第051話 12階層と13階層
俺がハヤト君のパーティーでダンジョン祭に参加することが決まった後、パーティーメンバーにその事をシズルと一緒に伝えると、すんなり納得してもらえた。
やはり、瀬能を紹介してもらった恩があるからだろう。
文句を言うかと思ったアカネちゃんも意外にも納得しており、アカネちゃんも成長したんだなと思っていたが、スパイをやれと言われた時には、さすがにダメだこいつと思った。
そして、後日、ダンジョン探索を行うために、協会に集まった。
「いよいよ、来週からダンジョン祭が始まるね」
シズルは楽しみを隠しきれない様子である。
「まあな。俺はその前に補習があって、テンションがた落ちだがな」
今日の授業中に、この前やった中間テストが返ってきた。
俺は免許を持ってるし、専門は余裕だろと高を括っていたのだが、結果は散々であった。
逆に一般科目は勉強していたため、赤点はクリアした。
テストを返却された時に、伊藤先生からお前は本当にCランクかと確認された時は何も言い返せなかった。
「え? 赤点取ったの? あんた、何してんの?」
「しかも、専門だそうです」
ちーちゃんが呆れて言うと、シズルが追撃をかけてくる。
「専門って……まずくない? あんたCランクだろ?」
「わかってるわ! 俺も余裕だと思ってたが、あんなに難しいとは思わなかったんだよ!」
中等部では専門のテストはないし、免許を習得した時のテストはハッキリ言って、あってないようなものだったのだ。
瀬能やちーちゃんに聞くなりして、もう少し、テスト内容を調べておくべきだったと後悔している。
「見事にフラグを回収したな。補習はいつからだ?」
瀬能が笑いながら聞いてくる。
「明日から。悪いが、ダンジョン探索は今日を終えたらダンジョン祭終了まではお預けだ。どうせなら、お前らだけで行ってもいいぞ」
「そうしようかな。来週のダンジョン祭に向けてレベル上げしておきたいし」
瀬能はレベルが高いから、ダンジョン祭までには上がらないかもしれないが、シズルや後輩2人は低レベルだから上がる可能性もある。
「そうしろ、そうしろ。ちなみに、アカネちゃんは? お前も補習だろ?」
俺は仲間が欲しくてアカネちゃんに尋ねるが、満面の笑みを浮かべているアカネちゃんを見れば、結果は一目瞭然である。
「フフフ。補習? 私は全科目ギリギリで回避しましたよ! センパイとは違うんです!」
くそっ!
アカネちゃんのくせに!
「まあ、ギリギリでも赤点回避ならいいか。でも、あんたら、期末はもう少し勉強しなよ。中間より難しいんだから」
ちーちゃんは賢いし、シズル、瀬能、カナタは優等生だ。
「シロを使ったカンニングを思いついたのに、シズルに怒られたし、勉強するしかねーか……」
俺は名案を思い付いたとシズルに話したら、怒られ、口を聞いてくれなくなった。
俺は慌てて、冗談だと弁明した。
あいつ、最近、俺を無視することがある。
泣いちゃうぞ!
「本当に最低なヤツだね」
「ルミナ君、絶対にやったらダメだよ」
ちーちゃんは俺を非難し、シズルは再度、忠告する。
わかってるよー。
「まあまあ、期末は過去問を貸してあげるから、それで勉強しろよ」
瀬能先輩…………
こいつ、なんて良いヤツなんだ。
「私の分は!?」
赤点ギリギリのアカネちゃんも自分の分を要求する。
「2年前のでいいなら貸すよ。補習でダンジョン攻略が滞りたくないからね」
ですよね。
ごめんなさい。
◆◇◆
俺達はその後、マイちんの所に行き、ダンジョン探索の申請を行い、ダンジョンへと向かった。
ちなみに、俺のテスト結果は専属であるマイちんにも伝えられており、マイちんに説教をされた。
また、Bランク昇格が遠退いたのである。
ダンジョンに入ると、明日からダンジョン探索が出来ない俺は時間がないため、以前に探索した11階層まで最短ルートで向かった。
道中のモンスターは俺の≪索敵≫やシズルの≪諜報≫で察知し、戦わずに避けてきた。
10階層のボスは倒さないといけないのだが、以前と同様にあっという間に倒した。
このパーティーなら当然である。
そして、11階層も瀬能をタンクに置くフォーメーションでモンスターを倒しつつ、突破し、俺達は12階層に到着した。
「12階層に出てくるモンスターはウルフとスケルトン、そして、魔法を使ってくるメイジアントだよ」
12階層につくと、出現モンスターを調べてくれていたちーちゃんが教えてくれる。
