第057話 モンスター討伐


 俺は夕方のモンスター討伐の競技の前に、ハヤト君に呼び出された。

 場所は協会の2階にある応接室である。


 俺は昼飯を食った後、協会に行き、2階の応接室へと入っていった。


「オッス! 皆、いるみたいだな。遅れてわりー」


 俺が中に入ると、すでにメンツはそろっており、皆、無駄に豪華なソファーに座っている。

 しかも、クーフーリンまでいる。


「こんにちわ。まだ時間はきてないから遅刻じゃないよ」

「お姉様は今日も元気だね。お化粧も似合ってるよ」


 俺が挨拶すると、アヤとマヤが立ち上がり、出迎えてくれた。


「わざわざ来てもらって悪いな。まあ、座ってくれ」


 俺はハヤト君に促され、アヤとマヤと共にソファーに座る。


「お前、化粧なんてするのか?」


 クーフーリンが俺の顔をジロジロ見ながら聞いてきた。

 

 女の顔をそんなに見るなよ。

 こいつ、絶対にモテないな。


「昨日、寝てなくてなー。目の下のクマがひどいから隠してるんだよ」

「そ、そうか。じゃあ仕方ないの……かな?」


 クーフーリンは納得したようだ。


「寝てないって、大丈夫か?」


 ハヤト君が不安げに聞いてきた。


「問題ねーよ。少なくとも、足は引っ張らねーから安心しろ」

「そうか。わかった。じゃあ、打ち合わせを始めよう」

「はいよ」


 ハヤト君は安心したのか、今日のモンスター討伐の確認を始めた。


「まず、狙うのはオークにしようと思う」

「いいんじゃね?」

「まあ、妥当だな」


 ハヤト君の結論に俺とクーフーリンは賛成する。


「何で、オークなの? オークのいる階層まで時間がかかるし、低階層でたくさん狩ったほうが良くない?」

「だよね。スライムはともかく、ゴブリンやビッグラットのほうがポイントを稼げそう」


 アヤとマヤは納得できないようで、質問してきた。

 それにクーフーリンが答える。


「そう考えるヤツが多いからだな。その辺には他の学生が集まる。特にオークを狩れないヤツらは間違いなく、そこを狩り場にする。そうなると、必然的に狩る量が減るんだ。モンスターだって、数は限られているからな」


 モンスター討伐は同一時間に10パーティーが集まり、順次スタートすることになっている。

 そのパーティーの大半は2~4階層でモンスターを討伐するだろう。


「しかし、5階層まで行くのは骨が折れますよ」


 土井も不安のようだ。

 やはり、昨日のことが尾を引いているのだ。


「お前らの昨日の記録は1時間半くらいだろ? 残りの1時間半でオークを狩ったほうがポイントが高いんだよ。幸い、お前らはもうオークで苦労はしないだろ」


 俺も昨日の戦闘を見ていた感じ、そう思う。


「でも、勝てるかな? ≪フロンティア≫も≪魔女の森≫もオークを狙うんでしょ?」


「だろうな。ってか、勝つ気なん?」

「そりゃあ、やるからには勝ちを狙いますよ」


 それは難しいと思うぞ。


「まあ、狙う分には構わねーけど、お前らは1人少ないからな。すげー不利だぞ」


 俺が戦闘に参加しないため、単純に戦力が1人少ない。

 その分、倒せるオークの数も減るのだ。


「それはわかってます。でも、頑張りますよ」


 ハヤト君はあくまでも優勝を狙うみたいだ。


 その後、細かい打ち合わせを続けていると、時間になった。


「よし、時間だ。行こう」


 俺達はハヤト君の号令で立ち上がると、ダンジョン入口へと向かった。


 ダンジョン入口に着くと、多くのパーティーが揃っていた。

 その中にはお姉ちゃんとホノカの姿も見える。


 俺達が周りの出場者を見渡していると、伊藤先生がやってきた。


「来たか。よし、お前ら5名の参加を認める。今日も私が補助員を務めることになる。ルールは昨日と同様だ。半数以上が死亡した場合、私が手助けを必要と判断した場合で失格となる。あと、今日は神条が手を出した場合は失格にならない。しかし、討伐ポイントが入らない。いいな?」


 俺が手を出した場合で失格にならないのは、昨日よりも危険な競技だからだろう。

 競技の成立よりも、人命のほうが大事だ。


「わかりました。今日もよろしくお願いします」

「よし、あと少しで開始時間だ。同時スタートは混みあうから、5分ごとに上級生から順番にスタートになる。お前らは最後だ」


 上級生が早いのは、就活のためである。

 ここには俺達の他にも1年がいるが、皆、楽しそうな笑顔だ。

 しかし、上級生の大半は険しい表情をしている。

 お姉ちゃんはいつも通りの可愛い笑顔だけど。

 ホノカは…………こっちを睨んでる!


 アカネちゃーん!


