第046話 顔合わせ


 瀬能を仲間にした翌日、顔合わせのためにパーティーメンバーで集まることになった。


 集まる場所は、何故か我が家である。


「狭いな」

「さすがに6人もいたらね」


 俺のつぶやきに、隣に座っているシズルが答えた。


 俺の部屋はそこそこ広いのだが、一人暮らしの部屋だ。

 6人は多い。


「協会で部屋を借りれば良いだろうに」

「いいじゃん。ルミナちゃんの家が一番立地が良いんだから」


 集まる場所を俺の家に決めたちーちゃんはシズルの対面に座っている。


 俺の家は学園と協会の間にあるため、立地が良いのは確かだ。


「君って、良い家に住んでるんだね。高いだろ?」


 俺の対面に座っている瀬能が聞いてくる。


「高いぞ。これがプロの一流エクスプローラだ!」

「夢があるね」


 先ほど、瀬能の名前と学年を紹介し終えたところである。

 もちろん、ヤツの性癖は黙っている。


「あのー、瀬能さんって、レベル、いくつですかー?」


 シズルの隣(俺の2つ隣)に座っているアカネちゃんが瀬能に話しかける。


 アカネちゃんはこうやって、人を馴染みやすくしたりできるから便利なのだ。


「13だよ」

「意外と低いね」


 瀬能の答えにちーちゃんが反応する。


 ちーちゃんはこうやって、人を馴染みやすくすることが苦手なのだ。


「そうかな?」

「ちーちゃんよりは高いぞ。ちーちゃんは10だし」

「あたしと比べるな。あんたが知ってるかは知らないけど、瀬能は優秀なことで有名だったんだよ。こいつと≪フロンティア≫の佐々木が2年のツートップなんだ」


 そういえば、ライバルって言ってたもんな。


「そんなに佐々木ってすごいのか?」

「佐々木は≪魔法剣士≫っていうレアジョブなんだよ」

「ふーん、剣と魔法が使えるのか?」

「そうだよ」


 それって、どっち付かずにならないか?

 まあ、俺も人のことは言えねーけど。


「あんなゴミ野郎、どうでもいいや」


 さっさと死なねーかなー。


「……どうしたの、こいつ?」

「……どうやら佐々木が神条のお姉さんの肩に触ったとかで」

「……くだらねー」


 2年の2人がこそこそと話している。

 

 黙ってろ!


「それで、この瀬能がウチのタンクになる。≪重戦士≫だから期待していいぞ」

「これで私も安心ですー」

「よろしくお願いします」


 後輩2人は素直だねー。


 ちなみに、カナタはアカネちゃんの対面で、ちーちゃんの隣に座っている。


「それでこの後、ダンジョンに行って、スキル確認と連携確認に行くの?」

「スキル確認はするが、連携確認は不要だ。瀬能は経験もあるし、タンクは前でモンスターと対峙するだけだからな。お前って≪デコイ≫は持ってるか?」


 デコイはモンスターの敵意を集めるスキルで、タンクには必須なスキルである。


「タンクだから当然、持ってるよ」

「じゃあ、何も問題ないな。そこでだが、この後、10階層に行こうと思う」

「10!?」

「ボス部屋ですか?」

「急いでいるのはわかるけど、大丈夫かい?」


 ビビりが驚き、マイペースはいつも通りである。

 そして、後衛を纏めているちーちゃんがそんな2人を心配そうに見て、俺に聞いてきた。


「まあまあ、落ち着け。別に焦っているわけではない。お前らも知っているだろうが、10階層はレッドゴブリンとお供のゴブリン軍団だ。レッドゴブリンは俺が瞬殺してやるから、お前らは瀬能と共にお供のゴブリン軍団を倒せ」


「レッドゴブリンは強敵だぞ。1人でいけるのか?」

「ゴブリンやオークみたいなのは、俺とは相性が良いんだ。レッドゴブリンも俺から見たらカモだから一撃で倒してやるよ。これはパーティーで集団を相手にする練習だ。ゴブリン相手だと俺がいると練習にならん」


 ゴブリン程度ならハルバードを振り回すだけで、全滅しそうだからだ。


 いやー、俺って、強いね。


「そんなに心配なら、オークでも狩るが……」

「いや、オークはもういいや」

「さすがに、もういいですよね」


 まあ、ずっとオーク狩りばっかりだったし、ちーちゃんとシズルはそう言うだろうね。


 カナタは大丈夫だろうから、あとはビビりか……


「お前はどうする? 反対なら別にオークでもかまわんぞ」

「オークのほうが嫌です。私、オーク嫌いですから」


 この前、オークと対峙させたのが悪かったのかな?