「スケルトンは俺も知ってる。ただの骨モンスターだな。メイジアントは?」
俺も以前に調べてはいたが、完全に忘れてしまった。
「メイジアントはでかい蟻だよ。弱いモンスターだけど、火の魔法を使ってくる。しかも、魔法に耐性がある。こいつは厄介だからルミナちゃんが突っ込むなりして早めに倒して」
「りょーかい」
俺の得意分野だな。
それしか出来ないとも言うが。
「この階層も苦はなさそうだな。瀬能、頼むぞ」
「任せておいて」
俺達は確認を終えると、奥へと進んで行った。
「敵が3体来る」
奥へと進んでいくと、シズルの≪諜報≫が敵を捉えたようだ。
俺も≪索敵≫で確認するが、確かに、敵が3体来ている。
2体はスケルトンであり、もう1体は知らないモンスターであることから、おそらくメイジアントであろう。
「スケルトンが2体で、おそらくメイジアントが1匹だ。メイジアントは俺がやる」
俺は索敵結果を仲間に告げ、予定通りに俺がメイジアントを倒す事を伝えた。
「了解。スケルトンは火に弱いからカナタ君に頼もうか」
瀬能がちーちゃんに確認する。
「いいと思うよ。カナタ、スケルトンが視認できたら、どちらか1体でいいから火魔法を使って」
「わかった。任せといて」
ちーちゃんがカナタに頼むと、カナタは姉の頼みを了承した。
「来たぞ」
俺はモンスターの接近を仲間に告げると、ダッシュでメイジアントに近づく。
メイジアントの前には剣を持ったスケルトンが2体いたが、動きが鈍いスケルトンの間をすり抜け、メイジアントの目の前にまで接近した。
メイジアントは大型犬くらいある赤い蟻であり、近くで見ると、正直、気持ち悪い。
メイジアントは接近した俺に火魔法を使おうとしているのか、前足をワシャワシャと動かしている。
マジでキモいな。
俺はもう見たくなくなって、さっさと倒そうと思い、アイテムボックスからハルバードを取り出し、メイジアントに叩きつけた。
「死ね!」
すると、メイジアントは予想以上に柔らかかったらしく、グチャっとつぶれてしまった。
そして、そのまま煙となって消え、魔石を残した。
メイジアントを倒した俺の手には、先ほどの気持ち悪い感触が残っており、俺は今度からは魔法で倒そうと決意した。
メイジアントを倒した後、スケルトンはどうなったかなと思い、後ろを確認すると、スケルトンは既に1体しか残っておらず、その1体も瀬能のシールドバッシュで吹き飛ばされ、壁に当たった後に煙となって消えた。
「終わったー?」
俺は後ろの仲間に声をかける。
「ああ、終わったよ。1体はカナタ君の魔法で、もう1体はボクがやったよ」
瀬能が見ていなかった俺のために、戦いの経過を教えてくれた。
「お前のは見てたわ。スケルトンならお前と相性が良さそうだな」
スケルトンは骨モンスターであるため、槍で突いたり、剣で斬るよりもハンマーなどの打撃系が有効である。
瀬能の盾は大きく、防御だけでなく、シールドバッシュを使えば、打撃力も高い。
そのため、短剣が武器のシズルよりも瀬能のほうがスケルトンには相性が良いのだ。
「まあね。そっちはどうだった?」
「マジでキモかった。でかい虫系は近づくもんじゃねーわ。今度からは無理にでも魔法で倒すからそのつもりで」
「そうしてもらえる? 私は虫はちょっとダメなの」
俺が瀬能にメイジアントを倒した感想を伝えていると、シズルが嫌そうな表情を浮かべ、話に入ってきた。
「お前もか。俺も虫はダメだから今度からは魔法で瞬殺するわ」
オークやゴブリンの不細工顔は大丈夫なのだが、大型の虫は生理的に無理である。
「お前らそんなんじゃ、20階層以降にある虫フロアで苦労するぞ」
俺とシズルが虫嫌いを共感していると、俺の服の中からシロが出てきた。
「虫フロア? なんだその最悪なフロアは?」
「そのまんま。虫系しか出ないフロアだ。23か24階層だったと思う」
「そこはスルーしてーな。もしくは、瀬能に全部任せよう」
「瀬能先輩、お願いします」
俺とシズルは瀬能にお願いすることにした。
「いや、ボクも嫌だよ」
でしょうね。
あれを好きと言えるのは変態だ。
「どうしよう?」
「相棒、レベルが上がったら≪メルヘンマジック≫をレベル2にしろ。そうしたら、ラブラブファイヤーを使えるようになる」
ら、ラブラブファイヤーだと。
「…………なにそれ?」
「ふふ」
シズルが思わず笑ってしまっている。
俺も自分の事じゃなかったら、笑っていると思う。
ちなみに、瀬能は真顔だ。
