第049話 仲直りとやる気
ダンジョン祭に参加を申請したあと、他のメンバーと別れ、俺とシズルは自分達の教室へと戻ってきた。
そして、俺は机に突っ伏している。
「ルミナ君、大丈夫?」
シズルが心配して、声をかけてくれる。
「大丈夫だよー」
「大丈夫じゃないね……どうしたの? 多分、ホノカちゃんのことだろうけど」
こいつはエスパーか!
何故、わかるのだ!?
「そんな驚いた顔しないでよ。アカネちゃんが仲直り出来そうなのに、自分は出来そうにないから落ち込んでるんでしょ?」
「なんでわかるの?」
シズル、すげー!
「そりゃあ、ルミナ君が落ち込むのって、大抵、お姉さんやホノカちゃんのことじゃない。逆にそれ以外で落ち込んでいるの見たことないし」
「そうか? まあ、実はそうなのだ。どうやったらホノカに許して貰えるか悩んでいる。このままでは、アカネちゃんだけが許して貰え、俺だけが責められる未来しか想像できない」
「お姉さんに相談したら? ホノカちゃんもお姉さんも実家暮らしだし、ホノカちゃんの様子も知っているんじゃない?」
なるほど。
お前は本当に賢いな。
「よし、シズル。お姉ちゃんの所に行こう」
「私も?」
「実はお姉ちゃんとも、微妙に気まずい状況だから、一緒に来てほしい」
お姉ちゃんはお姉ちゃんで、自分のせいでアカネちゃんが≪フロンティア≫を辞めたのを気にしているのだ。
ここはシズルを上手く使おう。
「いいけど、一緒に行っても、何も出来ないよ」
「いや、アカネちゃんはこっちで上手くやってるって、伝えてくれるだけでいいんだ。あとは俺が話す」
俺が言うと、信じてもらえない可能性が高い。
しかし、シズルはお姉ちゃんに気に入られているし、俺よりも信じられているだろう。
……言ってて、悲しくなるな。
「まあ、それくらいなら」
「よし、行くぞ」
俺はシズルを連れて、2階のお姉ちゃんのクラスに向かった。
お姉ちゃんの教室に着くと、そこには何故かちーちゃんがいた。
「あんたら、どうしたの?」
ちーちゃんが俺とシズルに気づき、声をかけてきた。
「ちょっと、お姉ちゃんに用があって。ちーちゃんこそ、何でお姉ちゃんのクラスにいるんだよ」
「いや、あたしもここのクラスだから。ってか、あんたと初めて会ったのもここじゃん」
そういえば、そうだ。
完全に忘れてたわ。
「そうだ、そうだ。ちーちゃんもここだったね」
「あんた、忘れてただろ」
「いやいや、覚えてたよ。ところで、お姉ちゃん、いる?」
「……絶対に忘れてたね。ミサキならジュースを買いに行っただけだから、すぐに戻ってくるよ。何の用? 宣戦布告でもするの?」
するわけねーだろ!
バカか!?
「神条家の仲を壊そうとするな。ホノカの事で相談があるんだよ」
「アカネちゃんがホノカちゃんと仲直りしても、自分は出来ないって、落ち込んでるんです」
シズルが横から補足説明する。
その通りだが、もう少し、オブラートに包んでほしいね。
「なるほどねー。そういえば、さっき、アカネがダンジョン祭に参加するのも、嫌そうな顔で賛成してたもんね」
「ですね」
あれ?
バレてます?
どうも俺は感情が顔に出てしまうみたいだ。
ポーカーフェイスって難しいな。
「気のせいだ。アカネちゃんとホノカには仲直りして貰いたいと思ってるぞ」
「それなのに自分は仲直り出来ないのが嫌なんでしょ?」
「そうそう、1人だけが嫌なんでしょ?」
この2人は付き合いもそこそこになってきたから、俺の心を読んできおる。
「あれ? ルミナ君とシズルちゃんじゃない。どうしたの?」
天使の声が俺のピンチを助けてくれる。
俺が声の方を振り向くと、そこにはもちろん天使様が降臨なされていた。
「お姉ちゃん! 実はお姉ちゃんに話があるんだ!」
「誤魔化すのヘタだねー」
「すぐに勢いで誤魔化しますよね」
お前ら、ちょっと黙れ!
「話? 何かな?」
「アカネちゃんの事なんだけどね……」
俺はアカネちゃんがホノカと仲直りするためにダンジョン祭に参加する事を説明した。
「なるほど。アカネちゃんも成長したんだね。あの子はいつもホノカちゃんの後ろにいたのに」
「そうそう。相変わらずのビビりだけど、ウチのパーティーで立派にヒーラーやってるよ」
ほら、シズル。
援護、援護!
