかの話題が多かったが、今はもう明後日に迫った文化祭ムード一色である。
俺は今日も学校で文化祭の準備をしていた。
俺は主にシズルの手伝いをしていたが、文化祭が明後日に迫っているため、最終準備等で帰るのが遅くなってしまった。
そして、家に帰ったあと、晩飯を食べ、風呂に入ると、もう寝る時間になっていた。
「なあ、相棒は文化祭の時、何すんだ?」
俺が自室でストレッチをしていると、定位置であるベッドの上にいるシロが聞いてくる。
「俺は当日の仕事はないから、適当に見てまわるつもりだ。お前も来るか?」
「行く。他のヤツらのクラスは何すんだ?」
「アカネちゃんとカナタのクラスは喫茶店って言ってたな。ちーちゃんの所も喫茶店らしいぞ。あと、瀬能は演劇」
まさかの喫茶店かぶりである。
まあ、中等部と高等部は校舎が違うから問題はないと思う。
「ふーん、瀬能は演劇かー。シェイクスピアでもやんのか?」
し、しぇいくスピア?
武器か?
「知らない。白雪姫でもやんじゃねーの?」
「相棒、シェイクスピアは槍じゃねーぞ」
せっかく知ったかぶりしたのに、俺の心が読めるシロを誤魔化すことが出来なかった。
心ではなく、空気を読んでほしかったね!
お! 今の俺、上手い!
「ドヤ顔すんなよ。たいして上手くねーぞ」
「うるせーな。俺とお前では知力に差があるんだよ。黙って拍手しとけ!」
「手がないがな」
すぐ揚げ足を取る!
足もないくせに!
お! 今のも上手い!
「だから、ドヤ顔すんなって」
「うっせーな。そんなことよりも、お前に聞きたいことがある」
「何だよ?」
「ロクロ迷宮でスタンピードは起きそうか?」
シロはロクロ迷宮で生まれたモンスターだ。
何かを知っているかもしれない。
「知らねーよ。起きる可能性は否定できないけど、いつ起こるかなんてわからん。現場に行けばわかると思うが…………」
「21階層以降にシャーマンみたいなモンスターはいるのか?」
「まだいないと思うな。まあ、スタンピードは深層では起きないから安心しろ」
まだいない?
どういうこと?
モンスターって、階層ごとに決まってるんじゃねーの?
うーん……まあ、いいや!
「何で、深層では起きないんだよ」
「うーん、お前に理解できるかな?」
こいつ!
俺を馬鹿だと思っているな!
「出来ますぅー」
「じゃあ、説明してやる。前にも言ったが、スタンピードはモンスターがモンスターを生み出して起きる現象だ。モンスターが生み出したモンスターはダンジョンにとって異物だから、普通のモンスターと争う。ここまではわかるな?」
前に聞いたな。
ゾンビ(養殖)とゾンビ(天然)が争い、ゾンビ(養殖)が優勢になると、ゾンビ(天然)が上の階層に逃げ出すってやつ。
「わかる」
「モンスターが生み出せるモンスターはそんなに強くないんだ。深層だと、モンスターが強いから、まず、普通のモンスターが負けることはない。いくら大量のゾンビが発生したところで深層のモンスターが負けるわけねーからな」
そういえば、名古屋支部のニュウドウ迷宮でも、10階層のサメ…………えーと、名前、何だったっけ?
「デスシャーク」
そう、デスシャークがいるから、ゾンビは10階層より上には行けないって言ってたな。
「なるほど。ちなみに、ロクロ迷宮では何階層くらいなら起きないんだ?」
「うーん、どうかなー? 30階層以降は起きないと思うぞ。30階層のボス、強いし」
「30階層のボスって、何だよ」
「それは言えない。ルールがあるから」
ルールって、何だ?
こいつって、たまに、はぐらかすよな。
やはり、ラスボスか?
「お前はすぐに俺っちを黒幕にしようとするよな。相棒を信用しろよ」
「お前がはぐらかすからだろ」
「別に、はぐらかしてねーよ。ダンジョンにはルールがあるんだ。お前らが死んでも生き返るのと一緒」
うーん、わからん。
まあ、いいや。
どうせ、考えてもわからんし。
「よくわからんが、ロクロ迷宮でスタンピードが起きるなら30階層までなんだな?」
「だと思う」
30階層以降は調査しなくてもいいと考えれば、希望は見えてくる。
しかし、ロクロ迷宮の最深到達階層は28階層だ。
安心していいものかね?