 すっかりオーク嫌いになってる。


「じゃあ、反対するヤツはいないな。よし、マイちんの所に行って、ダンジョンに行こう」

「あ、ちょっと待って。その前に確認したいことがあるんだ」


 俺が出発のかけ声を言おうと思ったら、ちーちゃんが止めてきた。


「何だ? スリーサイズなら秘密だぞ」

「あんたのスリーサイズなんて興味ないよ。来月のダンジョン祭はどうするの?」

「そういえば、そんなのがあったな」


 ダンジョン祭っていうのは、学園内の生徒でパーティーを組んで、ダンジョンに挑む学園主催の大会だ。

 指定された階層までのタイムアタックやモンスター討伐数などを競う。


「パーティー組んだし、参加するの?」

「あー、どうしよう? 俺は参加する気がなかったが、参加したいなら参加でもいいぞ。シズルなんかはやったことないだろ?」

「私は編入組だからね。出てみたいと思ってたけど、何で参加する気がないの? ルミナ君が好きそうじゃん」


 まあ、好きだよ。

 でもねー……


「同じ川崎支部にいたカナタは知ってると思うが、俺は前にやらかしてるからなー」

「……何したの?」


 いかん、シズルがジト目になっている!

 カナタ、カナタ!


「ダンジョン祭は学生のためのお祭りごとなんですよ。そのアマチュアの催しにプロの神条さんが出ちゃって、全部門で優勝したんです。それでひんしゅくを買っちゃったんですよ」


 表彰式での皆の白い目が忘れられないぜ。


「それはひんしゅくを買うわ。しかし、ルミナちゃんはよく全部門で優勝できたね」

「川崎支部のダイダラ迷宮はファイターに有利なダンジョンなんだ。だから神条さんの独壇場だったんだよ」


 姉の質問に弟が答えている。


 ダイダラ迷宮は魔法を使うモンスターが極端に少ないため、ファイター系が有利なのだ。

 ましてや、俺はローグ系のスキルも持っているため、ダイダラ迷宮においては死角がない。


 おかげ、調子に乗りすぎたのだ。


「まあ、そんなことがあったからダンジョン祭には二度と出る気はなかったんだ。出たいなら出てもいいけど、俺は手を抜くぞ。さすがに、もうあの表彰台の冷たさは経験したくない」

「ヒエヒエでしたね」


 南極のほうが暖かいと思うくらいにな。


「じゃあ、やめときますか?」


 シズルは残念そうに他のメンバーに聞く。

 シズルも出たいだろうが、ヒエヒエも嫌だろう。


「別に神条が出なくても参加はできるよ。ダンジョン祭の参加人数は5人だし」


 シズルの問いかけに瀬能が答える。

 

「そうなんですか?」

「ああ、ダンジョン祭はダンジョンに行くからね。賞品も出るし、皆が無理をするんだ。だから保険として、先生やプロのエクスプローラを雇って6人目にする。そうすれば、全滅はしないから」


 ダンジョン祭は各分野ごとに賞品も出るし、結果次第では大手クランからの勧誘も来るので、就職活動の場にもなっているのだ。


「へー、じゃあ、安全な大会なんですね」

「まあ、学生の大会だからね。参加は自由だし、ボクはどっちでもいいよ」

「あたしもどっちでもいいよ」

「僕は参加したいです。川崎支部ではあまり活躍できませんでしたから」


 カナタはメイジだもんな。

 川崎支部では厳しかったかもしれん。


「アカネちゃんは?」

「私もどちらでもいいです。シズル先輩が出るならお付き合いしますよ」

「カナタ君はともかく、何で皆、積極的じゃないのかな?」


 シズルが俺に聞いてくる。


「さあ? 何でなん?」


 俺は微妙な返事をする3人に聞いてみた。


「どうせ優勝は≪フロンティア≫だからだよ。東京本部ではあそこがブッチギリの二連覇だよ」

「だね。あそこはバランスが良いし、対抗馬がいないんだ」


 瀬能が答え、ちーちゃんも合いの手を入れる。

 

「すみませーん。私、何もしてないのに優勝しましたー」


 アカネちゃんがテーブルに突っ伏す。


 泣くなよ。


「そんなにすごいのか?」


 お姉ちゃん、スゴーい!


