第014話 いきすぎたファンとコスプレ?


 正式にパーティーを組んだ俺達は、頼んでいたダンジョン定食を食べながら話を続ける。

 

「それで、今後の予定って言ってたけど、具体的にどんなスケジュールで私のレベルを上げるの? レベル10くらいって言ってたよね?」

「ああ。この春休みの間にボスの手前、つまり、9階層まで攻略する。そうすれば、大体そのくらいのレベルになるだろ。ボス討伐以降は学校が始まってからだな」

「1日1レベル? 良く知らないけど出来るの?」

「普通は無理だな。だが、強い敵を倒せば、経験値も大きく、レベルが上がりやすいからな。なるべく、強い敵に挑む」

「大丈夫かな? まあ、ルミナ君は問題ないだろうから最悪、私が死んでも復活は出来るか」


 シズルは平然とした表情で言う。


「お前のスキル≪度胸≫ってすげーな。普通は復活することがわかってても、死ぬのは嫌がるぞ」

「私だって嫌よ。でも、多少の無茶をしないと無理だってわかってるもの」


 どうやらシズルは覚悟を決めているようだ。


「安心しろ。そのために秘策がある。飯食ったらお前を強化する」

「強化? またダンジョンに行ってレベル上げ?」


 んなわけあるか。

 人の話、聞いてたか?


「違う、違う。お前の装備を整える。武器は今日渡した短剣でいいだろ。防具だが、実はお前が装備出来そうな良いものを持ってる」

「私、レベル2よ。適性が低いと、そんなに良いものは装備出来ないけど」

「見ればわかるが、お前の適性にバッチリだ。この後、家に行くから取りに来い。ちなみに、欲しければ、武器もあるぞ。昔、俺が使ってた≪血塗られた短剣≫ってヤツ」


 懐かしき我が愛剣。

 東城さんにはまったく通じなかったけどね。


「それって例の? 嫌よ、なんか呪われてそう」


 失礼な!

 呪われてねーわ。

 ……多分。


「まあ、武器はいいか。そういえば、忍者の武器ってなんだ? 手裏剣?」

「忍者刀っていう小太刀みたいなヤツじゃない? そんなのある?」


 あったかな?

 日本刀はある。

 結構人気。


 俺は他のエクスプローラの武器を思い浮かべながら思考する。


「うーん、まあ、取り合えずは短剣を使っておいて、似たようなヤツを探そうぜ。多分、あるだろ」

「そうね、そうしましょう。それにしても美味しいわね、ダンジョン定食」

「な? これを優先的に食べられるんだからエクスプローラになって良かったって思うよな」


 俺達は料理に大満足し、店を出た。


「いやー、うまかったなー」

「うん、奢ってもらってありがとう。ごちそうさま」

 

 シズルは俺にお礼を言う。


「よし、家に行こぜ」

「うん、お邪魔するね」


 一緒にランチを楽しんだ後に、一人暮らしの男の家にいく女。

 彼女っぽくね?

 いやー、春だなー。


「おい! Rainさんから離れろ≪レッド≫!!」


 俺がシズルとの別のお楽しみを妄想していると、店の向かいにある協会から背の高い男が目を血走らせながら俺に怒鳴ってきた。


 なんだ、こいつ? 変質者か?

 いやー、春だなー。


「あん? 誰だお前?」

「いいからRainさんから離れろ≪レッド≫!」


 おや? 話が通じないぞ。

 選択肢を間違えると、同じことを繰り返して言うRPGの村人かな?


「シズル、誰? 知ってる?」

「え? ルミナ君の知り合いじゃないの? 私は知らないけど」


 ってことは、Rainって言ってたし、いきすぎたファンかな?

 シズルはもう歌手を辞めるって言ってたし、こいつは退治してもいいよね?


「おい、≪レッド≫! Rainさんが嫌がってるだろ! 離れろ」


 そう言いながら変質者はRainことシズルに近づいていく。


 こいつ、幻覚を見てんのか?

