第065話 お泊り準備……エロい意味じゃないよ?
協会に戻ってきた俺達は受付で成果を受け取ったあと、ロビーで今後について話し合いをすることにした。
「16階層以降はこのペースで行くのは厳しいと思う」
俺は今日の探索の進み具合から考え、対策が必要と考えた。
「確かにそうだね。モンスターの数が多すぎて、後衛の精神力や前衛の体力が尽きてしまう」
瀬能も同じことを思っていたのか、俺の意見に同意した。
「どうするの? 泊まり?」
シズルが聞いてくる。
ダンジョン探索は深層に行く場合は泊まりとなることが多い。
ダンジョン内には小部屋があるので、そこで見張りを立てて、休むのだ。
「お前らは泊まりの経験はあるのか?」
俺は瀬能とちーちゃんの2年生組に聞いてみた。
「ボク達2年はあるよ。そういう実習が1年の冬にあるからね」
「だね」
瀬能とちーちゃんは経験があるようだ。
「お前らは…………ないよな?」
俺は残りのシズル、カナタ、アカネちゃんに確認する。
「もちろんないよ」
「僕もないです」
「ないですねー」
シズルがないのはわかっているし、カナタもないだろうなとは思っていた。
「アカネちゃんもないの? ≪フロンティア≫ではやらなかったのか?」
アカネちゃんは元々、ウチの学校のトップパーティーに所属していたから、あるかもしれないと思っていたのだが、ないようだ。
「私達は数は潜っていましたが、奥には行かなかったですし」
「ふーん」
経験者3名、未経験者3名か…………
微妙だなー。
泊まりは一応、危険だし、覚えることがたくさんある。
しかも、慣れていないとロクに眠れないし、逆に疲れてしまう。
「どうする? マナポーションで精神力を回復させれば、20階層くらいはいけると思うが」
俺は経験者である瀬能とちーちゃんに意見を求めた。
「マナポーションも安くないしな。どうせ、いつかは泊まりになるし、早めに覚えておいてもいいんじゃないか」
「そうだね。最初はあたし達の負担が多くなると思うけど」
うーん、タンクの瀬能と体力がないちーちゃんに負担をかけるのはマズいんだよなー。
しかし、瀬能が言うように目標が深層である限り、避けては通れない。
「まあ、俺が見張りをやればいいか……」
「大丈夫か?」
「まあ、1日や2日くらいなら寝なくても、問題ないし」
俺は体力には自信がある。
「まあ、あんたは経験があるだろうし、そうなんだろうね」
川崎支部のパーティーは俺以外に索敵系のスキルを持っているヤツがいなかった。
だから、見張りは俺一人だった。
俺が1人で見張りをしているのに、ヤツらはぐーすかと寝ていた。
友達がいのないヤツらだった。
「何回か低階層で練習しておこうよ」
「それがいいね」
確かに、低階層なら危険も少ないし、練習にはもってこいだ。
「お前ら、泊まりの道具とか持ってる?」
泊まるにしてもテント等が必要である。
「持ってないね。君は持ってないのか?」
「持ってたけど、パーティー解散時に譲った」
俺は川崎支部を追い出されてソロになったから、必要がなくなったため、仲間に譲ったのだ。
「じゃあ、買う必要があるね。お金を出し合おうか」
「そうするか。お前らもそれでいいか?」
俺は未経験者のシズル達に聞いた。
「私は大丈夫」
「私も大丈夫でーす」
「僕も」
全員、泊まりに賛成のようだ。
「じゃあ、来週の土曜に泊まりでダンジョンに潜るか」
「いいんじゃないか。この後、時間もあるし、買いものに行こうよ」
瀬能に言われて、時計を確認すると、まだ15時くらいだった。
「そうしよう。買うものはテント2つと、生活用品だな。個人で欲しいものは勝手に買え」
「荷物はどうするんですか?」