「佐々木はもちろんだけど、問題なのは、あんたの愛しの姉だよ。ミサキの回復魔法がすごすぎるせいで、≪フロンティア≫は猪突猛進で攻略していくんだ」

「確かに、あれはちょっとズルいな」


 お姉ちゃん、ズルーい……


「ごめん。お姉ちゃんって、ちょっと空気が読めないから」


 若干、天然なのだ。


「それで皆、参加しないんですか?」

「去年は参加したよ。臨時の穴埋めだったけど」

「あたしも野良だったから、どっかのパーティーに助っ人で参加したね」

「私は優勝しましたー! 本当に何もしてませんけど……」


 アカネちゃんはやけくそ気味に手をあげ、そして、再び突っ伏す。

 

「アカネちゃん、ケーキ食べる?」

「食べまーす」


 アカネちゃんが可哀想だ。


「まあ、参加したらいいんじゃないかな? カナタ君も出たいみたいだし」


 瀬能はあまりやる気はないようだが、反対ではないようだ。


「あんたが出て、≪フロンティア≫の三連覇を阻止したら?」


 ちーちゃんは名案を思い付いたみたいな表情で俺に提案してくる。

 

「今はちょっとウチの姉妹の機嫌を損ねたくないので遠慮します」


 お姉ちゃんはともかく、ホノカがねー。


「まだ、ケンカ中なの?」

「ケンカなんかしてねーわ。一方的に嫌われてるだけだよ!」


 ホノカ…………

 シクシク。


「うえーん、ホノカちゃーん」


 アカネちゃんはケーキを頬張りながら泣いている。


「何があったの?」

「実は…………」


 ちーちゃんが瀬能にチクっている。


「2人共、泣かないで。ホノカちゃんもそのうち、許してくれると思うよ」


 シズルが俺とアカネちゃんを慰めるが、俺は泣いてない。


「お前はあいつが陰険なのを知らないから、そう言うのだ」

「そうですよー。土下座しても許してくれませんでしたー」


 アカネちゃん、何してんの?


「……どうします? 4人で参加でいいですか?」

「いいよ。そこの2人はダメそうだし」

「あたしも参加でいいよ」

「僕も参加します」


 どうやら4人で参加するようだ。


「いいかな?」

「せっかくだし、参加しろよ。幸い、お前ら4人でもバランスは悪くないし」


 ヒーラーであるアカネちゃんの代わりはちーちゃんがやればいいし、アタッカーである俺の代わりはシズルがやればいい。


「ところで、東京本部の競技って、何だ?」

「えーと、6階層までのタイムアタックと3時間でどれだけモンスターを狩れるかと、あと何だっけ?」


 瀬能も詳しくないようだ。


「あとは指定のアイテム回収と罠の解除数を競うものだね」


 ちーちゃんはスキル≪記憶術≫があるから記憶力が良い。


「4つ? 少ないな? ボス狩りとかないの?」


 川崎支部ではボスを倒す時間を競うものもあった。

 

 ちなみに、俺は10秒で倒した。

 だって、一撃なんだもん。


「ボスのタイムアタックは危険だからないよ。ロクロ迷宮はお供のゴブリンが多いからね」


 ロクロ迷宮10階層のボスはレッドゴブリンよりもお供のゴブリン軍団のほうがやっかいだったりする。

 なにせ、30匹ぐらい出る。


「ふーん、お前らはどれに参加するの? ≪フロンティア≫に勝てそうなのはどれだよ?」

「全部、無理じゃないかな?」

「何で? アイテム回収や罠解除なら、お姉ちゃんは関係ないだろ」

「君の妹さんは≪賢者≫だろ。彼女が全部やってしまうんだよ」

「ごめん。ホノカって、ちょっと空気が読めないから」


 若干、バカなのだ。


「あんたの姉妹が本当に厄介なんだよ。あの2人はアタッカーとしては活躍しないけど、補助的な役割では相手にならないんだ」

「だね。佐々木は強いけど、無双できるほどじゃない。≪フロンティア≫は君の姉妹がいるからトップパーティーなんだ」


 まあ、聖女と賢者だしな。

 えっへん。


「神条さんもですが、ホノカさんやお姉さんも強いって、すごいですね。何で姉妹とパーティーを組まなかったんですか?」


 カナタは、姉妹を好きなはずの俺が姉妹とパーティーを組んでいないことに疑問に思ったらしい。

 実は良く聞かれる。

 

