第056話 優秀な仲間達


 俺は帰還魔法陣でダンジョンから協会に戻ってきた。

 そして、協会のロビーで休憩したあと、外に出た。

 本当は協会で自分のパーティーを待とうと思っていたのだが、≪魔女の森≫の順番は最後だったため、シロの要望で外に出ることにしたのだ。


 俺はシロと一緒に適当に町をぶらつき、夕方になったので、協会に戻った。

 なお、戻る途中でガキンチョ共に絡まれてしまった。

 魔女のコスプレが悪かったようだ。


 俺はそんなこんながありつつも、協会に戻り、ロビーに張られた現在の結果を確認する。

 

 どうやら現在のトップはやはり≪フロンティア≫だった。

 タイムは1時間8分。

 2位の1時間23分とは大差がついている。


 俺はこのまま≪フロンティア≫が優勝だなーと思いつつ、結果を見ていたのだが、 そこに教員がやってきて結果を張り直した。


 最新の結果が張られた瞬間、周りがざわついた。


 1位が入れ替わったのだ。

 しかも、タイムは59分。

 1時間を切るという驚異的なスピードであった。

 

 なんと、そのパーティーはウチのパーティーである≪魔女の森≫であった。

 

 ≪魔女の森≫は最後のパーティーであるため、これで優勝が確定したことになる。


 マジで?

 速すぎねーか?


 俺はウチのパーティーが健闘するとは思っていたが、ここまでやるとは思っていなかった。


「おい、シロ、あいつら、何したんだ?」

「わからん。いくらなんでも速すぎだ。おそらくお前が補習している間に、何らかの手段を思い付いたか、スキルを習得したんだろうな」


 可能性があるのは未知のジョブであるシズルだろう。

 あいつの新スキルか、もしくは、ちーちゃんの悪知恵か。


「とりあえず、聞いてみるか」

「そうしろ」


 俺はここでパーティーメンバーを待つことにした。

 しばらく経つと、ロビーにウチのパーティーが帰ってきた。

 すると、協会にいる人間から拍手が贈られる。


「うーん、何故、あそこに俺がいないんだろう?」

「お前は人に称賛されるのが好きだよな。そのくせ、真逆の行動をしている」


 俺が自分のパーティーメンバーを羨んでいると、シロからキツいツッコミが飛んできた。


「最近はちゃんとしてるんだがなー」

「どちらにせよ、お前が参加して、あの結果なら拍手は来なかったと思うぞ」


 俺もそう思う。

 おそらく、ヒエヒエだっただろうな。


「なんか、あいつらの元に行きにくいなー」


 ウチのパーティーは皆に囲まれている。


「お前はリーダーだろ。一番に行くべきだろ。はよ行け」

「はーい」

「あ、ショウコとケンカするなよ」


 わかっとるわ!


 この雰囲気でケンカしたら、俺の数少ない人望がゼロになる。

 俺はそこまで空気が読めなくない。


 俺はシロに言われたように、仲間の元に行く。


「あ、ルミナ君、お疲れさま」


 シズルが俺を見つけたようで俺に向かって手を上げる。

 すると、周りにいたヤツらも俺に気づいたようだった。

 俺はヒエヒエかなーと思ったが、思いのほか、暖かい空気だった。


「よう、お疲れさん」


 俺はシズルに挨拶を返す。

 

「ねえ、あんた、何でコスプレしてんの? まさかその格好で参加したの?」


 ちーちゃんが呆れるように俺を見て、声をかけてきた。


 俺は気づいた。

 この暖かい空気は自分の格好のせいだと。


「≪知恵者の服≫はマズいかなと思って、違うのにしたんだよ」


 俺は箒をちーちゃんに向けながら答えた。


「あたしはあんたが何をしたいのか、わからないよ」

「俺のことはどうでもいいんだよ! 優勝おめでとう」

「ありがと」

「しかし、速すぎねーか? 何したんだよ」


 俺は驚異的なスピードの秘密を聞く。


「それは教えてあげませーん。センパイは明日も敵ですから~」


 アカネちゃんがうざい感じで答えた。


「俺はリーダーだぞ。シズル、教えろ」

「明日の競技が終わったら教えるよ」

「そうでーす」


 シズルも教えてくれなかった。

 しかし、アカネちゃんはうざい。


「ちょっといいかしら?」


 俺達が話していると、横から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 声がしたほうを振り向くと、ジャージを着た長身の女がこちらを微笑みながら見ていた。

 もちろん、ショウコである。

 