カナタが聞いてきた。
「そういえば、お前とアカネちゃんは空間魔法を持ってなかったな」
魔法袋に入れてもいいが、あれは魔石用だからなー。
俺達は魔法袋を2つしか持っていないのだ。
「はい。空間魔法を取った方がいいですか?」
取った方が便利ではあるが、スキルポイントがもったいない。
「うーん、いや、取らなくていい。ちーちゃんのアイテムボックスに入れてもらえ」
瀬能や俺は武器や防具が多い。
シズルにテント等を持ってもらい、アカネちゃんとカナタの個人の荷物はちーちゃんに持ってもらった方がいいだろ。
「いいですかー?」
「いいよ。適当にカバンかリュックにまとめて持ってきてくれればいいから」
「ありがとう、姉さん」
「助かります~」
まあ、カナタは弟だし、アカネちゃんも同性のちーちゃんの方がいいか。
俺達は今後の方針を決めたので、協会の対面にある武具販売店へと向かった。
武具販売店は武器や防具だけでなく、ダンジョン探索に必要な便利グッズも売っている。
「まずはテントだなー。男女に別れるために、2つ買えばいいだろ」
俺達は最初にテントコーナーにやって来た。
テントコーナーには、大小、様々なテントが置いてあり、少しワクワクする。
「男女? センパイはどっちですか?」
アカネちゃんがツッコんできた。
「俺? そりゃあ…………どっちだ?」
「いや、自分のことじゃないですか?」
そうは言うけど、どっちのテントで寝ればいいんだ?
俺はどっちでもいいけど、どっちのテントにしても、他のヤツらが嫌がりそうだ。
「うーん、まあ、俺は見張りをするから別にいいか」
一晩中、外に居ればいいのだ。
「最初はそれでもいいけど、さすがにマズいでしょ」
ちーちゃんが俺を心配してくれている。
「じゃあ、女子のほうで寝る」
「嫌でーす」
アカネちゃんが拒否してきた。
「じゃあ、男子のほうで寝る」
「マズくないか?」
瀬能が苦言を呈した。
ほらね。
嫌われ者だよ。
「もう外でいいよ。お前らとは鍛え方が違うんだ」
この前のレッドオーガと戦った時も寝ていなかった。
1、2日寝なかったくらいでは、俺のパフォーマンスは落ちない。
まあ、寂しいけど。
「3つ買えばいいじゃん。男子用、女子用、ルミナ君用」
シズルが画期的なアイデアを思いついた。
お前、頭良いな!
「じゃあ、そうする。しかし、お前らは仲間をハブにするんだな」
いじけちゃうぞー。
「アカネみたいなこと言うな」
ちーちゃんから辛辣なツッコミが飛んできた。
「悪い、うざかったな」
俺はアカネちゃんと同類は嫌なので、素直に謝った。
「いや、それじゃあ、私がうざいみたいじゃないですか……」
「うぜぇよ!」
「ひどい!! うえーん」
アカネちゃんはその場で泣くふりをした。
そして、チラチラとこっちを見ている。
ほら、うざい。
「ケンカしないでよ。じゃあ、テントは3つね。他は何がいるの?」
良い子ちゃんのシズルが俺達を仲裁してきた。
アカネちゃんはすぐに泣きマネをやめ、いつもの状態に戻る。
ほら、うざい。
「ふとんと食料と水。他の生活用品や着替えは個人だな」
普通は寝袋だが、アイテムボックスがあるので、別にふとんでも問題ない。
寝袋は寝にくいのだ。
「食料は? 缶詰?」
「食いたいものを買えよ。俺は弁当を持参する」
別に、1週間も潜るわけではない。
1日くらいなら、コンビニのおにぎりでもなんでもいい。
「君、弁当を作るの?」
瀬能が意外そうな顔で聞いてきた。
「俺の母親は料理教室の先生だから、うるさいんだ」
「ホノカちゃんもお姉さんも得意なんですよー。センパイの家の人は炊事、洗濯と家事マスター一家なんです」
父親は何もできねーけどな。