完全に笑いに耐えようとしている顔である。
「可愛い炎が全てを焼きつくしてくれる便利な魔法だ」
「まあ、ラブリーアローやパンプキンボムの例があるから、きっとオーバーキルな魔法なことはわかる。しかし、≪メルヘンマジック≫はそんなのばっかか?」
本当に魔女っ娘ルミナちゃんがデビューしちゃうぞ。
「そんなんばっかだ。安心しろ。強い魔法ばっかりだから。とにかく、虫が嫌ならラブラブファイヤーで焼きつくせ」
まあ、虫と接近戦するよりは良いか。
「じゃあ、取るよ。最悪、シズルの火遁かカナタの火魔法に任せよう」
「ルミナ君に任せるわ」
「僕も神条さんに任せます」
カナタも虫は嫌らしい。
「じゃあ、それまでに取れるようにレベル上げするか」
俺達はその後も12階層でモンスターを倒していき、12階層を突破した。
その間にシズルとカナタとアカネちゃんのレベルが上がった。
シズルは≪忍法≫をレベル2にしたいらしく、スキルポイントを貯めるらしい。
カナタも≪火魔法≫をレベル3に上げたいらしく、スキルポイントを貯めるようだ。
アカネちゃんは≪高速詠唱≫のレベルを2に上げた。
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名前 柊アカネ
レベル6→7
ジョブ プリースト
スキル
≪身体能力向上lv1≫
≪怪力lv1≫
≪回復魔法lv2≫
≪高速詠唱lv1→2≫
☆≪逃走lvー≫
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そして、俺達は13階層に到達した。
ちーちゃん情報では、13階層に出現するモンスターはスケルトン、メイジアント、そして、飛びクラゲらしい。
飛びクラゲの触手に当たると、麻痺になるようだ。
俺達が13階層を探索していると、俺の≪索敵≫が知らないモンスターを3匹ほど感知した。
「多分、飛びクラゲが3匹いる」
「ボクは麻痺になりたくないから、君達で頼むよ」
瀬能は俺とシズルにそう言い、後ろに下がった。
ちーちゃんが言うには、飛びクラゲは遅いうえに、攻撃力もないらしい。
しかし、魔法に耐性があるようで、武器で倒さないといけない。
しかも、麻痺攻撃があるため、回避力が皆無なタンクは相性が悪い。
俺達は俺とシズルを先頭にして、先を進んだ。
すると、目の前にはプカプカと浮かぶ半透明なクラゲが漂っていた。
「シズル、行くぞ!」
「うん!」
俺とシズルは飛びクラゲにダッシュで接近する。
シズルは飛びクラゲに近づきながら、投げナイフを投擲した。
すると、投げたナイフは1匹の飛びクラゲに命中する。
ナイフが当たった飛びクラゲは地面に落ちた。
「食らえ!!」
俺は地面に落ちた飛びクラゲにハルバードを叩きつけ、1匹目の飛びクラゲを倒した。
「ルミナ君、右!!」
俺はシズルの声に反応し、右を見ると、俺の目の前には別の飛びクラゲがいた。
その飛びクラゲは触手を俺に向かって振るう。
「いてっ!」
飛びクラゲの触手が俺の右腕に当たった。
「死ね!」
俺は右腕に若干の痛みを感じたが、気にせず、ハルバードから右手を離し、裏拳をお見舞いしてやった。
俺の裏拳を食らった飛びクラゲは壁の方に飛んでいき、そのまま壁に当たり、べちゃっと潰れた。
そして、そのまま、煙となって消えた。
俺はもう1匹を確認しようとシズルの方を見ると、シズルはすでに飛びクラゲを倒していた。
「ルミナ君、大丈夫?」
攻撃を食らった俺を心配したのか、シズルが俺に近づき、声をかけてきた。
「たいしたことない。しかし、触手に当たったのに麻痺にならなかったな。魔女になって良かったわ」
シロいわく、魔女は状態異常に強い。
まあ、ズメイの時も魔女になった途端に麻痺が治ったし、わかっていたことではある。
「この階層も余裕そうだな。次に行くぞ!」
俺はアカネちゃんにヒールをかけてもらい、さらに奥へと進んだ。
俺達はこの階層も余裕で突破し、14階層へと到着した。
攻略のヒント
日本でエクスプローラが認められた当初はエクスプローラの数を増やすために、資格習得のハードルが低かった。
そして、とある国の習得条件をそのまま採用したために、未成年の習得も容易であった。
このことが後に問題となり、ダンジョン法が改正された。
『ダンジョン法の改正経緯について』より
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