 ショウコが俺に話しかけてきたことで、周りの人間も次第に解散していく。


「ちーちゃんはやらねーぞ」


 俺はショウコの用件がわかっているため、先につぶしておくことにした。


「あら? まだ何も言っていないのに」


 ショウコはわざとらしいリアクションを取る。


「じゃあ、何だ? シズルもやらねーぞ」

「まあまあ、落ち着きなさい。相変わらず、気が短いわね。ちょっとこの後、いいかしら?」


 ぜってー、嫌だわ。


「神条、ボク達は明日の打ち合わせをするからこの辺で帰るよ」


 瀬能が俺の近くにやってきて、俺の肩に手を置く。


「ん? そうだな」

「ああ。それと雨宮さんとチサトさんは断ったぞ」


 瀬能が俺の耳元に近づき、小声で教えてくれた。


 やっぱり勧誘してやがる。


「わかった。ありがとう。明日も頑張れよ」

「ああ」

「あ、私はホノカちゃんの所に行ってきますので、ここで失礼します」


 アカネちゃんがさっきまでのうざさを消し、決意に満ちた表情で言った。

 これからホノカと仲直りのための話をするのだろう。


「わかった。行ってこい」

「はい!」


 アカネちゃんは俺に敬礼をし、帰っていった。


「シズルもカナタもこの調子で頑張れよ」


 俺はシズルとカナタにも声をかけた。


「うん。じゃあ、また明日ね」

「神条さんも頑張ってください!」


 2人はそう言って、他の仲間と共に帰っていった。


「で? 何だ?」


 俺は仲間が帰っていったので、ショウコに用件を聞く。


「気づいていると思うけど、斎藤さん、もちろん、お姉さんのほうね。彼女が欲しいわ」


 やはり、その話のようだ。


「さっきも言ったろ。やらねーよ」

「まあ、そうね。斎藤さんにも断られちゃったし」

「だったら諦めろ」

「シズルちゃんは無理そうだし、斎藤さんくらいはこちらに譲ってほしいわ」


 こいつもしつこいな。


「ちーちゃんも無理だ。あの人を仲間にするために、すげー苦労したんだぞ。お前も現場に来てただろ」

「ああ、立花の件ね」


 こいつも一応、あの事件に関わっており、現場には来たのだ。

 すべてが終わった後だったが。

 

「ちーちゃんはウチで満足してるから諦めな」


 弟のカナタもいるし。

 まあ、若干、人質っぽいが。


「ふぅ。まあ、今回は引き下がるわ。斎藤さんが学園を卒業する来年以降にまた勧誘することにしましょう」

「もう来るな」

「あなたはわがままねー。お姉さんも妹さんもシズルちゃんも譲ってくれなかったし。ましてや、お姉さんと妹さんは≪正義の剣≫に入っちゃったじゃない」


 それはすまんかった。

 お前らのことを完全に忘れていたのだ。


「どうせ抜ける。その時に勧誘しろ」

「そうなの?」

「多分な。でも、お姉ちゃんもホノカもやる気はねーぞ。2人は昔から俺を見てるからな」

「それは大丈夫よ。私達だって、やる気なんてないし」


 大手クランの副リーダーがとんでもないことを言っている。


「そうなん?」

「女同士でわいわいやって、男の愚痴を言うくらいがちょうどいいのよ。中には永久就職先を探すためにエクスプローラをやっている子もいるのよ」


 大丈夫か、それ?


「サエコが聞いたら怒るぞ」

「わかってるわよ。言っちゃだめよ?」


 ショウコはそう言って、ウィンクをし、帰っていった。

 

 しかし、言葉使いといい、仕草といい、上品な感じがするのに、何故、いつもジャージなんだろう?


 俺は帰っていくショウコの後ろ姿を見ながら、惜しい女だなーと思った。


 

 俺はショウコと別れ、家に帰った後、部屋で休んでいると、アカネちゃんからSNSで連絡が来た。

 アカネちゃんはホノカに≪フロンティア≫を抜けた理由を話し、謝罪したそうだ。

 そして、自分は≪フロンティア≫に戻るつもりもないと。


 ホノカはそれを聞いて怒ったそうだが、アカネちゃんの意思が強いことが知ると、わかってもらえたらしい。

 そして、ホノカのほうも謝罪し、無事に仲直りが出来たそうだ。

 アカネちゃんは俺についても、自分を庇っただけだから、許してあげて欲しいと頼んでくれたらしい。


 アカネちゃんはいい子だったんだな。

 後は俺がホノカに正直に言って、謝るだけか……


 俺はなんて謝ればいいか、一晩中、悩み続けた。

 



 ◆◇◆




 そして、翌日。

 今日でダンジョン祭も最終日である。


「相棒、寝てねーけど、大丈夫か?」


 シロが後ろから心配して声をかけてきた。


「このくらい問題ねーよ。しかし、目のクマがなー」


 俺は鏡台に座り、ファンデーションで目の下のクマを隠す作業に必死だ。


「まあ、ゆっくり気の済むまでやれや。でも、今日は夕方からだろ? 寝たら?」


 昨日のタイムアタックは朝一であったが、今日は逆にトリである。

 ハヤト君はやっぱり持ってる男だと思う。


「別に眠くねーよ。それに午後からハヤト君に呼ばれているんだよ」


 ハヤト君は今日の打ち合わせをしておきたいらしい。

 昨日の失敗を悔やんでいるのだろう。


「そうかい。ハヤトは頑張るねー」

「さすが勇者様(笑)だわ。1年の時くらいは楽しめばいいのに」


 2、3年生になると、就活の場となるので、皆、必死になる。

 まあ、ハヤト君は協会がなんとかするだろうから関係ないのかもしれない。


「こんなもんかなー? どう?」


 俺は後ろを向き、化粧の出来をシロに確認する。


「いいんじゃね? かわいい、かわいい。でも、それくらいにしとけ。お前はあまり濃くしないほうがいい」

「わかったー」

「ハァ……相棒の将来が心配だわ」


 俺の将来は順風満帆って、決まってるんだよ!





攻略のヒント

 4日目のモンスター討伐の各モンスターの討伐ポイントは以下の通り。

 ただし、範囲は6階層までとし、制限時間は3時間とする。


 スライム 1ポイント

 ゴブリン 2ポイント

 カメレオンフロッグ 10ポイント

 おばけこうもり 4ポイント

 オーク 10ポイント

 エリートスライム 10ポイント


『ダンジョン学園東京本部生徒への配布資料 モンスターの討伐ポイントについて』

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