第050話 結局、参加する
昼休みにお姉ちゃんのクラスを訪れ、お姉ちゃんにホノカの事を頼んだあと、いつも通り、午後の退屈な授業を終えた。
そして、放課後……
本日のダンジョン探索はお休みである。
パーティーメンバーの一部(小動物)から、さすがに毎日、ダンジョン探索するのは疲れるし、休む日を作りたいとの要望を受けた。
よって、仕方なく、週に何日かは、休みにすることになったのである。
俺としては、早く男に戻りたいため、極力休みを作りたくはない。
しかし、優しいことに定評のある俺は、他のメンバーの提案を受け入れることにした。
今日はこの後、特に用事もないため、シズルとどこかに出かけようかと思い、声をかけた。
「シズル、今日、ヒマ?」
「今日? ダンジョン祭で装備する防具を買いに行こうと思ってるけど」
あー、そうだ。
シズルの防具はエロいから他の学生と遭遇する可能性が高いダンジョン祭では、違う装備にしたほうが良いって俺が言ったんだった。
「協会の武具販売店に行くのか?」
ついて行きたいなー。
チラッ、チラッ。
「…………ルミナ君も来る?」
「行く」
わーい、デートだ、デートだ。
若干、シズルにうざがられた気がするが、まあ、いいか。
しかし、前にも似たような経験をした気がする。
そう、俺がシズルとデートをしようとしたら、邪魔が入ったのだ。
俺が嫌な予感を感じてると、教室のドアがガラガラと音を立てながら開いた。
そして、背の低い女子2人が教室に入ってきた。
その2人は同じ服装、同じ顔をしており、区別がつかない。
俺が訝しげな表情で、その2人を見ていると、その2人は慌てて、持っているカバンから白と赤のバレッタを取り出し、それぞれ装着した。
「……こんにちわ、お姉様」
「……こんにちわ、Rainさん」
俺達の教室に入ってきたのは、双子のアヤとマヤである。
「……こんにちわ、ロリ姉妹」
「うわ、似てる!」
俺が得意のロリ姉妹のモノマネであいさつを返すと、シズルは俺の努力の成果に驚いている。
「……私は誰でしょう?」
「……アヤかな? マヤかな?」
ロリ姉妹は俺達の前に並んで立つと、白のバレッタをつけたロリがクイズを出してきた。
「……お前はアヤだ」
「……正解」
当たったようだ。
まあ、区別をつけるために、バレッタを贈ったのは俺であるため、当たり前だが。
「そのバレッタ、可愛いね? どうしたの?」
実はロリ姉妹と仲が良いシズルは、見たことがない紅白のバレッタを指差し、ロリ姉妹にバレッタの出所を聞く。
「……お姉様にもらった」
「……この人、私達の区別がつかないんだって」
「……ひどいよね?」
「……ひどい、ひどい」
ロリ姉妹はいつもの持ち芸で、俺をひどいとアピールする。
「そ、そうなんだ。……ひどい、ね……」
シズルはしどろもどろで同意するが、こいつも区別がついていなかったのは、この反応を見れば、誰が見ても明らかである。
「……ひどい」
「……どうせ、私達は2人セットな運命」
ロリ姉妹は悲しんでいるが、こんなにそっくりな双子の見分けなんてつくわけがない。
ましてや、仲が良いとはいえ、クラスも別だし、付き合いも長くない。
しかも、こいつらはこいつらで服装や仕草まで一緒にしている。
「ご、ごめんね」
「どうでもいいけど、何の用だ? 土井なら帰ったぞ」
シズルは謝っているが、俺はわざとらしく落ち込んでいる2人に用件を聞く。
「……タケトはどうでもいい」
「……用があるのはお姉様」
「普通に喋れ」
その芸も嫌いではないが、今はさっさと話してほしい。
何故なら、これからデートに行くからだ。
「今日はダンジョン探索がお休みなんだ」
「そうそう。それでちょっとお姉様に頼みがあるの」
「あれ?」
シズルはロリ姉妹の急激の変化に驚いている。
こいつらはアカネちゃんと同様にキャラ作りをしている。
どうやら双子キャラをアピールしたいらしい。
「俺に? なんだ? 金なら貸さんぞ」
はよ帰れ。
シズルとのデートを邪魔すんな。
「お姉様にだけは絶対に借りない。人生終わりそう」
「わかる。実は私達とダンジョン祭に出てほしいんだ」
双子はそう言うと、2人揃って手を合わせ、お願いのポーズをとる。
「嫌」
「ガーン!」
「何で!?」
マヤが古臭いリアクションをとり、アヤが理由を尋ねてくる。
「いや、自分のパーティーが出場するのに、リーダーが裏切って、他所のパーティーに参加できるかよ。ってか、何で俺なんだ?」
「そこをなんとか」
