第032話 ≪Mr.ジャスティス≫って、苦労人だなー……ちょーウケる!


 俺はちーちゃんを仲間に加え、女4人でマイちんがいる受付へと向かった。


 パーティーメンバーが全員女のハーレムパーティーなのに、まったく嬉しくない。

 

 俺が女であることは別にしても、想像していたハーレムとは何かが違う。

 俺はもっと俺を褒め称えるバカ女が良いんだが、それをするのは男であるカナタだ。


 働き者のエロ女、捨てられた野良犬、キャラ作りに必死な痛い小動物。


 うーん、この中だと、やはりシズルが1番だな。

 これからはシズル一筋な誠実エクスプローラを目指そうかね?

 

 でも、あいつって、最近、小うるさいんだよなー。

 他の女を探そうか……

 いや、おっぱい大きいし、シズルで良いか。

 

 よし!あいつで我慢しよう!


『それ、絶対に口に出すなよ。嫌われるどころじゃ済まねーぞ』


 わかってますよ。

 あい、らぶ、しずる。


『相棒がクズなのはわかっているけど、本当に頼むぜ』


 クズですって。

 消去法で選んだだけなのにひどいや。


 俺は内心で自分の彼女(?)を決めていると、受付に到着した。


「こんにちわ、ルミナ君。ちゃんと来たのね」

「こんにちわです。お供を引き連れてきましたよ」

「アカネちゃんとシズルはわかるけど、ちーちゃんも連れてきたの?」


 マイちんは、ちーちゃんは当然の事だが、アカネちゃんとも面識がある。

 

 昔、アカネちゃんを指導してた時に、いつも泣いて帰ってきたから覚えたらしい。

 

 あの時は俺は悪くないのに、軽く修羅場だった。


「まあ、パーティーメンバー(仮)だし。ちーちゃんも暴行犯捜査の進捗度が知りたいんだって」

「……そうなの。正直、その手の問い合わせが多くて、協会も辟易しているのよね」

「実際のところ、成果はないの?」

「まったくね。本当に苦情や問い合わせでうんざりよ」


 マイちんはため息をつきながら愚痴ってくる。


 このままではストレスで、マイちんの曲がり角のお肌が荒れてしまう!


「ねえ? マジで俺が囮になって、暴行犯を潰そうか?」

「無理よ。正直な話をすると、その案も≪ヴァルキリーズ≫のリーダーから出たわ。でも、貴方は有名すぎるから却下になった。暴行犯はランクが高かったり、強いエクスプローラがいる時には出てこないのよ」


 どうやら≪ヴァルキリーズ≫のリーダーであるサエコも囮作戦を考案したらしい。


「暴行犯のくせに強かだな。っていうか、情報が洩れてないか?」

「それ以上は言わないで」


 ああ、これだけやって捕まらないんだから、情報漏れは確実なのね。

 そして、それが誰なのか、わかっていない。

 思ってた以上に深刻だわ。


「わかったよ。あとは≪Mr.ジャスティス≫に聞く。あいつは来てるの?」

「来てるわよ。2階の応接室で待っているわ。まずはこの前のことを謝罪するのよ。いい?」


 念を押すなよ。

 本当にシズルの従姉だな。


「わかってるよ。謝ればいいんでしょ? あいつは気にしてないと思うがね」


 あいつは(都合の)良いヤツだから大丈夫だと思う。


「それでも謝るの。貴方はアカネちゃんを仲間にしたいんでしょ? キチンとしなさい」


 はいはい。


「じゃあ、応接室に行ってくるわ。ついてこい女共!」

「男らしさをアピールしたいんでしょうけど、貴方が一番女の子らしい格好よ」


 もう、それはいいよ。

 どうせ、俺だけスカートだよ。


「他の2人はともかく、なんでシズルはスカートを穿いてないんだよ。お前は早着替えがあるだろ」


「気分の問題ね。今日はダンジョンに行かないけど、協会に行く時はいつもスカートは穿いてないわよ」


 マジで?