「俺が川崎支部にいたこともある。でも、それ以上に、あの2人は実力も才能もあるんだろうが、やる気がないからな。俺とは合わん」


 元々、エクスプローラになる気はなかったはずだ。


 お姉ちゃんは友達に誘われて学園に入学した。

 ホノカは姉と兄についてきただけだ。


「もったいないな。あれほどの力があれば、他のクランにも引っ張りだこだろうに」


 上を目指している瀬能には理解出来ないかもな。

 

「実際、≪ヴァルキリーズ≫のサエコやショウコから紹介してくれって頼まれたな。断ったが」

「確かに、≪ヴァルキリーズ≫は欲しがるだろうな。何で断ったんだ?」

「いや、理由はない。めんどくさかっただけ」


 本当に理由はない。

 ちょっと、機嫌が悪かったのかな?


「ダメじゃん。それなのに≪正義の剣≫に入ったんだよね? サエコさんとショウコさん、怒らなかった?」


 シズルが俺を責めてくる。


「怒ってたような……気がする」

「ダメじゃん」

「代わりにお前を寄こせって、言われたから死ねって答えといた」

「ダメじゃん」


 え?

 お前、≪ヴァルキリーズ≫に入りたかったの?

 ダメだよ。


「あいつらのことはどうでもいいの。どうせ、お姉ちゃんとホノカはやる気ないし。まあ、ウチの姉妹が厄介なのはわかった。優勝が狙えないのなら、モンスターの討伐数を競うやつにしろよ。あれが一番おもしろい」

「そうなの?」

「他のは地味だしな。お前の忍法で無双しろよ。案外、勝てるかもよ?」


 こいつの忍法は威力がスゲーからな。

 あまり数を放てないのが、ネックだが。

 

「それがいいかもね。弱いゴブリンを狩るよりオークの方がポイントが高いんだ。シズルの忍法ならオークも一撃だし」


 ちーちゃんも同意してくれる。


「忍法って何だ?」

「あとでダンジョンで見せてやる。シズルは忍者なんだ」

「ああ、前に噂になったやつか。雨宮さんだったのか。やっぱり強いの?」

「強いぞ。フフ」

「何であんたが自慢気なんだよ」


 俺が育てた!


「じゃあ、せっかくだし、モンスター討伐数のやつに出ようか。カナタ君もそれでいいかい?」

「はい。僕もそれが良いです。というか、それ以外は僕は貢献できません」


 そりゃそうだ。


「決まったか? じゃあ、明日にでも、申請して来いよ。俺とアカネちゃんは心の中で応援してる」

「頑張ってくださーい。出来たらホノカちゃんには勝たないでくださーい」

「ダメだ、こいつら」


 ちーちゃんは呆れてしまった。


 お前らが勝って、ホノカが怒ったらどうするんだよ!

 

「その前に中間テストがあるけどね。柊さんと神条は大丈夫か?」


 瀬能が嫌なことを思い出させてくる。

 そして、何故、俺とアカネちゃんを名指しするのだ。


「俺はプロのエクスプローラだぞ。楽勝、楽勝」

「私も楽勝ですよー」


 俺とアカネちゃんは余裕の笑顔で答える。


「大丈夫か?」

「フラグにしか聞こえないね」


 うるせー先輩だな!


 余裕に決まってるだろ!

 



攻略のヒント

 ダンジョン祭は学園の生徒の実力を見るのに絶好の場である。

 そのため、補助員のバイトは各クランの幹部が務めることが多い。


 各クランも優秀な学生をスカウトしたいのだ。


『週刊エクスプローラ 今年のダンジョン祭』より

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