「私達は4人しかいないし、ローグがいない。いつもはクーフーリンがやってくれてるんだけど、あいつは学生じゃないから参加できないの」
こいつらの≪勇者パーティー≫は勇者のハヤト君、タンクの土井、そして、こいつらがメイジとヒーラーだ。
確かに、ローグがいない。
しかし、クーフーリンは槍を使う≪ランサー≫だ。
ローグ系ではなく、思いっきり前衛のファイターである。
「クーフーリンはローグが出来るのか?」
「元はローグ系の≪密偵≫だったらしいよ」
「槍を使いたくて、頑張ったんだってさ」
クーフーリンは俺と同じ第二世代のエクスプローラである。
第二世代のエクスプローラは、自分に合ったジョブよりも、自分がなりたいジョブになるべきだという風潮があった。
そのため、適性のないジョブになるために努力家が多く、実力者が多い世代である。
しかし、その分、個人主義者が多く、問題だらけの世代でもある。
「なるほどね。クーフーリンが参加できないから、ローグ系のスキルを使える俺に助っ人を頼みたいわけか」
「1年は余っている人がいないの。上級生は頼みにくいし、お願い」
「瀬能先輩を紹介したでしょ……タケトが」
それを言われると断りにくいなー。
「うーん、どうしよう?」
俺は副リーダーに意見を聞くことにした。
「確かに、瀬能先輩を紹介してもらったし、参加したら? 他の人達には私から説明しておくよ」
仕方がないか…………
恩ある相手だし、ハヤト君の勇者騒動で俺のTS騒動を沈静化してもらった経緯もあるしな。
「わかった。でも、俺は戦闘には参加しないぞ。あくまでも助っ人ローグとしての参加だからな」
俺が戦闘に参加すると、また批判される。
もう、ヒエヒエは嫌だ。
「やった!」
「ありがとう。ウチのパーティーと集まって、スキル確認とかする?」
「いらない。俺は戦わねーし、お前らはお前らでやれ。ところで、何の競技に参加するんだ?」
こいつらが活躍できない罠解除の競技には出場しないだろう。
あれはローグ系の種目だ。
「タイムアタックとモンスター狩りに参加する予定だよ」
「打倒≪フロンティア≫!!」
ウチが出る競技と完全にかぶってますけど……
「ウチのパーティーもそれに参加するわ」
「「打倒≪魔女の森≫!!」」
「コラ!」
もしかして、俺、仲間から白い目で見られないだろうか?
パーティーメンバーの中で一番年下の女の子が親友との仲直りのために頑張る。
そして、それを支える仲間たち。
……そして、違うパーティーに入り、敵対するリーダー。
ダメじゃね?
そんなヤツ、リーダー失格だろ。
「あのー、やっぱり辞めてもいい?」
「「え!?」」
喜んでいた双子は俺の言葉で表情が一変した。
「俺、≪魔女の森≫のリーダーだし、やっぱりマズいような気がする」
「大丈夫だよ。≪魔女の森≫は参加する5人が決まっているんでしょ?」
「そうそう。ダンジョン祭当日に暇してるくらいなら参加したほうが良いよ」
ダンジョン祭が開催される4日間は、ダンジョン祭参加者貸し切り状態にするため、ロクロ迷宮は閉鎖される。
よって、参加しない者は休日になるのだ。
確かに、当日はダンジョン探索も出来ないので、家でゴロゴロする予定だった。
「うーん、大丈夫かな? 皆の忠誠度が下がらないかな?」
俺はシズルに確認する。
「元々、ルミナ君に忠誠度を持っている人なんていない……いや、まあ、1名いるかもだけど、大丈夫よ。少なくとも、チサトさんと瀬能先輩は理解してくれると思うわ」
確かに、あの2人は理解があるし、やる気もなさそうだから、大丈夫そうだ。
カナタも問題ないし、アカネちゃんは嫌味を言うと思うが、無視すればいいか……
ダンジョン祭に参加すれば、学校の成績に加味されるらしいし、出たほうがお得だ。
エクスプローラ免許を持つ俺は、実技のテストは免除である。
しかし、座学は受けなければならない。
この前もテストがあった。
そして、自信がない……
「じゃあ、いいか」
「やった!」
「気が変わらないうちに、申請しに行こう」
え?
これからシズルと出かけるんだけど……
チラッ、チラッ。
「ハァ……私もついて行くよ」
シズルはうざいアピールをする俺に、ため息をつくが、ついてきてくれるらしい。
「……Rainさん、やさしい」
「……お姉様、うざい」
「……うるさい」
「本当に似てるね」
俺達は教室を後にし、俺のダンジョン祭参加の申請を行うために、職員室へと向かった。
「そういえば、ハヤト君は? あいつがリーダーだろ」
普通、こういう話はリーダーがするもんじゃねーの?