 シズルのどこが嫌がってんだよ。

 こんなに嬉しそうに俺に寄り添っているというのに(幻覚)。


「え? いや」


 シズルは変質者に完全に引いており、変質者が近づいてくると、後ろに一歩下がった。

 俺は近づいて来る変質者からかばうようにシズルの前に出て、シズルを変質者から隠す。


「くそっ! どけ≪レッド≫!」


 さっきからレッド、レッド、うるせえよ。

 俺はポケ○ントレーナーじゃねーぞ。

 もういい、殴ろ。


「おい! 何の騒ぎだ!!」


 俺が変質者をゴミ箱に処分しようとすると、協会から立派な髭の初老の男が現れた。


「ん? お前か、神条……またトラブルか? 今度は何をした?」


 えー、信用ねー。

 ひでー!


「え? 俺?」

「ハァ、どうせお前だろ? ん? お前、その女性に絡んでるのか?」


 えー、マジで信用ねー。

 ひでー!


「ちげえよ。こいつは俺が指導してる新人だよ。しかも、さっきパーティーを組んだんだぞ。なあ?」


 俺は反論し、シズルに問いかける。


「お嬢さん。本当か?」

「あ、はい。神条君に指導してもらってる雨宮です。先ほどパーティーも組んでもらいました」

「おー。本当か! 良かったな、神条! 川崎支部の園田も心配してたんだぞ」


 失礼なおっさんは笑いながら俺の背中を叩く。

 園田とはハゲこと川崎支部の支部長の名前だ。


 いてーわ、ボケ!

 あと、誤魔化すな。


 この失礼なおっさんは、川崎支部の支部長の同期で、この東京本部の本部長である。

 ちなみに、支部長と違い、髪はフサフサ。

 しぶちょー(泣)


「で? お前、何したんだ?」


 まだ、俺のせいだと思ってるよ。


「知らねーよ。俺はこれからシズルとパーティーの打ち合わせをするために、家に帰るの。そしたら、そこの変質者が絡んできたんだよ」

「ん? そうなの「家に行くだぁ!?」


 俺と本部長が会話をしていると、変質者が急に切れて、本部長のセリフに被せて叫んできた。


「てめえ!! 何でRainさんを家に連れ込もうとしてんだよ!!」

「うるせーな。俺がRainさんとやらと何しようとお前には関係ないだろ」

 

「Rain?」

「あ、私のことです」


 後ろで本部長とシズルが小声で話している。


「もう許さん!」


 変質者はそう言うと、急に変質者の手に槍が現れた。

 ≪空間魔法≫である。


 おい、ここ街中だぞ。

 

 変質者は槍を構えると、俺に突進しながら槍を突き出してくる。


 遅っ! ただの雑魚じゃねーか。


 俺は突き出された槍を掴む。


「くっ! くそ、離せ!」


 変質者は掴まれている槍を俺から離そうとするが、動かない。


 力も弱えー。

 こいつ、こんな実力で俺に挑んだの?


 俺はもう面倒くさくなったので掴んでいる槍を手前に引く。

 すると、変質者は俺の方に体勢を崩されながら引き寄せられる。

 俺はそんな無防備な変質者の顔面を殴り飛ばした。


「ぐはっ! げぷっ」


 殴り飛ばされた変質者は宙に舞い、そのまま地面に叩きつけられて動かなくなった。


「おいっ!」


 本部長は慌てて、変質者に近寄る。


「俺達は急いでるから行くぜ。あんたも見てたろ? 今回ばっかりは100パーセント、そいつが悪い。シズル、行くぞ」

「えぇ!? いいの?」


 俺はもう完全にめんどくさくなったので、家の方に歩いていくと、シズルは本部長と俺を交互に見てたが、すぐに俺の方に走ってきた。


「ねえ? 大丈夫なの?」


 走ってきて、追い付いたシズルは俺の横を歩きながら聞いてくる。

 

