第2章
第020話 魔女っ娘ルミナちゃん、参上!!
僕の名前は神条ルミナ。
この春からダンジョン学園東京本部に通う予定の善良な学生さ。
ダンジョン学園とは、ダンジョンを攻略するエクスプローラを育成する養成機関のことだよ。
僕はよく人から目立たない、影がうすいって言われる。
俗に言うモブなクラスメイトその1って感じかな? ハハッ。
そんな僕でも、エクスプローラとして、有名になり、将来は美女に囲まれ、酒池肉林を楽しむっていう、ささやかな夢があるんだ。
学園に入ったら、その夢に向けて頑張るぞ!
えいえいおー!
-事実は小説よりも奇なり-
俺は今ほど、この言葉をなるほどと思うことはない。
どこぞの量産型主人公のような独白をして、現実逃避をしたくなるほどに”奇”だからだ。
俺はエクスプローラである。
それも若くして、Cランクとなり、将来を有望される天才エクスプローラだ。
そんな俺は、数日前に新人エクスプローラ指導の仕事を受けた。
詳細は、バッサリ省くが、俺はそのルーキーとダンジョンの試練に挑み、10年に一人のイケメンから金髪女に性転換した。
意味がわからないだろう?
俺も意味がわからん。
とはいえ、女になってしまったことは仕方がないことだ。
今さら、腐った女みたいにぐちぐちと女々しいことは言わない(女だが)。
こういうのは切り替えが大事なのだ。
何でも、ダンジョンの深層に行けば、男に戻れるアイテムがあるらしい。
そうと分かれば、話は簡単だ。
この天才エクスプローラ様とその一味(1人と1匹)でダンジョンを攻略してやろうではないか!
しかし、俺は今、ダンジョンにはいない。
エクスプローラ協会の医務室から退院(?)した俺は、今住んでいる借家ではなく、東京の実家に戻っていた。
性転換したことで問題が生じたからだ。
服がないのである。
俺は元は175センチのそこそこ長身だったのだが、今は158センチだ。
その差は20センチ弱。
この身長差に加え、男物の服しか持っていない俺は、実家に戻り、血のつながっていない姉と妹に服をもらうという、何か目覚めてはいけないものを目覚めさせるようなことをしている。
「お兄ちゃん(?)、このスカート穿く?」
「スカート~? ミニは穿かねーぞ。そっちのロングをよこせ」
「穿くのかよ! 相棒って、本当にすげーわ」
俺が妹のホノカからロングなスカートを奪うと、俺の耳元から声が聞こえてきた。
俺の肩には白蛇が器用に乗っている。
この白蛇はシロという名前の俺の下僕だ。
ちなみに、シロって名前は、俺のパーティー仲間のシズルがつけた。
まんまだな。
あいつ、センスねーわ。
俺はペンドラゴンの方が良いと思うのだが、全員に反対されてしまった。
かっこいいのに……
「姿が女なんだから気にするかよ。これは俺であって、俺ではない。下着だって、問題ねーよ」
「普通、そうは割り切れねーと思うぞ。俺っち、ちょっと引いてる」
「引くな! お前はこの魔女っ娘ルミナちゃんの使い魔だろ! お前が、僕と契約して魔女になってよって、言ったんだろうが」
「言ってねーよ! 脚色するな! お前、大丈夫か? 無理してねーか?」
シロは心配そうに言い、俺の肩から頭にニョロニョロと移動する(キモいけどもう慣れた)。
「してるわボケ!! こうやってノリノリじゃないと心が折れそうなんだよ! 何が悲しくて、姉と妹から服を貰わないといけないんだよ! ちょっといい匂いがして、自己嫌悪だわ!」
「……相棒ぅ」
蛇は悲しそうにしている。
ふとホノカとお姉ちゃんを見ると、2人はドン引きしている。
ここは実家の俺の部屋であり、ホノカとお姉ちゃんは、俺に服を渡すために、自分の部屋から服を持ってきて、俺の部屋で広げているのだ。
「………魔女っ娘ルミナちゃん」
「………ルミナ君、少し休んだら? ね?」
うわ!
めっちゃ引いてる!