「このことを本部長に伝えた方がいいかな?」
「そりゃそうだろ。早く電話しな」
「…………お前、何で、今まで黙ってたんだ?」
「聞かれなかったからだな」
何それ?
ルールか?
めんどくせールールだな。
「ふーん、まあいいや、電話は明日にしようかな。今日はもう遅いし」
「いいから電話しろ。こういうことは早めに伝えるもんだ」
今まで黙ってたヤツに言われると、すげー腹立つな。
俺はちょっとイラッとしたが、本部長に電話することにした。
そして、本部長に電話でさっきの話を伝えると、ものすごく感謝された。
そんなに重要な話だったか?
俺はまあいいかと思い、今日は休むことにした。
◆◇◆
俺は朝に起きると、協会へと向かった。
今日は文化祭前日であり、日曜日だ。
学校では他の学生は文化祭準備の最終調整を行っているだろう。
俺はというと、ウチのクラスで出すオーク肉焼きそばの材料であるオーク肉を仕入れにダンジョンに行かないといけないのだ。
オーク肉の仕入れには、アカネちゃんとカナタも手伝ってくれるので、協会で待ち合わせをしている。
俺が協会に着くと、2人はすでにおり、俺を待っていた。
「おーす!」
俺は協会のロビーで待っている2人に、軽い感じで挨拶をした。
「あ、おはようございます!」
「センパイ、遅いですよ」
「わりぃ、わりぃ」
別に、遅刻はしていないのだが、手伝ってもらう立場なので、素直に謝った。
「頼んでおいて何だが、お前らの準備はいいのか?」
「あー、僕ら、午後からは手伝いに戻りますんで、午前中だけでもいいですか?」
「いいぞ。ってか、そんなに量は要らないから1、2時間で終わると思う」
「わかりました!」
俺達はオーク肉を集めにロクロ迷宮の6階層へと向かうことにした。
ロクロの6階層は何かと縁のある階層だ。
この前の泊まりの練習も6階層だったし、シズルとちーちゃんの3人で活動していた時はほぼ6階層にいた。
6階層はオークがメインの階層であり、初心者にはうってつけの階層なのだ。
しかし、この階層で活動しすぎたため、シズルとちーちゃんはオークと戦うのを嫌がる。
おかげで、後輩に頭を下げることになってしまった。
6階層に到着すると、俺の索敵でオークを探し、3人で倒していった。
アカネちゃんもカナタも中等部であるが、オーク程度に遅れは取らない。
中等部の学生であることを考えると、かなり優秀である。
先ほどもアカネちゃんがオークを槍で突き、倒したところだ。
オークにビビっていたアカネちゃんが懐かしい。
「アカネちゃんも強くなったなー」
俺は頼もしい後輩を見て、感慨深くなる。
「えへへ、そうですか~? センパイのおかげですよー」
うん、うん。
まったくもって、その通りだな!
「あのー、前から気になってたんだけど、アカネさんって、神条さんのことをセンパイって呼ぶよね? 他の人は名前で呼ぶのに」
アカネちゃんはシズルのことはシズル先輩、ちーちゃんはチサト先輩、瀬能は瀬能先輩と呼ぶ。
「あー、以前はお兄さんって呼んでましたね。ホノカちゃんのお兄さんなので。でも、センパイが中学に上がった時に、センパイって呼べと言われたんですよー。どうせ、後輩女子にセンパイと呼ばれたかったんでしょうね」
正解!
だって、誰もセンパイって呼んでくれないんだもん!
「後輩女子にセンパイって呼ばれるの憧れない?」
俺はカナタに同意を求める。
「えーと、まあ、わかります……」
はい!
また、俺だけー!
どうせアウトローだよ……
「あるあるだと思ったんだけどなー」
「少なくとも、私に強制するもんじゃないですよ」
「じゃあ、お兄さんでいいよ…………」
お兄さんだと、ホノカのおまけみたいで、嫌なんだよな。
まあ、実際、そうなんだけど。
「いや、今さら変えられませんって」
「ハァ……最近はお姉さまだしなー」
お姉さまより神条センパイと呼ばれたいなー。
「センパイの性癖なんてどうでもいいです。それよりもシズル先輩の誕生日は明明後日ですけど、どうするんです?」
性癖って…………
別にそんなつもりじゃないんだけど。
「文化祭最終日の後夜祭を一緒に見ることにしたよ」
文化祭の最終日の後夜祭は校庭でキャンプファイヤーをするらしい。
夏にやるもんじゃねーの?