「問題ねーよ。あれで俺が悪いって言われたら、さすがに切れるわ」

「でも、説明とかしないといけなくない?」

「何を説明するんだ? 天下の往来でいきなり武器を出して攻撃した。見たまんまだろ」


 当たり前だが、エクスプローラがエクスプローラを攻撃するのは違反だ。

 しかも、一般人もいる外で。


「あんなヤバいヤツ、ほっとけ。外であんなことをしたら警察が動く。協会もかばえねーよ。二度と会うことはない」

「うーん、そうかなー?」


 シズルはまだちょっと納得していないようだ。


「まあ、何かあれば連絡が来るよ。それより、ほら、あそこの平屋が俺が今住んでいるところだ」


 俺達は歩きながら話していると、俺の家が見えてきた。


「え? 一軒家? ルミナ君って、一人暮らしじゃないの?」

「いや、一人暮らしだ」

「アパートじゃなくて、一軒家を借りたの? 高いでしょ」

「まあ、そこそこに。荷物が多いんだよ。そういえば、お前はどうすんの? 通い? 寮?」

「私は寮に入るわ。家からは遠いし、アパートを借りようとも思ったけど、家賃を見て、やめたわ。この辺ってすごく高いわよね」


 確かに高い。

 ダンジョン近くは多くの高収入エクスプローラが集まるため、街は発展していき、当然、地価も高くなる。

 まして、ここは東京本部。

 俺が借りた一軒家はかなり高い。

 

 まあ、一括で払ってやったが。

 おかげで俺の貯金はかなり減少した。


「女子寮のことは、よく知らないけど、大丈夫か? 中学の時の男子寮は結構ひどかったぞ」

「見学もしたし、大丈夫よ。入学者が年々増えてきたこともあって、去年、新築したらしいわ。かなり快適そうよ」


 マジで?

 川崎支部の男子寮は監獄みたいだったぞ。

 入寮してるヤツも受刑者みたいなヤツばっかだったし。

 ……俺は違うぞ。


「ならいいか。まあ、お前の場合は一人暮らしより寮の方がいいかもな。さっきみたいなトラブルが起きやすいし、ああいう変なのに付きまとわれやすそうだわ。何かあったら言えよ? 俺はそういうゴミ処理が得意なんだ」


「やめてね? ハァ……すでに変なのに付きまとわれてる」


 シズルはぼそっと、俺に聞こえないように呟く。


 聞こえてますよ。

 絶対に逃がさないからな。


 俺は好感度がガンガン下がっていることを気にせず、シズルを家に招いた。


「まあ、上がれよ。コーヒーが良いか? 紅茶が良いか? なんならホップな炭酸飲料もあるぞ」

「お邪魔します……紅茶をお願いするわ」


 おや? スルー?


 俺がキッチンにお茶を準備しに行くと、ジト目のシズルはコタツ机の前に置いてある座布団に座る。


 ベッドに座ってもいいんだよ?


「本当に良い家ね? すごい高そう」

「実際、高いぞ」

「ねえ? Cランクって、そんなに儲かるの?」

「1回の探索でお前の今日の稼ぎの10倍は稼ぐぞ。運が良ければ、もっと稼げる」


 レアアイテムを手に入れれば、まさしく一攫千金だ。

 ただし、ポーション代などの支出も多いし、危険だけど。


「すごいわね。夢があるというか」

「ハイリスク・ハイリターンだがな。リターンばかり見るなよ? そういうヤツはエクスプローラからの引退だけでなく、人生からも引退する」


 俺はコタツ机に持ってきた紅茶を置きながら、シズルに忠告する。


「わかってるわ。でも、ルミナ君って、意外と考えてるよね。猪突猛進みたい性格なのに」


 誰が猪だ。

 ブヒ。


「それは俺のスキル≪冷静≫のおかげだ。これがあるからどんなピンチになろうが、自分を見失うことはない。これがなければ、とっくに引退しているだろうなー。そういう意味では、お前の≪度胸≫もかなり良い。普通は初の実戦で、あそこまではやれない」

「びっくりしたけどね。最初は緊張してたし、ちょっと怖かったんだけど、探索しているうちに、どんどんやる気が起きてきたから」


 やはり、他の後輩連中にも≪度胸≫を取らせるべきだったかもしれん。

 特に日本人はそういうのに欠けているし。


「まあ、俺の≪冷静≫とお前の≪度胸≫の組み合わせは、相性が良さそうだし、今後は頼むぞ」

「確かにそうね。こちらこそよろしく」


 相性バッチリ。

 結婚する?