ホノカは俺から目を逸らし、先ほどの俺の言葉をつぶやく。
お姉ちゃんはとても優しそうな目で俺の肩に手を置く。
「ごめん、優しくしないで。泣きそう」
「泣いてもいいんだよ?」
「おねーちゃーん!」
俺は天使な姉に抱き着く。
くんくん、お姉ちゃん、いい匂いがするー。
「よしよし、じゃあ、ルミナ君、今度はこっちの服を着てみようか」
悪魔なお姉ちゃんはそう言って、俺にフリフリのワンピースを渡してくる。
嫌だ。
さすがに嫌だ。
嫌すぎる。
「あの、それだけはやめて。他のだったら着るから」
「お兄ちゃん(?)は、かわいい系よりエロかっこいい系が良いよ。はい、これあげる」
そんな感じで俺は愛しき姉妹から服を貰っていく。
ホノカ! いちいち、疑問形で呼ぶな!
堂々とお兄ちゃんと呼べ。
姉と妹から服を貰った俺は、俺の中の何かを捨て、千葉の一人暮らしの家に帰っていった。
◆◇◆
家に帰った俺は、家にやってきたシズルと今後の予定について、打ち合わせをしていた。
「いい服はあった?」
シズルは部屋の隅に置いてある貰った服の入った紙袋を見て、聞いてくる。
「シズル、お前の旦那はもうダメだ。ノリノリでファッションショーしてたし、化粧もしてたぞ。俺っちはついていけねーよ」
服を貰った後、母親も加わり、化粧道具などを貰い、教わった。
俺はすぐにマスターした。
この時ほど、手先が器用な自分を恨んだことはない。
そして、そんな俺を見て、父親は悲しそうな顔をしていた。
女性陣はキャッキャッしていた。
……死のう。
「そ、そうなんだ。大丈夫! 私は理解があるから……」
理解すんな!
そして、旦那にツッコめ、我が嫁よ。
「俺の話はどうでもいいだろ。それより、この前のダンジョン攻略の成果だ。俺は寝てたから、よく知らないんだよ。どうなったんだ?」
「そうだね…………まず、ドロップ品だけど、オーク肉が2つ、レッドゴブリンとズメイの宝石が計2つね」
シズルは若干、引いていたが、すぐに気を持ち直し、説明を始める。
「試練の報酬は?」
「スキルの実とポーション、そして、装備品は服が出たわ。鑑定してもらったら≪知恵者の服≫だった」
「≪知恵者の服≫? 頭でも良くなるのか?」
「これが鑑定書よ」
そう言って、シズルは俺に鑑定書を見せてくる。
----------------------
知恵者の服
物理防御 +5
魔法防御 +80
魔法攻撃 +30
特性 詠唱破棄
魔術を追い求めた研究者が着る服。
無詠唱で魔法を放つことができる。
----------------------
無詠唱?
チートじゃん。
「これはすごいわ。売れば、いくらになるんだ? ってか、値段つくのか、コレ?」
「協会で騒ぎになってたみたいよ。提供してくれないかって言われた」
「誰がするか。協会はアホなのか?」
「駄目元だと思うよ。パーティーリーダーに聞いてみるって言ったら、やっぱりいいです、だってさ」
だろうな。
俺がタダで譲るとは、協会も思ってはいないだろう。
「今度、メイジかヒーラーがパーティーに入ったら着させるか。戦力になるな」
「ルミナ君が着れば? ≪魔女≫でしょ?」
そういえば、俺ってメイジ系か。
女になった衝撃で忘れてたな。
「相棒、言い忘れてたが、試練の報酬の装備は、試練をクリアしたヤツが装備できるものが出てくる。お前さんが装備しろよ」
「へー。その前に俺って、魔法を使えんのか? ≪魔法使い≫だったら、何らかの魔法スキルを初期で持っているが、≪魔女≫って何かあるのか?」
「あるぞ。魔女っ娘ルミナちゃんにぴったりなのが」
とてつもなく嫌な予感がする。
「ねえ、今後のことを決めたら、ダンジョンに行かない? 試練をクリアしてレベルも上がってるだろうし、≪魔女≫のスキルも確認しようよ、魔女っ娘ルミナちゃん」
モンスターを倒しちゃうぞ~☆彡
「……そうだな、そうするか。じゃあ、次にだが、今後のパーティーの方針を決めよう」
「だね。私の指導って、どうなったの?」
そういえば、こいつの新人指導が仕事だったな。
「新人指導は終わりだな。10階層のボスも経験したし、新人指導としては、やりすぎたくらいだ。とはいえ、お前はパーティーメンバーだから、今後も色々と教えていく。まあ、今までと一緒だな」
手取り足取り、色々教えちゃうぞ~☆彡
「うん、ありがとう。これからもよろしくね」
「俺っちも色々教えてやるよ。知識だけはある」
シロも手取り足取り、教えるらしい。
手足ないけどな。
「シロもありがとう。これからの方針はレベル上げ?」
「だなー。それとやはり、パーティーメンバーを増やしたい」
「私達2人だもんね」
パーティーは最大6人まで組める。
協会が推奨する人数も3人以上だ。
俺達は全然足りていない。
「ああ。俺はレベルが高いし、お前のジョブの≪忍者≫は有用で、お前自身も才能がある。だから、当分は問題ないと思っていた。しかし、この前のズメイ戦で考えが変わった」
そう。
あのズメイ戦でソロの限界を知った。
確かに、俺達はズメイ相手にも互角以上に戦った。
しかし、もし、もっと仲間がいれば、どうだっただろうか?