「そうですね。私達はスキル構成が特殊な人が多いですし、アカネちゃんがいてくれて、助かります」
「まあ、アカネは良くやってくれてるよ。同じ中等部の弟とも上手くやってるし」
ちーちゃんも援護してくれた。
ナイスだ!
今度、ジュースを奢ってやるぞ。
「そっかー。上手くやってるなら良かったかな。実はあれからずっと考えてたんだけど、確かに、アカネちゃんは≪フロンティア≫では、あまり活躍することが出来てなかったかなーってね」
「それはプロの世界では良くあることだよ。どんなに優れたエクスプローラでも、環境次第では無能になるからね」
例えば、昔の俺のパーティーは前衛しかいなかった。
そんなパーティーに、どんな優秀なタンクが加入しても、お荷物にしかならない。
それと同じで、お姉ちゃんやホノカがいる≪フロンティア≫ではアカネちゃんは活躍できないのだ。
「そうだね。私もアカネちゃんはルミナ君の所に行って良かったと思うよ。でも、ホノカちゃんはね…………」
お姉ちゃんはアカネちゃんがウチに来たことは納得しているようだが、最後に言葉を濁した。
「それはあいつにキチンと伝えなかった俺が悪い。ホノカもアカネちゃんの事はわかってくれると思う」
「そうね。なんだかんだ言ってホノカちゃんも家では、アカネちゃんを気にしてる感じだから」
なら、アカネちゃんとホノカは大丈夫そうだな。
問題はここからだ。
「ちなみに、俺の事は何て?」
「………………」
お姉ちゃんは目を斜め下に逸らす。
え、えぇ…………
そんなにダメな感じなの?
お姉ちゃんは言いにくいことがあると、すぐに目を逸らす癖がある。
「あ、あのー、お姉ちゃん?」
「……ルミナ君は悪くないと思うよ」
目を逸らしたまま、言われてもー。
絶対に思ってないよね?
「ホノカちゃんも意地になっているの……かな? 私の方からも説得してみるけど、まずはアカネちゃんとの仲直りが先だよ?」
「……そうだよね。お願いします」
お姉ちゃんとの気まずさは消えたが、ホノカの方は先が見えない。
こうなったらアカネちゃんに頼るしかない。
頑張れ、アカネちゃん!!
「う、うん。ところで、ルミナ君もダンジョン祭に参加するの?」
お姉ちゃんが露骨に話を逸らしてきた。
「似てますねー」
「性格は似てないけど、こいつら、所々でそっくりだよ」
うるさいヤツらだ。
「俺は参加しないよ。他のパーティーメンバーが参加するんだ」
「そうなんだ。ちーちゃんも参加するとは思わなかったなー」
「まあ、一応、私もパーティーメンバーだしね。弟やシズルが参加したいって言うから」
「そっかー。あのさ、瀬能君も参加するんだよね?」
瀬能?
何故、ここで瀬能の名前が出てくる!?
「ルミナ君、拳を握りしめないで」
「顔も何とかしなよ」
落ち着けー、落ち着けー。
瀬能は大事な仲間じゃないか!
「瀬能も出るけど、何で?」
「おー、ルミナ君が耐えた」
俺は我慢強いのだ。
「ウチのリーダーの佐々木君が気にしてるんだよ。瀬能君と佐々木君は昔からのライバルだからね」
らしいね。
≪フロンティア≫は打倒≪魔女の森≫らしいが、優勝やアカネちゃんよりも、そちらに原因があるようだ。
「瀬能と佐々木とやらは、そんなに仲が悪いの?」
犬猿の仲ってやつかね?
「いや、そんなことはないよ。単純に学年トップを争ってる感じ」
お姉ちゃんに聞いたのに、何故かちーちゃんが答えた。
お姉ちゃんに聞いたんですけどー。
ちーちゃんはシャラップ!
「そうだね。でも、最近はちょっと差がついた感じかなー? 瀬能君はこの前の暴行事件より前から、あまりダンジョンに行ってないみたいだし」
「ふーん。佐々木とやらのレベルはいくつなの?」
「15だね」
思ったより高いな。
瀬能がレベル13だから差はあるだろうな。
ダンジョン学園の平均レベルは1年が2年になる時に7、2年が3年になる時には12くらいだ。
「確かに差があるね。だったら、瀬能を構わずに上を見ろよ。俺は24もあるぞ」
えっへん!