「へー、意外だな」
瀬能は感心している。
「お前の分も作ってやろうか? 手間は一緒だ」
「いいのか? じゃあ、お願いしようかな」
瀬能の分ぐらいなら余裕だな。
「あ、センパイ、私もー」
小動物が便乗してきた。
まあ、3人分くらいなら……
「じゃあ、あたしも」
お前もか……
まあ、4人分くらいなら……
「せっかくだから私も」
シズルが言うなら仕方がない。
しかし、5人分か……
「えっと…………じゃあ、僕も」
カナタは周りを見て、手を上げた。
まあ、ハブにするのは可哀想だ。
「全員ね。いいけど、おかずに文句をつけるなよ」
6人分はめんどくさいが、瀬能とちーちゃんはともかく、他の3人は初めての泊まりだし、優しくしてやろう。
「手伝おうか?」
優しいシズルが声をかけてきた。
「頼むわ」
よしよし、これで少しは楽になるぞ。
「あたしも手伝おうか?」
「…………え?」
意外な人から意外な提案がきたため、俺は弟のほうを見る。
「姉さんは料理が得意ですよ」
「ちーちゃん、キャラを通そうよ」
そんなファンキーな格好しておいて、何してんだよ。
「失礼だね。ってか、あんたに言われたくないよ」
ごもっともな意見ですな。
「じゃあ、頼むわ。あ、アカネちゃんは来なくていいぞ」
「どうせ、私は出来ませんよー」
知ってる。
こいつは目玉焼きしか作れない。
来ても、邪魔なだけだ。
「じゃあ、食料はそんな感じでいっか。あとはふとんかな」
「あ、そういえば、タイムトライアルの優勝賞品があったね」
ちーちゃんが思い出したように言った。
ダンジョン祭では、総合優勝したパーティーと各部門で優勝したパーティーに賞品が出る。
「そういえば、何をもらったんだ?」
「安眠枕だって」
「何だそれ? 枕なら持ってるし、いらんぞ」
ってか、優勝賞品が枕って……
学園はケチすぎないか?
「いや、ただの枕じゃない。ダンジョン産の枕」
いや、だから、何だそれ?
「どんな効果なん?」
「この枕で寝ると、疲れがすごい取れるんだって」
「あっそ。お前らで勝手に使え」
マジでいらんな。
ダンジョン産って言えば、ありがたがると思ってんのかね?
「かなり高値なんだけどね」
「はぁ? たかが枕だろ」
バカじゃねーの?
「体力バカのあんたはそうだろうけど、世の中には疲れている人がいっぱいいるんだ。そういう人に需要があるんだよ」
「じゃあ、売るか。俺はどっちでもいいぞ」
「いや、あたし達で使うよ。ダンジョン内ではゆっくり眠れないだろうし」
まあ、そうだろうな。
「じゃあ、それも持って行けよ」
「そうする」
俺達はその後。各自でふとんや生活用品を見て回り、泊まりでのダンジョン探索の準備を終えた。
「じゃあ、来週の土曜の午後に、このロビーに集合な。シズルとちーちゃんは朝から家に来てくれ」
「うん」
「了解」
俺達は来週の土曜にダンジョンに泊まることに決め、この日は解散した。
家に帰ったら、シロは昼間と同じクーラーの下にいた。
こいつは明日から学校について来るのだろうか?
攻略のヒント
ダンジョンの深層に行くためには、泊まりに行くケースがある。
泊まりは危険が多いため、小部屋などのモンスターと遭遇しにくい小部屋で休み、見張りをキチンと置くことが重要である。
そして、泊まりの際にはお風呂が入れないなどの不便があるため、お近くの武具販売店で泊まりのダンジョン探索で便利な道具をお求めになると良いです。
『週刊エクスプローラ ダンジョンに泊まろう特集』より
※武具販売店≪オゾン≫様の提供です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます