第087話 ゾンビのいないダンジョンは最高だぜ!


 仲間にエクスプローラを続けるかを確認した俺は久しぶりにダンジョンにやってきた。

 このロクロ迷宮に来るのは、2ヶ月振りである。


 夏休みは名古屋のニュウドウ迷宮というゾンビ地獄を味わい、心に大ダメージを受けたが、やっとホームグラウンドに戻ってこれた。


 今回は泊まりで探索するとはいえ、目的地が20階層であるため、低階層の探索は最低限に留め、一気に15階層まで進む予定である。


「今日はどこまで行くの?」


 ダンジョンに入り、各自が空間魔法の早着替えにより、装備品などを準備し終えると、シズルが聞いてきた。


「今日は18階層まで行く。ちーちゃんに泊まれそうな小部屋を調べてもらったからそこで泊まりだな」

「わかった」

「じゃあ、行くか!」


 確認を終えた俺達は15階層を目指し、出発した。


 出発した俺達は順調にダンジョンの奥へと進んで行く。

 低階層のモンスターに苦労するメンバーでもないし、スタンピードの傾向もない。

 いつものロクロ迷宮である。


 俺達は10階層のボスも軽く突破し、11、12、13階層も突破した。


 14階層ではモンスターの量が増えるため、嫌いなメイジアントが出てきたものの、ゾンビよりはマシである。

 メイジアントを俺の火魔法で倒し、他のモンスターも仲間と連携し、倒していった。

 

 そして、14階層も突破し、15階層へとやってきた。

 15階層は突撃ウサギが中心であり、たまにウィスプが出る。

 突撃ウサギはそんなに強くないが、数が多い。


「この階層で時間と体力を使いたくない。なるべく敵を避けつつ、最短距離で16階層に向かおう」

「りょーかい」


 この15階層では、俺とシズルが敵を感知しながらモンスターを避けれそうなら避け、体力を温存しながら進んだ。

 そのおかげで、何度か戦闘にはなったが、15階層を余裕を持って、突破することができた。


 そして、16階層である。

 この階層はウィスプがよく出る。

 ウィスプはちーちゃんの水魔法に頼ることになるが、以前はちーちゃんの精神力が尽きてしまったので、16階層を突破することができなかった。


「ちーちゃん、頼むぞ」

「大丈夫。マナポーションもあるし」


 俺達は万が一のことを考え、マナポーションを仕入れていた。

 もし、探索中にスタンピードが起きれば、連戦に次ぐ連戦で精神力が尽きるのは目に見えている。

 もちろん、最悪は帰還の結晶で逃げることだが、エクスプローラとして、やるべきことはやらないといけない。


 実はダンジョン解放の際に、全エクスプローラに通達があった。

 それはダンジョン探索中にスタンピードの傾向を発見した場合は、無理をしない程度に調査及び足止めをすることである。


 もちろん、未成年である学生にその義務はない。

 しかし、スタンピードが起きれば、学生もクソもない。

 結局は、自分の命や家族、友人を守るために戦わないといけない。

 だったら、出来ることはやろうと思い、マナポーションを仕入れておいたのだ。


「これまでにスタンピードの傾向はなかったよね?」


 隣にいるシズルが俺に尋ねる。


「なかったな。いつも通りのダンジョンだ」


 これまで隅から隅まで探索したわけではないので、断言は出来ないが、少なくとも、俺達が探索した範囲において、スタンピードの傾向はなかった。


「ふぅ……気を張りすぎかな?」

「あんなことがあったんだから仕方ねーよ。一応、俺の≪索敵≫やお前の≪諜報≫でモンスターの動向は念入りに確認しよう」

「わかった」


 俺とシズルはいつもより集中して、モンスターを探すことにした。

 そのおかげもあり、厄介なウィスプを早めに発見することができ、ウィスプ相手にちーちゃんの水魔法を先制して、放つことができた。

 

 俺やカナタも手伝いながら、ウィスプを倒していき、ついに17階層への階段までやってきた。


「ここまでは非常に順調だな。ちーちゃん、17階層は?」


 もはや、ダンジョンのことはちーちゃんに頼りきりである。


 エクスプローラを辞めて、協会の職員になるって、言われなくて良かった!


「17階層は弓持ちのゴブリンとあばれ牛だね」

「あばれ牛? 弓持ちのゴブリンはなんとなくわかりますけど、あばれ牛って、何です?」


 俺と同様にダンジョンについて、まったく調べていないであろうアカネちゃんが聞く。


「あばれ牛は名前の通り、暴れる牛。突撃ウサギの牛バージョンって、考えればいいよ」

「20階層のボスがミノタウロスだから牛なんですかね?」

「多分ね」


 ボス部屋の前の階層はボスにちなんだモンスターが出る。

 10階層のボスはレッドゴブリンであるため、その前の階層はゴブリンばかりだ。

 それと同じように牛モンスターが出るのだろう。


「しかし、突撃ウサギの牛バージョンって、中々、怖いですねー」

「安心しろ。あばれ牛みたいなのは俺の得意分野だ」


 あばれ牛は川崎支部のダイダラ迷宮でも出てくる。

 あばれ牛のドロップアイテムは牛肉であるため、よく仲間と狩り、焼肉パーティーをしたもんだ。


「そういえば、マイさんにミノタウロスは雑魚って、言ってましたもんね」

「なんだったら素手でも勝てるぞ」


 俺は力対力なら負けないのだ!


「やめなって。じゃあ、あばれ牛はあんたに任せるからシズルと瀬能は弓持ちのゴブリンをお願い。悪いけど、あたしは休む」


 ちーちゃんは16階層で魔法を使いすぎている。

 ゴブリンはカナタに援護させて、シズルと瀬能が対処するのがベストだろう。


「わかりました」

「任せといて」


 シズルと瀬能はちーちゃんの提案に同意する。


「よーし、行くぞー!」


 俺は笑顔で右こぶしを掲げる。

 

「そういえば、今日は何でそんなに嬉しそうなのさ?」

「ゾンビじゃないから」

「まだ引きずっているんだ……」


 あたりめーだ!

 ハヤト君なんて、記憶が完全に抜け落ちてんだぞ!


 夏休み中にハヤト君に会った時、大変だったなーと話しかけると、ポカンとした表情を浮かべていたのだ。

 いくら俺でもさすがに同情した。


「俺はもうゾンビがいる所には行かないからな!」

「私だって、嫌だよ」

「あたしも嫌」

「センパイのあの様子を見て、行きたいと思う人はいませんよ」

「ボクも絶対に嫌だな。タンクなんだぞ?」

「僕もゾンビはちょっと…………」


 我ら≪魔女の森≫は全会一致でゾンビはNGとなったところで、階段を降り、17階層へと向かった。




 ◆◇◆




 俺達は17階層にやってくると、地図を見ながら進んでいく。

 これまでは協会が発表していたダンジョンの地図は16階層までだった。

 しかし、スタンピードが起きたことで、協会が調査を行ったため、20階層までの地図があるのだ。


 俺が今回の探索で、20階層まで行くことを決めたのはそういった理由があるからである。

 

 けっして、考えなしではない!


「ルミナ君、モンスターが来るよ。多分、あばれ牛だと思う」


 シズルがモンスターを感知したため、俺は前に出る。

 しばらくすると、俺の索敵にも反応があった。


「あばれ牛が1匹だ。お前らは下がれ」


 俺がそう言うと、他の5人は俺の後ろに下がっていく。


 俺はハルバードを取り出し、構えると、前方から黒毛和牛が現れた。

 あばれ牛の見た目は、完全に牛である。

 違うのはムキムキなところと、目が赤く、殺気立っているところだ。


 あばれ牛は俺を見つけると、突進してくる。

 

 あばれ牛の特徴は敵を見つけると、誰であろうと突撃してくる凶暴性だ。

 猪みたいなモンスターである。


 俺は鼻息を荒くしながら突っ込んでくる馬鹿にハルバードを叩きつけた。

 すると、あばれ牛はあっさり真っ二つになり、煙となって消えた。


「あれ? 終わった?」

「弱くない?」


 俺が楽に倒すと、瀬能とシズルが拍子抜けしたように言う。


「だから雑魚だって。オークやオーガと変わんねーよ」

「いや、強いからね。あばれ牛の突進を受けたら、ダンジョン産の重装備でも致命傷だよ。あと、オーガはもっと強いよ」


 一緒だよ。

 どうせ一撃なんだから。


「ルミナ君って、本当に強いんだねー」


 シズルが俺を尊敬の目で見てくる。


「まあな」


 ふっふっふ。


「部屋の隅で膝を抱えて、泣いてたヤツとは思えないね」


 ちーちゃんは未だにイジってくるな。


「泣いてねーよ。次、行くぞ」


 俺はそう言って、歩き出す。


 その後も何度かあばれ牛が出てきたが、俺が瞬殺してやった。


 弓持ちゴブリンも瀬能が防御しつつ、シズルの投擲で倒し、17階層を楽勝で突破したのだった。





攻略のヒント


 やっほー!

 今日もいい天気だねー!!


 前回のブログが炎上するかと思ったら、全然、炎上しなかった!

 嬉しいけど、皆、ちゃんとあきちゃんのブログ見てる?

 ちょっと不安です!!


 さーて、今日も有名エクスプローラを紹介しちゃいますよー。


 第5回目は前回の≪教授≫つながりでこの人!


 クーフーリンでーす!


 以前にも、ブログで書いたけど、この人もあきちゃんの同級生でーす。

 そして、あきちゃんと同じく≪教授≫のゼミ生!!


 クーフーリンの本名は瀬田コウタロウって言います。


 皆、知ってた?

 あの人、本名を言うと、怒るんだよね。


 前に、何でクーフーリンなの?

 って、聞いたら、カッコいいだろって言われました。


 あきちゃんは反応できなかったよ。

 ごめんね、瀬田君。


 瀬田君、じゃなかった、クーフーリンはBランクのエクスプローラだよ。

 槍の技術がすっごくて、例によって、Aランクの実力はあるんだけど、素行不良でBランクなんだ。

 私達の世代はこんなんばっかりだね!


 良い子は近づいちゃダメだよ。

 あの人は新人を見かけると、絡みに行くチンピラのテンプレみたいな人だから。

 しかも、ルミナ君に返り討ちにあうという、まさに小物!!


 でも、本当に強いんだよ。

 なにせ、クーフーリンはソロでBランクになったんだからね。

 命知らずの狂犬(チワワ)なんだぞー!


 そんなクーフーリンも≪教授≫には頭が上がらないんだ。


 理由は言えない!!


 え?

 知りたい?


 ほら…………単位的な……ね?


 おーっと、これ以上は言えないぞ!



 じゃあ、いつも通り、裏話という名の暴露でもしますか!!


 クーフーリンには大学時代から付き合っている彼女がいるんだよー。

 確か、ケイちゃんって子。




 ケイちゃん!!




 瀬田君は大学時代、二股をかけてたよ!



 いえーーい!

 

 さよならー!!


『≪モンコン≫ことBランクエクスプローラ春田秋子のブログ』より 

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