 そういえば、そんな気がする。


「今までスルーしてきたけど、ルミナちゃんは何でスカートを穿いてるの? あんた、男だろ? 抵抗ないの?」

「ない。ってか、スカートしか持ってない」


 お姉ちゃんとホノカがスカートやワンピースしかくれなかった。


「えぇ……センパイって、目覚めちゃった感じですか~?」

「目覚めてない。お姉ちゃんが絶対にスカートが良いって言うから穿いているだけだ」

「シスコンもここまでくるとヤバいね。ウチの弟はこんなのに憧れているのか……」

「お姉さんとは結婚できないんですよ?」


 うるせーな!

 2人して交互に攻めてくるな!

 

「わ、私はルミナ君の味方よ」


 やはり、シズルが一番だな。

 多少、気になる言い方だが。


 俺はドン引きしている3人を無視し、≪Mr.ジャスティス≫が待つ2階の応接室に向かった。




 ◆◇◆



 

 俺は応接室に着くと、一応、ノックをして、部屋の中に入った。


 部屋の中には≪Mr.ジャスティス≫の他にも、何故か≪ヴァルキリーズ≫のリーダーであるサエコもいた。

 

 サエコは背が高く、ショートカットでボーイッシュな感じの女だ。


「よう。何でお前がいるの? 俺は≪Mr.ジャスティス≫に話があるんだけど」

「久しぶりに会ったっていうのに、挨拶もロクにできないのか?」


 相変わらずトゲトゲしいヤツだな。


「久しぶりか? そういえば、会うのは久しぶりだな。最近はよく惚気を聞かされてたから、久しぶりなことに気づかなかったわ」

「…………誰から?」

「お前の彼女」

「まさかユリコじゃないだろうな?」


 なんか機嫌が悪いな。


「何、怒ってんだよ。あいつ以外にいるのか?」

「……ちなみに、何て言ってた?」

「ベッドでは甘えてくるとかそんなの。うぜーから途中で電話を切ったわ。お前からも言ってくれ」

「……殺す!!」


 サエコはいきなり怒り始めた。


 うーん、この反応からすると、やはり≪白百合の王子様≫の妄言だったか。

 あいつも末期だな。


「やっぱり嘘か……まあ、落ち着け。あいつの頭がおかしいのは知っているだろうが」

「くそっ! あいつは名古屋に行っても、人を不快にさせるな!」

「まあまあ。落ち着いて」


 空気になっていた《Mr.ジャスティス》がサエコを宥めている。


「ルミナ君は今でも、ユリコさんと連絡を取っているのかい?」

「ん? いや、あいつが名古屋に行ってからは連絡を取ってなかったぞ。最近になって、よく連絡がくるな」

「…………もしかして、4月からかい?」

「だな。俺が女になって、退院して、ちょっと経ってからだったと思う」


 心配して電話をしたらしい。

 あの変態にも、人の心があったようだ。


「……それって」


 ≪Mr.ジャスティス≫が言い淀んでいる。

 

「なあ、神条。ユリコから名古屋に来ないかって、誘われなかったか?」


 サエコが話に入ってきた。

 

「誘われた。どうせ、狙いはシズルだろうから断っておいた。それなのに、しつこく誘ってくる。しまいには、俺だけでもいいから来いだとよ。邪魔者の俺を殺す気か?」


 あいつは自分の欲望のためには、何をするか、わからんからな。


「行ったら別の意味で殺されると思うな」


 ≪Mr.ジャスティス≫がよくわからないことを言っている。

 

「神条、悪いことは言わないから、ユリコには近づくなよ」

「だから、行かねーって。あの変態にウチのシズルをやれるかってんだ」

 

 俺のシズルが女に目覚めてたらどうするんだよ。

 俺も女だけどな。


「それで? お前は何でいるんだ? さっきも言ったが、俺は《Mr.ジャスティス》に話があるんだが」


 俺はサエコがここにいる理由を尋ねた。

 

「お前だって、暴行犯による騒動は知っているだろう? その捜査の打ち合わせだよ。お前らが来ることも知っていたけど、こっちも忙しいんだ。悪いけどね」


 多忙なクランリーダー同士だと大変だねー。


「あっそ。早めに何とかしてくれよ」

「わかってるよ。こっちだって、こんなことに時間をかけたくはないんだ」


 でしょうね。

 金にもならないのに、評判は下がっていく一方。

 踏んだり蹴ったりだな。


「それで、ルミナ君。僕に用って何だい?」

「あー、まずはこの前、お前のところの下っ端と揉めただろう? 悪かったな」


 俺は嫌なことは早めに終わらそうと思い、謝ることにした。

 