 俺達は雑談しながらお茶を楽しんでいたが、飲み終えたので、本題に入る。


「それで、私が装備できそうな防具って何?」

「ちょっと来い」


 俺はそう言って、シズルを隣の部屋に誘う。

 シズルと隣の部屋に行くと、そこにはたくさんの武器や防具が棚に並べられていた。


「うわぁ、すごいわね!」

「これらは、俺が売らずに取って置いておいた武具だ。俺はパーティーリーダーだったから俺が装備できない武具でも、ある程度はストックがある」


 パーティー解散時に分配したから、これでも減ったほうだ。

 ちなみに、魔法袋も分配したため、持ってない。


「へー。あ、これかわいい」


 シズルは棚に置いてあったマフラーを取る。≪疾風のマフラー≫だな。




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 疾風のマフラー

 物理防御 +10

 特性 速度上昇 緊急回避


 風のようになれるマフラー。

 危険が迫った時に自動で回避できることもある。

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「欲しければやる。俺はマフラーなんかしないし、能力的に必要ない」

「いいの? 貰いすぎだよ?」

「パーティーを組んだんだから問題ない。気にするなら、その分、パーティーに貢献しろ、副リーダー」

「わかった。ありがとう。頑張るわ」


 シズルは≪疾風のマフラー≫を握りしめ(おい!)、決意を固める。


「よし、お前が装備できそうなのがこれだ」


 俺はそう言って、棚に置いてある段ボールから服を取り出す。




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 闇の装束(女性用)

 物理防御 +70

 魔法防御 +10

 特性 状態異常耐性


 闇に生きる謎の女性が着る装束。

 状態異常に耐性がある。

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「えーと、なんかすごくない? 物理防御の値が高いし、状態異常耐性もあるけど」

「まあな。これは川崎支部のダイダラ迷宮で手に入れたシロモノだ。俺のパーティーは全員男だったから新品だぞ」


 いつか女がパーティーに入ることを夢見て、取っておいた装備品だ。

 叶ったー、やったー!


「ふーん。でも、こんな良いもの、装備できるかな?」

「多分できるぞ。着てみればわかるが、忍者っぽいっていうか、くノ一っぽいから。ほら、早速、着替えてみろよ」


 俺はそう言うと、その場で腕を組み、じっとシズルを見る。


「…………」

「…………」


 負けないぞ!


「……出て行って」


 ……はい。


 妹ならその場で着替えてくれるのに。


 俺はリビングの方を指差すシズルを横目に、しぶしぶ出ていく。


「あと、覗いたら、本当にパーティー解散するから」


 怒られちゃった。



 部屋を出て、しばらくリビングでくつろいでいると、着替えたシズルが出てきた。


 ≪闇の装束≫は、くノ一のような格好であり、動きやすさを重視しているようで、丈が短い。

 そのため、シズルのふとももが丸出しとなっている。

 コスプレ?

 エロい。


「なんか丈が短いし、露出多くない?」

「まあ、ローグ系の装備だからな。恥ずかしいのはわかるが、ダンジョン内ではあまり人に会わないし、我慢しろとしか言えない。協会内では、私服を着てればいいだろ。≪空間魔法≫の早着替えがあるんだし」


 シズルは恥ずかしそうに手でふとももを隠している。

 隠す仕草が余計にエロい。


「うーん、まあ、いいか。性能は良いもんね。見るのはパーティーメンバーぐらいだろうし、歌手やってた時もきわどい衣装はあったしね」


 シズルはそう言うと、恥ずかしそうに隠すのをやめ、堂々とし始めた。


 お前のスキル≪度胸≫って、本当に有用だな。


「まあ、お前がいいならいいか。準備はこれで終了だ。明日から本格的にダンジョン攻略するぞ。時間はまだあるし、余裕でポーションを手に入れられると思う」


 シズルは頷き、目標に向けて前向きとなっている。

 そんなシズルを見て、俺も力を貸そうと本気で思った。


 その日は、翌日の集合場所と時間を決め、シズルを駅まで送っていき、駅で別れた。


 家に戻った俺は、明日から頑張るぞと気合を入れ、早めに休むことにした。




攻略のヒント

 防具を着ると、防御力が上昇し、敵からのダメージを軽減できる。

 露出の多い≪踊り子の服≫などを装備し、露出した肌を攻撃されても、何故か、ダメージを軽減できる。

 理由は不明である。


『ダンジョン指南書 防具を装備』より

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