第36話 これもまた戦場
「どうですかご主人様?」
そういってアーネラが俺の前で一回転する。
スカートが舞い上がり、健康的な太ももが露わになる。
それでいて下着は見えないように十分な丈があり、いやらしさはない。
アーネラが着ているのは事前にカスガルから支給された給仕用の制服だった。
「良いんじゃないか。これがカスガルの店の制服か」
「結構可愛いですよね。多分着たがる女の子もいると思いますよ」
俺はスカートの端を摘まんで少しだけめくってみる。
膝上まであるからな。下着は結構めくらないと見えない。
「あの、ご主人様……この制服を汚すのはお止めになった方が」
「欲情してるわけじゃない。確認だ」
「そうでしたか」
でも予備は貰おうかな。楽しめそうだ。
明日がいよいよカスガルの店のお披露目だ。
事前に確認しておくためにノエルもアーネラも着替えさせた。
カスガルの趣味だとしたら大したものだ。
あいつに限って嫁を裏切ることは無いと思うが。というか裏切ったら間違いなく死ぬ。
俺の服は黒い礼服だ。裏方だしな。
そしてマステマの服はというと。
「アハバイン。私はウサギじゃないんだけど。悪魔だよ悪魔。地獄では大きな領地も治めてる大悪魔」
そう言って出てきたのは革を使った衣装を着たマステマだ。
バニースーツという衣装らしい。
頭にはウサギの耳を象った飾りをつけ、まるでワンピースの水着のように肌を出している。下半身には網タイツを履いている。
これは俺の発案だ。カスガルにも了承させた。
賑やかしには良いだろう。
遠い東方の地で流行っている服らしく、最近こっちにも流行りが流れてきたらしい。結構高かったのだが、三着とりあえず買った。寸法もこいつらに併せてある。
マステマのスタイルが良ければいかがわしい店に見えるが、こいつのスタイルならそこまでいやらしくない。
「何か不愉快な事を考えている」
「いやいや。良く似合っていて可愛いぞ。ホラ」
俺は飴玉をマステマにやる。
「そうか? なら良いけど」
飴玉を口いっぱいに頬張ったマステマはご機嫌になった。
そして迎えた店の営業当日。
早朝からカスガルの店に入ると、中は大忙しだった。
資材搬入に料理の準備、会場の設営に業者との折衝。
大勢が行き来している。凄まじい熱気だ。
俺はようやくカスガルを捕まえる。
「早いな。来てくれたか。悪いな慌ただしくて」
「凄い事になっているな。適当に手伝っていればいいか?」
「すまん。助かる。納品があるんだ、もう行かないと。また後で」
そう言って走り去ってしまった。
あんなカスガルは見たことがない。それだけ大変なのだろう。
冒険者ってやつはパーティーを組んでいてもかなり自由だったからな。
一番手が足りてなさそうな厨房に顔を出す。
ノエルやアーネラは手先が器用だし、良く働くが力仕事をさせてもしょうがない。
料理人達が鬼の形相でこっちを見たが、ノエルとアーネラを手伝わせるというと仏の顔に変化した。
二人は手際よく厨房の手伝いを開始する。
凄いな料理人より手際が良いんじゃないか?
料理人達もそれを見て負けじと作業を開始し始めた。
これなら厨房は問題ないだろう。
後で労ってやらねば。
俺とマステマは力仕事をやる。
体格が良い俺はともかく、バニースーツを着たマステマが大きな荷物を持ち上げて移動しているのを見ると多くの人がぎょっとしていた。
だが忙しさに飲まれてすぐに誰も気にしなくなる。
荷物の搬入でひたすら往復し、会場の設営を終わらせる。
身重のレナティシアも家でじっとしていられなかったのか様子を見に来た。
荷物を運ぶ俺を見て爆笑していたが。
俺はお前らの為に手伝っているんだが……。
「ごめんなさい。びっくりしちゃって」
「全く。まあいいけどな」
「その子が噂の子ね。良く懐いてるじゃない」
「こいつは食い気と遊びたいだけだ」
「子供らしくていいじゃない。悪魔と聞いたけど。アハバイン、貴方も冒険者から他の仕事をする気はない?」
「まだないな。やる事がある。だが……」
俺はカスガルの店を見渡す。
活気にあふれた場所だ。
店が繁盛するかどうかは分からないが、こういうのも楽しい。
元々冒険者はお祭り好きだからな。
こういう雰囲気は俺も嫌いじゃない。
「まあ考えておくよ。金は稼ぎたいしな」
「頑張りなさい。体に気を付けてね」
「それはこっちのセリフなんだがな」
レナティシアは冒険者だった頃に比べてずっと幸せそうだった。
あんなに笑うことは無かったし。どこか疲れている様子が何時もあった。
大まかな作業が終わり、店の前にも人が集まり始めている。
オープンセレモニーでは店の外にも食べ物を出して無償で提供するらしい。
招待した客だけ中にいれるそうだ。
招待客には冒険者として縁が深いニアやマーグもいる。
そこまで格式ばった場所ではないから、あいつ等も楽しめるだろう。
俺とマステマは中で手伝うことも無くなり、本来の仕事である警備員としての仕事を開始する。
ちなみになぜかアーネラとノエルは厨房の総料理長や副料理長に指示を出していた。
どうなっているんだ。指示されている方はまるで弟子であるかのようにテキパキと動いているし。
外で集まった人たちに開始の時刻を伝え、十分な料理を提供するから時間まであまり集まらないように伝える。
そもそもこの辺は立地のいい場所で行儀のいい人ばかりだ。
料理目当てというよりは、新しい催しが気になるのだろう。
そして、いよいよカスガルの店がオープンした。
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