もっと安全に戦えたと思うし、あのピンチも簡単に切り抜けたはずだ。
「そうね。ヒーラーがいれば、ルミナ君がやられたマヒ毒だって、治せただろうし」
「ああ。それにタンクがいれば、俺は攻撃に専念できた。メイジがいれば、ヤツの複数の首を同時に狙えた。あの時のお前の水遁の術のようにな」
あの水遁の術がなければ、俺は勝てなかっただろうな。
「仲間かー。プロのエクスプローラか、学生か、どっちかな?」
「プロはやめた方がいいな。奴らは生活をかけている。学生の俺達とは足並みが揃わない。やはり、学生だろうな」
俺達が昼間に学校に行っている時間を無駄にしたくないだろうしな。
一応、俺もプロだが、例外だ。
「学生か……狙い目は新入生?」
「わからん。俺の評判は悪いし、敬遠されるかもな。あと、お前目当ても除外だ」
「難しいね。あまり、選べる立場じゃないんだろうけど」
シズルはうーんと悩んだ表情をしている。
こいつも複雑なんだろうな。
仲間は欲しいが、この前のいきすぎたファンみたいなヤツが入っても、パーティーが瓦解するだけだろうし。
「それは入学してから考えるか。良い出会いに期待するしかない」
「そうだね」
掲示板募集もあるが、やめたほうがいいな。
良くも悪くも、俺達は有名すぎる。
「ところで、お前ら、学校っていつからだよ」
今まで静かにしていたシロが聞いてくる。
「明後日からだ。お前、家にいるか? それとも、ついてくるか?」
「ついていってもいいのか?」
「いいぞ。ただし、あまり外には出るな。いつも通り、俺の服の中に居ろよ」
「おう。やったぜー。さすがに昼間、ずっとここにいるのはつまんねーからな」
外に出たいから俺の下僕になったのに、ずっと家だったら、確かにつまらないわな。
ちなみに、こいつは外に出る時、大体、俺の服の中にいる。
最初は気持ち悪かったが、もう慣れた。
「初日は入学式とオリエンテーションだよね?」
「だったかな? あとは、クラスで自己紹介とかか。俺はどんな感じでいけばいいのか……」
どうみても女な俺が、男ですって言ったほうがいいのか?
言ったほうがいいか。
俺って、かわいいし、告白とかされたら嫌だわ。
「皆、知ってると思うよ。ルミナ君は有名だし。あと、制服はどうするの? ダンジョン学園は私服でも大丈夫だけど、さすがに入学式は制服じゃないとマズくない?」
ダンジョン学園は私服が許されている。
何故なら、授業の半分以上が実技だからである。
例えば、1限が実技、2限が座学、そして、3限がまた実技だった場合、その都度、着替えるのは時間が無駄すぎるのだ。
指定の制服もあるが、これは入学式や外部との交流などのイベントで着るものだ。
「制服は発注したんだが、間に合わない。学園に事情を説明したら、入学式は後ろで見ていることになった」
「そっかー。一応、聞くけど、制服って女子用だよね?」
「当たり前だろ。男子用を着るほうが変だわ」
「なんか、ルミナ君がどんどん遠くに行っていく」
むしろ、女のお前に近くなってるわ!
攻略のヒント
ジョブを獲得、もしくは変更したときに初期スキルを持っていることがある。
そのジョブへの適性が高い場合には、複数ある場合もある。
『はじまりの言葉』より
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