すごいだろー。
「ルミナ君はすごいね。でも、ルミナ君はスルーされてるよ」
まあ、プロだしね。
「ルミナちゃんはミサキやホノカの兄弟だから、相手にしにくいんだろ」
「なるほど。俺は佐々木とやらが嫌いだがな」
「ルミナ君、拳、拳」
シズルがなだめてくれる。
落ち着けー、落ち着けー。
「ふぅ……それで佐々木先輩は何で瀬能に構うの? ウチは今回のダンジョン祭では、結果よりも過程を大事にする方針なんだけど」
肝心なのはアカネちゃんは頑張り、シズルとカナタが楽しむことである。
瀬能とちーちゃんはそれに付き合う感じで、そこまでやる気もない感じだ。
「ここらで決着をつけるんだって」
「へー」
自分が優位な時に決着をつけようとするなよ。
だせぇな。
「あたしはどうでもいいや。瀬能も興味なさそう」
「確かに、そんな感じでしたね」
まあ、勝手にやってくれ。
多分だが、1年後には佐々木先輩は瀬能に抜かれてるな。
話を聞く限り、下ばかり見る佐々木先輩は完全に天狗だ。
プロになって、エクスプローラのトップを目指す瀬能とは雲泥の差である。
しかも、仲間に恵まれていない。
いや、恵まれすぎている。
他のパーティーメンバーのことは知らないが、お姉ちゃんやホノカの能力を自分の力と勘違いしてそうだ。
そのことをお姉ちゃんもホノカもやる気がないから注意すらしない。
いや、多分、このパーティーの綻びに気づいてもいないな。
教えたほうがいいかな?
多分、教えても意味ないと思うけど。
「お姉ちゃんさ、お姉ちゃんのパーティー危ないよ? ダメパーティーの要素が揃ってきてる」
「そうなの? どの辺が?」
「リーダーは天狗。お姉ちゃんとホノカは向上心がない。他の人達のことは知らないけど、上に行けるビジョンが見当たらない。今からでも遅くないから≪正義の剣≫を抜けたほうがいいよ」
以前、お姉ちゃんに相談された時に≪正義の剣≫加入に反対すれば良かったかもしれん。
少々、責任を感じる。
「まあ、そうかもね。でも、私はゆっくりやりたいから別にいいよ。まあ、一応、佐々木君には伝えておくね」
ほらね。
お姉ちゃんはマイペースだし、≪フロンティア≫にそこまで執着もない。
「言わなくていいよ。どうせ、聞かないから」
「あはは、私もそう思う」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんらしく、ゆっくりやりなよ。無理すると、父さんと母さんが怒るし」
「だね。でも、今度のダンジョン祭は負けないよー」
お姉ちゃん、かわいい。
「うん。俺は参加しないけど、他のヤツらが出るし、応援してるよ。お姉ちゃんも怪我しないようにね」
「ありがとう。ホノカちゃんのことは何とかしてみせるから」
「それについては本当にお願い。じゃあ、俺らは自分の教室に戻るわ。シズル、帰ろう」
「う、うん」
俺とシズルは話を終えたので、お姉ちゃんのクラスから出ていく。
そして、俺達が自分のクラスに戻る道中にシズルが話しかけてきた。
「昨日、ルミナ君がお姉さんのやる気がないって言ってたけど、本当なんだね」
「ホノカもあんな感じだ。元々、エクスプローラに良い感情がない。俺のせいだけど」
お姉ちゃんもホノカもプロを目指している。
しかし、それは才能があったからだ。
多分、聖女や賢者などの特別職ではなかったら、プロを目指すことはなかっただろう。
「自分のパーティーなのに、すごい他人事のように話すからビックリしちゃった」
シズルは俺の影響を受けてるから、そう感じるだけだろう。
「言っておくが、学生は皆、あんな感じだぞ。学生の全員がプロになるとは限らない。まあ、お姉ちゃんは天然マイペースさんだから、ちょっと特殊だけど」
「そうなんだ。ルミナ君は卒業してもプロで続けるの?」
「もちろん。俺は…………長年エクスプローラやってるし、性に合ってる」
あぶねー!
大金貰って、女にチヤホヤされたいって言うところだった!
「そっかー。何で間が空いたの?」
シズルが笑顔でこちらを見てくる。
「なんでもない。気にするな。お前はどうするんだ?」
「私? まだ決めてない。でも、今のところはプロにはなるつもりだよ」
こいつは元歌手だし、歌手をやってもいいと思うがな。
歌も素人の俺でもわかるくらいに上手だし。
まあ、こいつの進路はこいつに任せよう。
ただ、他所のパーティーに行くのは許さないぞ。
「絶対に≪ヴァルキリーズ≫には行くなよ」
「行かないよ。実は前にショウコさんから誘われたけどね。でも、エクスプローラを続けるのなら≪魔女の森≫でやる。私、副リーダーだし」
そういえば、お前は副リーダーだったな。
頑張って、働いてくれ。
あと、ショウコは覚えとけ!
絶対にあげないって言ったのに!!
攻略のヒント
エクスプローラのプロ資格を持っている者で実際にダンジョンで活動する者は全体の30パーセントしかいない。
『エクスプローラ協会 エクスプローラの活動割合調査』より
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