 俺はスッと目を逸らしてしまった。


「相棒、ちゃんと謝るんだぞ」


 情けない俺にシロが忠告してきた。


「わかってる。この競技が終わったらホノカの所に行くよ」


 俺は昨日から悩み続け、ようやく決まった謝罪の言葉を心の中で練習する。


「ちゅうもーく! これより、モンスター討伐の競技を行う。指示された順番に並びなさい!」


 審判が皆に聞こえるような大きな声で、競技開始を知らせてきた。


 モンスター討伐の結果は、パーティーに同行している補助員が後日、集計し、討伐したモンスターが有効か無効かを判定することになっている。

 そのため、現在のトップが何ポイントなのかはわからない。


「皆、準備はいいか?」

「うん」

「頑張る」

「問題ない」


 土井もロリ姉妹もやる気に満ちている。


「神条、頼むぞ」

「任せとけ!」


 ハヤト君が俺にも声をかけてきたので、俺は手に持っている箒をハヤト君に向け、カッコよくポーズを取った。


「…………頼むぞ」


 あれ、スベった?

 いや、君の緊張をほぐそうとしただけなんだよ?


 俺がスベっていると、競技がスタートした。


 上級生が多いパーティー順にスタートしていき、ようやく、俺達の順番になり、俺達もダンジョンへと入っていった。


 ハヤト君は昨日よりかはゆっくりだが、駆け足で1階層を最短距離で駆け抜ける。

 その後ろに土井、ロリ姉妹と続き、さらに、その後ろに俺と伊藤先生が続く。


 道中に遭遇したスライムは先頭のハヤト君が一撃で倒していった。

 スライムを倒す度に俺の隣にいる伊藤先生がカウンターでカウントしてる。


 俺は暇だなーと思いながら、ついていくと、2階層への階段に到着した。

 ハヤト君はそのまま2階層へ行き、再び、走り出す。


「暇だなー。おい、シロ、≪メルヘンマジック≫に空を飛ぶ魔法はないのか?」


 俺は手に持っている箒を見ながら、シロに尋ねた。


「あるぞ」


 すげー!


「マジで? レベルは?」

「5だな」

「まだ先だなー。でも、それを優先するわ」

「空を飛びたいのか?」

「そりゃあ、そうだろ。罠とか回避できるし、楽しそう」

「まあ、≪メルヘンマジック≫は強力な魔法が多いし、損はしないから好きにしろよ」


 しかし、最近、レベルが上がんないんだよなー。

 20階層以降に行かないと、やっぱり無理かね?


 俺は仲間と足並みをそろえているため、自分の適性階層よりも、はるかに低い階層を探索している。

 そのため、ズメイを倒して以降は、まったくレベルが上がっていない。


「ラブラブファイヤーも欲しいし、レベルを上げねーとな」

「だな」

「プッ」


 隣から噴き出した声が聞こえてきた。

 もちろん、伊藤先生である。

 ラブラブファイヤーがツボだったらしい。


「なあ、≪メルヘンマジック≫のレベル2はラブラブファイヤーだけか?」


 俺は噴き出した伊藤先生を無視し、シロに≪メルヘンマジック≫について聞く。


「あと、ラブリーストリームだな」


 また、ラブリーかよ。

 本当に魔女というより、女児アニメの魔法少女だな。


「どんなんだ?」

「ラブリーアローがいっぱい出てきて、敵をズタズタに切り裂く」


 女児アニメが18禁グロアニメに変わった。

 すごいとは思うが、そんなところで悪い魔女の要素を出すなよ。


 俺はバランスの取り方がおかしいと思ったが、強いことに変わりはないので、やっぱり習得しようと思った。


「虫エリアのこともあるし、早めに取っておくか」

「そうしろ。また、試練でも受けるか?」


 あのエクストラステージのズメイか。


「嫌だよ。報酬や経験値は欲しいが、割に合わん。ってか、狙って行けねーよ。下手したら深層に行って全滅だろ」


 エクストラステージはワープの罠でしか行けないため、リスクがでかすぎる。


「まあ、無理にとは言わねーよ。地道にレベル上げをするんだな」

「そうする」


 俺とシロが会話している間に、ハヤト君達は2階層を突破した。

 道中のゴブリンも問題なく瞬殺し、順調にオークのいる5階層を目指している。


 3階層でも、ハヤト君は今のペースを落とさず、突破した。

 4階層への階段の所で、土井とロリ姉妹の調子を確認する余裕もあり、昨日よりも早いペースで来ていた。


「これまで誰とも会わなかったな」


 4階層へ降りる前に、ハヤト君が後ろを向き、声をかけてきた。


「俺達とは向かっている階層が違うからな。4階層に行く連中は俺達よりも速いペースで向かっている。多分、次の階層にいっぱいいると思うぞ」


「戦闘に巻き込まれるのも面倒だな。遠回りになるかもしれないけど、なるべく避けていこう。神条、ルート案内を頼む」


 まあ、就活に必死な先輩達の邪魔をしたら悪いし、それが無難か。


「りょーかい」


 俺はハヤト君の言うことも、もっともだと思い、了承した。


「地図を見るか? 持ってきているけど」

「いらない。4階層はシズルとよく来てたから覚えてる」


 4階層に出てくるビッグラットとおばけこうもりはシズルと相性が良いため、まだちーちゃんと出会う前は、4階層でシズルのレベル上げをしていたのだ。


「なら、このまま行こう」


 ハヤト君はそう言って、階段を降りて行く。

 俺達もハヤト君に続き、4階層へと向かった。





攻略のヒント

 各クランリーダーへ


 ダンジョン学園東京本部の1年江崎ハヤトへの勧誘を規制する。


 江崎ハヤトを勧誘したい場合は、必ず、事前に協会に報告し、東京本部本部長の承認を得ること。


『各クランへの緊急連絡事項 江崎ハヤトについて』

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