「え!? 何かおかしなものでも食べたのかい?」

「お前、本当に神条か? やはり偽物説が当たりか」


 謝ったのに、ひどい言われようだな。

 まあ、この2人は昔から俺のことを知っているから、当然の反応ではある。 


「俺はまともだ。マイちんや後ろにいるシズルが謝れって言うから謝っただけだよ」

「う、うん。そうなのか。気にしないでくれよ。あれは学生に絡んだウチのメンバーも悪いんだ。ウチのメンバーもピリピリしててね。すまなかった」


 ほら。

 こいつはこういうヤツだから謝らなくても許してくれるのに。


「じゃあ、この件はチャラな。それとお前に頼みがあるんだよ。お前、この子を知っているか?」


 俺はそう言って、後ろにいたアカネちゃんを前に引っ張り出す。


「こ、こんにちわ~」


 アカネちゃんは緊張しながら挨拶した。

 

「君は確か、≪フロンティア≫の柊さんだったかな?」

「は、はい。お世話になってます~」


 アカネちゃんがどんどん小さくなっていく。


「すまんが、こいつをウチのパーティーに入れたいから話を通してくれないか?」

「……どういうことだい?」


 俺はアカネちゃんが悩んでいる事とウチのパーティーに入ってくれる事になった経緯を説明した。


「なるほどね。確かに、それは辛いな。僕としては≪正義の剣≫を抜ける分にはかまわないよ。学生だし、柊さんはルミナ君と親しいのだろう? 反対も拒否もできる立場にないな」

「ありがとうございます!」


 アカネちゃんは元気を取り戻し、明るくお礼を言って頭を下げた。


「それで、お前に≪フロンティア≫のリーダーに話を通してほしいんだわ」

「それはかまわないけど、いい顔はされないと思うぞ」

「そこは仕方ない。円満にいくとは思ってないし、恨まれてもかまわん」


 どちらにせよ、2年生からの評判は悪いらしいし、これ以上、嫌われても大丈夫だ。


「君のお姉さんや妹さんには何て言えばいいんだ? 僕は伝える自信がないぞ」


 ですよねー。

 俺も自信がない。


「ウチの姉妹には俺から話す。お前はリーダーに話を通してくれれば良い」

「わかった。理由は適当にぼかしておくよ。でも、お姉さんはともかく、妹さんは誤魔化されないと思うぞ。問い詰めそうな性格をしていただろう?」


 なんでウチを抜けるのよ!?

 そして、何でお兄ちゃんの所なんかに行くの!?


 アカネちゃんを問い詰めるホノカの姿が目に浮かぶ。

 ちなみに、想像の中のアカネちゃんは涙目だ。


「わかってる。その辺も正直に言うしかない。最悪、悩んでいるところに俺がつけこんだことにする」

「大丈夫か?」

「大丈夫じゃないが、大丈夫だ」


 自分で言ってて、意味がわからんな。


「そ、そうか。まあ、君の家のことだから、あまり踏み込まないが、仲良くな」

「ああ、悪いな。変なことを頼んで」

「気にするな。これもリーダーの仕事だ」


 立派なヤツだねー。


「見ろ、サエコ。これがAランクのエクスプローラだ。お前もこのくらい大きい器がないと、Aランクにはなれないぞ」


 サエコは万年Bランクだ。

 Aランクになれない理由は短気だから。


「うるさいな。Cランク止まりのガキが意気がんな。それで用件は済んだか? なら帰れ。私はこいつと打ち合わせがあるんだ」

「あ、まだあったわ。これはサエコでもいいんだが、暴行犯はどうなってんだ? 俺はさっさと深層に行きたい」


 早く、男になりたーい。


「チッ! 成果なしだよ。私らだって、バカじゃないんだ。この3ヶ月で、色々と捜査や巡回をしてきた。なのに、一向に犯人の姿が出てきやしない」

「ああ、それなのに、被害は減らないんだ。正直に言って、僕達も参っているよ」


 サエコは舌打ちをして愚痴り、≪Mr.ジャスティス≫はお手上げといった感じだ。

 

「怪しいヤツとかいないのか?」

「私は第一容疑者でお前をあげたぞ」


 かつて、同じパーティーで、共に死線を潜り抜けた戦友である俺を疑うとは最低だな。

 

「俺は違うぞ! 俺は基本的にシズルと一緒にいる。なあ?」


 証人、前に出ろ!


