第54話 女性が3人で姦しい

 ノエルはアーネラ、マステマをつれて宿を出る。

 手にはアハバインの財布を持っている。


「それじゃあ行きましょうか」


 ノエルがそう言うと、三人で周囲を観光する。


「それにしても……」


 ノエルは自分の服を前と後ろを見ると、スカートを握る。


「その、この服って結構露出が多いね。マントを脱ぐと上も結構……下にズボンを着ているから構わないんだけど」

「肌触りとかは凄く良いから、服自体は結構いいんだけど」


 アーネラがスカートの端を少しめくる。

 太ももが露わになり、下に来ているズボンが見える。


「そうか? 私は結構気に入った。動きやすい」

「マステマは露出が多い服が好きだよね」

「人間と違って肌を出すのが恥ずかしいとは思わないだけ」


 そう言ってマステマは服を摘まんで引っ張る。


「それにしても、相変わらずアハバイン様は豪快というか」


 ノエルは財布を見る。

 気前が良いというレベルではない。金に頓着がないレベルだ。


 落としたり使い切ってしまったらどうするのか。


 勿論ノエルもアーネラもそうするつもりは一切なく、無くさないように気を付けるつもりだ。


「どんどん使うよね。魔道列車とか本当にびっくりした」

「凄いのはいくら使っても使ってもお金に困らない所だと思う」

「不思議な事を言う。あいつがお金に困らないのは当然」


 いつの間にか飴を買ってなめていたマステマが、話していた二人にそう言う。

 ノエルとアーネラは頭を傾げた。


 マステマの言葉があまりにも足りず、なぜそうなのかがさっぱり分からない。


「??? ああそうか。人間には人間の因果は見えないのか。そうか」


 ようやくマステマはノエル達が全く分からない理由に気付く。


「黄金律だ。簡単に言うと人生でどれだけお金が巡ってくるかという基準」


 マステマは飴を噛み砕き、牛乳と砂糖を煮固めたものを口に放り込むと甘さに舌鼓を打つ。

 きゃらめる、というお菓子らしい。

 火の加減が難しいのだが、そこは魔道大国。


 魔法を使うことで楽に作れてしまう。


「あいつはずば抜けている。本人の気質も相まって金に困ることは無いだろう。最初は私も驚いた。マモンと契約しているのかと疑ったくらいだ」


 マモン。地獄で最も金が好きな悪魔であり契約者に黄金を授ける悪魔でもある。

 魔王の一人でもあり、どうやっているのか偶に人間と契約しては対価として死んだ後の魂と授けた黄金を回収し、それでさらに黄金を作るという事をしている。


 マモンとマステマとの仲は良くも悪くもない。領地も遠いしマステマが仕える魔王は外交を一切しない。


「という訳で気にせず使え。使えば使うほどあいつの金は巡り巡って帰ってくる」


 そう言って財布から金貨を取り出して見せる。


 ノエルとアーネラは感心していた。


「悪魔に褒められるほどお金の巡りがいい、ってすごいね」

「帝国で一番の冒険者に上り詰める人はやっぱり特別なんだね」


 キャッキャッとお喋りしている。


 アハバインの前では二人はある程度演技をしているものの、こうしてアハバインの居ないときは肩の力を抜く。


 もっともアハバインがこの光景を見たところで気にもしないだろう。

 仕事さえしていれば好きにしろ、というのが彼の信条だ。


 周りには黒いローブを付けた若者ばかりだ。

 それだけ魔道学園の生徒が多いという事だろう。


 ノエル達が来ているような服はほぼ見ない。

 ただ、特別珍しい訳ではないのかアハバインの想定通り大きな注目を集めることは無かった。


 マステマが二人の口にもきゃらめるを詰め込む。


「甘い~」

「これ凄く美味しいね。材料は……砂糖と牛乳だけかぁ。作ってみたらアハバイン様も喜ぶかな?」

「作ったら私にもくれ」


 きゃらめるを食べ終わると、周囲の店などをひやかす。


 帝国の品ぞろえとは全く違って面白い。

 食材を売っている店にしても見たことのない野菜が並んでおり、雑貨を売る店では箒が目玉標品として売られている。

 どうやら魔力を使って飛べるらしい。


 ノエルとアーネラは魔力もあるし簡単な魔法は使えるのだが、流石に箒を手に取ってみても飛ぶ事は出来なさそうだ。


「ふぅん。まあ私は自前で飛べるけど……おっ?」


 マステマが箒を握った瞬間、溢れる膨大な魔力が箒に流れてしまい空へと滑空していった。


 見事な滑空である。止める間もなかった。


 暫く空の上へ飛んで行った後にマステマは箒を手放して地面に着地し、落ちてきた箒をキャッチする。

 そこまでは良かったのだが、箒の先は完全に荒れ果ててしまっている。


 流石に買取となってしまった。


「力だけではなく魔力も制御しなきゃならないなんて。なんて面倒なんだ。もっと強くなれ人類」


 マステマは人類の弱さと人類向けの道具の脆さを嘆いたのだが、当然ながらノエルとアーネラは苦笑するしかなかった。


 マステマが余りにも規格外なだけである。


 それからカフェに寄る。どうやら本屋とカフェが一体化している店のようで、買った本を席ですぐに読めるらしい。


 この国では紙の量産化に成功しているらしく、本の値段は帝国に比べて10分の1以下だ。

 マステマはあっという間に奥に行くと、目ぼしい本を持てるだけ持ってさっさと清算してしまった。

 いくら安いとはいえ量が量だけに何枚か金貨を使う。


 そして席に陣取り、本を開き始めた。

 マステマが集中しはじめる。こうなると長い。


 ノエルとアーネラは飲み物とお菓子を注文し、マステマが読んでいない本を開く。

 二人は奴隷商の所で高い教養を身に着けるための勉強もしていたので本を読むのも問題ない。

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