「おー! ちゃんと誘いましたか! キャンプファイヤーを見ながら渡すんですよ?」
「そうする予定」
雰囲気重視でいく。
どうせ、ロクな言葉は出てこないし、気遣いも出来ない。
だったら、雰囲気で流してしまおうと考えたのだ。
それなら多少、ミスしても大丈夫!
「そのまま告白でもしちゃってくださいよ~」
あー、うざいアカネちゃんが出てきた。
「しない。俺、女」
「つまらないですねー」
「先に言っておくが、覗くなよ」
「…………もちろんですよ、フフ」
まったく信用できない。
アカネちゃんの嬉しそうな顔がそれを証明している。
俺達はその後、オークを何体か倒していった。
そして、オーク肉をいくつかドロップしたため、ダンジョンから帰還し、学校へと戻った。
学校に戻ると、後輩2人と別れ、自分のクラスに行き、オーク肉を篠山に渡した。
その後、最終準備を手伝い、夕方には準備を整え終えることが出来た。
「皆、お疲れ様。明日から3日間、頑張りましょう!」
『おー!』
篠山が代表して言うと、クラスが一体となり、気合いを入れる。
「あ、神条、あんた、明日からどうするの? 学校に来る?」
篠山が俺に聞いてくるが、不登校生みたいに言うな!
「来るよ。色々、見てまわる」
「そう。じゃあ、あんたにはこれ」
篠山はそう言うと、俺に木でできた立札みたいなものを渡してくる。
「何これ?」
「あんたは手伝わなくてもいいけど、これを持って学園中を練り歩きなさい。宣伝ね」
篠山に言われて、立札を見ると、オーク焼きそばの宣伝文が書いてあった。
「はーい」
「あと、なるべく目立つ格好で来なさい。あんた、得意でしょ?」
人をかぶき者みたく言うな!
「えー……コスプレすんのー?」
今から用意するのはめんどくせーよ。
魔女の格好は何か違うしー。
「いや、コスプレじゃなくてもいいけど……いや、コスプレしなさい!」
「えー……」
「いいから何か適当に着てきなさい。あんたの唯一の長所でしょ?」
ひでーな。
俺の唯一の長所はコスプレらしい。
何だ、それ?
「うーん、わかったー」
まあ、いいか。
適当に何か着れば、手伝いをしなくても良くなるのだから。
俺は文化祭テンションもあって、篠山の言うことを素直に聞くことにした。
そして、明日に向け、解散となった。
『どうすんだ? 何か買いに行くのか?』
帰り道、シロが念話で聞いてくる。
『考えたんだが、宣伝目的だし、わかりやすいのがいいと思うんだ』
『なるほど。制服でも着るか?』
なんで学生が制服を着て、コスプレになるんだよ。
『ショウコの家に行く』
『ショウコ? あの≪ヴァルキリーズ≫の副リーダーか?』
『そう、それ』
あいつの家には1回ほど行ったことがある。
すげー豪邸で晩御飯を御馳走になったことがあるのだ。
俺は電車に乗り、ショウコの家に向かい、衣装を借りることにした。
◆◇◆
ショウコの家に着き、ショウコに用件を言うと、快く承諾してくれた。
「はい、これ」
ショウコは衣装が入った紙袋を俺に渡す。
「ありがと。洗って返すからな」
「いいわよ。あげる。文化祭、頑張りなさい」
さすが金持ち。
気前がいい。
「悪いな」
「別にいいけど、私はあなたの将来が心配よ」
ショウコは手を頬に当てながら言う。
「ほっとけ」
「あなたはお気楽でいいわねー」
「ん? 何かあったか?」
「ハァ……私達はこれから静岡に出張よ。面倒なことになったわ」
「お前らが出張とは珍しいな。問題でも起きたのか?」
「まあ……ね。私達の事はいいから、あなたは学生らしく、文化祭を楽しみなさい。じゃあね」
ショウコはそう言うと、豪邸の中に入っていった。
何だ、あいつ?
晩飯くらい御馳走してくれてもいいのに。
『ずうずうしいぞ』
わかってるよ。
冗談、冗談。
しかし、何かはぐらかされたな。
うーん、まあいいか!
遅くなったし、早く帰ろう。
俺はショウコが気になったが、さっさと帰ることにした。
攻略のヒント
緊急通達
対象:木田セイギ、石川ジュウゾウ、村松サエコ
上記3名は直ちに東京本部に集まること。
『エクスプローラ協会通達文書 緊急招集』より
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