「ええ、ルミナ君は学校にも、ちゃんと行ってますし、よく一緒にいますけど、そんなことはしてないです」


 シズルが前に出て、俺を擁護してくれた。

  

「わかってるよ。最初に神条を疑った時に、ウチのショウコに探らせに行かせた。そしたら、お前は本当に女になっていたし、アリバイもちゃんとあった」


 前にショウコが俺らに話しかけてきたのは、そういう理由だったのか。

 あいつが話しかけてくるなんて珍しいと思ったわ!


「君も含めて何だが、怪しいヤツっていうのは、有名で目立つからね。すぐにアリバイが成立するんだ」


 確かに、怪しいヤツっていうのは、目立つからな。

 犯行時にどこにいたのかもすぐにわかる。


「それでお手上げか?」

「ああ、見回りや警察と協力して、エクスプローラの身辺調査もしているんだが、成果なしだ」

「ふーん。それで学生のお守りをしているのか」


 こりゃあ、時間がかかりそうだな。

 マジで潰しに行こうかな?


「お守り? ああ、学生の護衛の事か。協会から依頼されてね。自分たちも成果が出てない分、断れなかったよ」

「ん? 断るつもりだったのか?」


 意外。

 真面目さと誠実さだけが取り柄だろうに。

 

「悪いんだけど、そこに人材を割くくらいなら捜査に力を入れたいよ」

「まあ、そうだわな。ってか、護衛なんか下っ端に任せろよ。低層なら人数がいれば、誰でも良いだろうが。暴行犯とやらは10階層以降なんだろ?」

「分かっているよ。だから、Bランクのエクスプローラをリーダーにおいて、Dランクの人に護衛を任せている」


 ってことは、カナタが言っていたヤツがリーダーか。


「Bランクねぇ。サエコと同じランクって考えれば、カナタは安心か……ってか、誰だ? 俺が知っているヤツ?」


 この辺のヤツで、Bランクなら、ほとんど知っていると思う。


「君は知らないかもね。立花ダイスケっていうんだ。元は博多支部のエクスプローラさ。昨年、ウチに移籍してきたんだよ」


 立花?

 知らねー。

 Bランクのくせに、名前が通ってないのかよ。


「マジで知らんな。二つ名もなしか?」

「ないね。派手さはないけど、堅実な男だよ。協会から推薦されたんだ」

「協会のお墨付きなわけね。しかし、掲示板でも聞いたことねーな」


 影が薄いから、≪空気≫っていう二つ名はどうだ?


「あ、私、写真持ってますよー。見ます? カナタ君と一緒に撮ったんです」


 アカネちゃんは携帯をいじり、俺に写真を見せてくる。

 写真には笑顔でピースするアカネちゃんとカナタが写っている。


 そして、その2人の真ん中に影の薄そうな陰気な男が写っている。



 ………………。



「まさか、この真ん中の男が立花って野郎じゃねーだろうな?」

「え? この人がBランクの立花さんですよ。本人が名乗っていたから間違いないです」


 

 ………………どうしようか。

 とりあえず、ちーちゃんは邪魔だな。


「≪Mr.ジャスティス≫、サエコ。この後、本部長の所に行くからついてこい」


 あーあ。

 面倒くさいことになったよ。


 しかし、ちーちゃんを誤魔化せる気がしないわ。





攻略のヒント

 日本で一番規模の大きいクランは≪正義の剣≫である。

 

 ≪正義の剣≫はリーダーの木田セイギを始め、多くの優秀なエクスプローラが所属しており、その評価は協会だけでなく、政府からも高い。

 

 ≪正義の剣≫に入るには、幹部メンバー、もしくは、協会から推薦が必要である。

 年に1回ほど、入団試験も行っているが、合格者は非常に少ない。

 ≪正義の剣≫は実力だけでなく、人間としても優れていないといけないのだ。


『週刊エクスプローラ ≪正義の剣≫特集』より

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