職員室に向かう道中、俺はハヤト君がいない事が気になったので、ロリ姉妹に聞いてみた。
「ハヤトは協会に呼び出しを受けた」
「最近、多いよね。多分、パーティーメンバーの事だと思う」
こいつらのパーティーの6人目を決める話し合いか。
「お前らは行かなくて良いの?」
「めんどくさいし、ハヤトに任せる」
「そうそう。最近の協会はバタバタしてて、落ち着かないし」
バタバタしているのは、例の暴行事件の後始末や来月の発表の準備のためだろうな。
この前、マイちんに会った時も忙しそうだったし。
「クーフーリンって、プロの人が入ったことは聞いてたけど、6人目もプロなの?」
シズルも気になっているらしく、ロリ姉妹に尋ねた。
「うん。プロのエクスプローラということは決定してる」
「候補が何人かいるみたいだけど、まだ、誰かは決定してない」
まだ決まってないらしい。
しかし、クーフーリンにしても、プロで飯食ってる連中がよく学生のパーティーに参加する気になるな。
俺だったら絶対に嫌だわ。
ましてや、勇者様(笑)だぜ?
俺達が雑談しながら歩いていると、職員室に到着した。
ロリ姉妹は失礼しますと声を揃えながら職員室のドアを開け、近くにいた教員に声をかける。
そして、ダンジョン祭参加申請の担当である伊藤先生を呼んでもらった。
「なんだ、またお前らか……」
昼休みにも来ているので、当然の反応ではあるが、可愛い教え子が来たのだから、もう少し優しくしたらどうでしょう?
「ダンジョン祭の参加申請に来ました」
「来ましたー」
ロリ姉妹が用件を告げる。
「お前らはすでに申請してるだろ……雨宮も昼にしたな…………神条、お前か?」
伊藤先生はロリ姉妹、シズルを見て、最後に俺を訝しげに見る。
「助っ人でこいつらのパーティーに参加します」
「…………お前もここの生徒だし、参加資格はあるが、ダンジョン祭は学生が自分の実力を確認する演習だぞ。そして、就活の場でもある。空気を読め」
伊藤先生は俺に諭すように言い、辞退するように促してきた。
「こいつらのパーティーにローグがいないんで、頼まれたんですよ。自分のパーティーも参加するし、戦闘は参加せず、斥候だけやるつもりです。俺だって掲示板で叩かれるのは嫌です」
かつて、俺が優勝をかっさらったあの日、川崎支部の掲示板は”空気読め”の大合唱だった。
さすがにへこんだ。
「うーん、それならいいの……か? でも、優勝したら叩かれると思うぞ」
「大丈夫。優勝は≪フロンティア≫でしょ。いくらハヤト君が有望だからって、3ヶ月やそこらで≪フロンティア≫には勝てないでしょうよ」
まあ、ハヤト君の実力も≪フロンティア≫も知らねーけど。
さすがにそこまで強くない……よね?
「まあ、そうか。でも、江崎はかなり優秀だからなー。うーん、よし、神条は戦闘に参加しないことを条件でダンジョン祭の参加を認めると通知してやろう。それならば、文句も出ないだろ」
「そんなことができんの?」
「来週、玄関の所の掲示板にダンジョン祭の参加者名簿を貼るからな。そこに注意書きをしておけばいいだろ」
≪勇者パーティー≫が参加するのは戦闘がメインのタイムアタックとモンスター狩りだ。
確かに、戦闘に参加しないと書いておけば、俺が叩かれることもない。
「なるほど。じゃあ、すみませんが、それでお願いします」
「任せておけ。しかし、お前が他人のためにそこまでやるとはなー。人は成長するもんだな。お前が川崎支部から移ってくると聞いた時には先生達も頭を抱えたもんだ。やはり女になったからか? それとも、雨宮と組んだことが良かったか?」
伊藤先生はうんうんと頷きながら、聞いてくる。
「俺は昔から優しいぞ。不当に評価されていただけだ」
「そうか? 私が現役だったころから、問題行動で有名だったぞ。ウチの旦那も本当に中学生かと疑っていた」
伊藤先生は元Bランクエクスプローラだ。
同僚の旦那さんと結婚して引退した。
旦那さんとは何回か会ったことがあるが、この人とは面識はなかった。
しかし、噂は聞いていたようだ。
「有名税ってやつですよ。俺は本当は真面目なエクスプローラなんです」
だから、この前の中間テストに色をつけてください。
補習は嫌です。
「ハァ……雨宮、こいつをちゃんと見張っていろよ。何をするかわからんヤツだから」
伊藤先生は失礼なことを言いながら、シズルに忠告した。
「よく言われますけど、大丈夫です」
……よく言われてるんだ。
ちょーショック。
攻略のヒント
ダンジョン学園の教師は一般科目を教える教師とダンジョン攻略のための専門科目を教える教師がいる。
専門科目を教える教師は現役を退いたエクスプローラが多い。
『ダンジョン学園 入学の手引き』より
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