閑話 ≪白百合の王子様≫


 ユリコは激怒した。


 私は非常に怒っている。

 私にはかつて、たくさんの恋人がいた。

 皆、私を愛し、私も彼女達を愛した。

 多少のすれ違いや誤解もあったが、上手くやっていたと思っていた。

 私はここが真の楽園だと信じて疑わなかった。


 しかし、その幸福の時間は奪われてしまう。


 私が最初に≪ヴァルキリーズ≫のリーダー、村松サエコを見たとき、私は自分が生まれた意味を知った。


 私はこの女を自分のものにするために生まれ来たのだと。


 しかし、彼女は手ごわかった。

 私がスキンシップを取ろうとすると、何となく距離を置くのだ。


 野生の勘か?

 それとも、私の正体に気づいているのか?

 

 いや、そんなはずはない。

 もし、私を知っているなら私を≪ヴァルキリーズ≫に入れはしないだろう。

 自分でいうのもなんだが、小鹿の群れに餓えた獅子を放り込むようなものだ。


 

 村松サエコはきっと女より男が好きなのだろう。

 しかし、問題はない。

 私はそういうノンケを神の花園に誘うプロである。


 私は女子高、女子大と女子のみの世界で生き、女子の空気で育ってきたエリートなのだ。


 いくら村松サエコ、いや、サエコが難攻不落であろうと私の前では、穴だらけのアリ塚のようなものだ。

 ふはは。


 私はまず、周囲の子猫ちゃん(死語)を陥落させ、その後に本丸であるサエコにいんk……侵攻することに決めた。


 私は≪ヴァルキリーズ≫の面々を食いちら……真実の愛に気づかせまくった。

 

 いんk……犯行手口は簡単である。

 

 最初は冗談を装いスキンシップ、酒を飲ませ、酔わせたところで強いスキンシップ、もし、強く拒否されたらすごく落ち込んでいるふりをする。

 そして、相手が私を慰めに来たら、もうこちらのものだ。

 二度と脱出できない。


 私はそろそろサエコを堕とs……目覚めさせてやろうと思っていると、なんと向こうから私を飲みに誘ってきた。


 私は歓喜した。

 

 飛んで火にいる夏のサエコか?

 それとも、私が気づかせる前に自分で気づいたのか?

 

 まあ、どちらでもよい。

 私はついに本懐を遂げることができるのだから。


 今思えば、この時に気づいていればよかった。

 

 世の中、そんなに甘くないということを。

 あのサエコが私を誘うわけがないということを。


 私はサエコと2人きりで飲みにいった(2人きりの時点で気づけ、過去の私)。

 

 サエコとは他愛のない話をした。

 エクスプローラの事、ダンジョンの事、私は興味なかったが、サエコが話すと私は幸せな気分となった。


 そして、気づいた。

 私は本当にサエコの事が好きなんだと。


 初めてだった。


 私は女子が好きだし、神聖な行いも好きだ。

 でも、本当の意味で好きになったのはサエコが初めてであった。

 私はこれが恋なのだと、初恋なのだと、感動した。


 飲みが進むにつれ、サエコの酔いが深くなっていく。

 私はサエコを自室に連れて帰った。

 こんなに緊張するお持ち帰りは初めてだった。

 

 私は私のベッドで眠るお姫様に唇を近づける。


 さあ、ハーベストの始まりだ!!



 

 私は意識を失った。


 

 そして、私は気づいたら≪ヴァルキリーズ≫の面々(私の子猫ちゃん達)と東京本部の職員につるし上げられていた。


 どうやら、家に連れ込んだ女の子の1人が、私の部屋に隠してあったコレクション(何のとは言わないが写真&ビデオ)を見て、サエコに密告したらしい。

 

 そして、サエコは私を誘い、現行犯で逮捕したようだ。


 私は誤解だとか、純愛だとか、必死に弁解したと思う。

 しかし、押収された私のコレクションはまずかった。

 なにせ、本人の了承を得ていないうえに、多少、マニアックなものもあったからだ。


 そのコレクションを見た時の全員の顔が忘れられない。


 私は≪ヴァルキリーズ≫を除名となった。

 

 協会は内々のことだからと、注意で済ませてくれた。


 しかし、私はサエコを諦めきれない。


 翌日、東京本部の受付にいたサエコに泣きながら縋りついた。

 

 もうしない、お願いだから除名はやめてくれ。

 他に何を言ったかな?

 

 とにかく縋りついた。


 そして、私はサエコに告白した。

 愛してると、私達の子供を作ろうと、遺伝子にケンカを売ろうと。


 殴られた。

 痛かった。

 

 その時の痛みと全員がドン引きしていたのを覚えている。


 ここまで騒ぎになった私はDランクにランクダウン。

 そして、東京本部を永久追放されてしまった(何故だ!?)。



 私はサエコを忘れることはできない。


 しかし、この名古屋の地でサエコの動画や写真(隠し撮り)を高値で買い取り、それで満足しようと、ある程度は諦めがついていた。



 そして、事件は起きた。


 かつて、私がいた東京本部にとある女が現れたのだ。

 どうやら、そいつは元は男らしい。


 男から女になるなんて、どんな変態野郎だと思っていたら、知り合いだった。


 ≪陥陣営≫


 川崎支部で悪名を轟かしていたガキんちょである。


 昔、≪Mr.ジャスティス≫、≪竜殺し≫と共にTVの取材でインタビューされた時に一緒だったヤツだ。


 その時は取材の途中で何故か2人共、強制排除されたことを覚えている。

 そのことを2人で愚痴って盛り上がり、2人で別スタジオにいたアイドルに絡んだことで仲良くなった男だ。


 あのアホが女になるとは、世の中はわからないなーと思っていると、聞き捨てならないことが私の耳に飛び込んできた。


 なんと! あのアホは私が狙っていたあのRainとデキているらしい。

 しかも、女子中学生にお姉様と呼ばせるうらやm……鬼畜野郎らしい。


 ゆるせん!

 私は神のいたずらでサエコと引き離され、この地で苦しんでいるというのに、あの暴れることしか能のないアホが楽園を築いているなど許されることではない。


 私はあのアホを制裁するため、東京本部に向かいたいが、私は永久追放された身である。


 こうなったら、あいつを名古屋に呼び寄せ、ここで制裁し、Rainを助け出そう(そして私が頂いてしまおう)。

 

 私はそう決意し、情報を集めることにした。


 手始めに、女になったあのアホの写真をなじみの盗撮屋に依頼した(ついでにRainも)。


 私はあのアホ面がどんな女になったのかと、笑いをこらえながら届いた写真を見る。



 ………………うん、制裁はやめておいてやるか。

 一応、大事な友人だしな。

 しかし、うん、なんというか…………アリだな!


 いや! 待て!

 いくら友人とはいえ、この子は私のRainに手を出したのだ!

 それは許されない!


 よし! やっぱり性裁を加えよう!!



 


攻略のヒント

 今日も≪白百合の王子様≫は元気である。

 何故、彼女は1枚の写真であんなにコロコロと表情を変えられるのだろうか?

 そして、最後のそのいやらしい笑みはなんだ?

 お前はここが名古屋支部の支部長室だというのを忘れているのか?

 お前が起こした女性問題の厳重注意中であることを知らないのか?


 私はこの女を理解することは一生ないであろうな


『エクスプローラ協会名古屋支部 名古屋支部長の日誌』

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