第23話 奴らの目的はなんだ
ケラー枢機卿との話し合いを終えて、俺は大教会へ向かっていた。
枢機卿からはロザリオと諸々を記した羊皮紙を受け取っている。
帝都の外れにある大教会はここからだと歩きでは半日かかる。街中では流石に雷剣は使えない。
相応に鍛えてあるが、限度がある。
鎧はいらなかったな……重いし邪魔だ。
ペースを落とさず走り抜けていると、不意に人気がが無くなる。
不自然なほどに。
俺は即座に雷剣を抜いた。
赤いフードを被り、武装した集団が周囲を取り囲む。
「何者だ。名を名乗れ」
赤いフードの集団は一言も喋らない。
各々が剣なり短剣なりを装備し、俺に殺意を向けている。
帝都での殺傷沙汰はご法度なのだが……侯爵といい、血の気が多いことで。
邪教のアサシンといったところか。
だが、何故俺を狙う?
大教会ではコイツらの味方が今にも全滅しそうだというのに。
まさか俺と枢機卿の会話を聞いていたのか?
教会騎士代行の俺を殺せば時間が稼げると?
舐められたものだ……。
しかし、枢機卿のお膝元で盗聴されるとは。
あの女の場合わざと見逃した可能性もある。
あとで問い詰めなければ。
雷剣に魔力を込めた。
俺を狙う愚かさを知るが良い。
邪教のアサシン達は連携こそ洗練されたものであったが。しかし悲しいかな、俺を相手にするには武器も奴ら自身も貧弱過ぎた。そもそも雷剣対策がされていない。話にならん。
普通の冒険者相手なら十分な戦力だろうが、上級冒険者を侮り過ぎだろ。
雷剣で加速した俺について来れないやつから始末していくと、半分になった時点で奴等は死体を連れて逃げ出した。
追いかけて一人は生かして捕まえたかったが、今の俺は忙しい。
また俺を狙ってくるかもしれないな。
或いは……あいつら用に何か用意するか。
再び走り回っているとやがて人も建物も少なくなる。次第に巨大な教会が見えてきた。その周囲を軍隊が囲んでいる。
侯爵の旗が見える。侯爵軍は見るからに殺気だっていた。
旗の下には一際立派な鎧に身を包んだ壮年の男が両手を組んで大教会を見据えている。
隣ではニアがなんとか侯爵に話しかけているが、完全に意気消沈している。
普段は元気よく伸びている耳も垂れ下がっていた。
俺が近づくと何人かの騎士が阻もうとする。
俺は教会から預かった十字架と枢機卿のサインが刻まれた羊皮紙を見せる。
侯爵はそれを受け取ると、隈なく確認した。
「来たか……手間を掛けたな」
「お待たせしました侯爵様。教会は異端討伐を教会騎士代行の私に命じ、侯爵様はそれを援助したという形で」
「あいわかった。我が騎士達よ。我が家名に泥を塗った者達にその代償を教えてやれ!」
侯爵の声を皮切りに、騎士達が大教会になだれ込む。
すぐに剣戟の音が響き、やがて音が消える。
本気の騎士はおっかない。全身を鎧で武装した筋肉達磨だ。絶対戦いたくないな。
デカい魔獣の方がまだ楽だろう。
一緒に突っ込んで行った侯爵が、剣の血を拭いながら出てくる。
帝国の武闘派筆頭は伊達ではない。
「感謝する。我が家名と娘の名誉はこれで守られた。一人生捕りを試みたが自殺しおった。背後まで調べたかったが……」
実行犯はこれで全滅だ。調べても恐らく何も出てこないだろう。使い捨ての駒、か。
俺を襲った連中も衣装から察するに繋がりがあるだろう。
教会の中は……凄惨な状況だった。
血が飛び散っているが、それ以外はここはあの時と変わっていない。また脚を踏み入れることになるとはな。
天剣が震える。因縁の場に反応しているのか。
俺は教会から外に出て、大教会を見上げる。
修復された十字架が輝いていた。
王国某所
元帥は頭を抱えていた。
「実行部隊が全滅か。あと少しで撤収出来たのに」
「思いの外、侯爵軍の動きが早く……それに加えて例の冒険者に送った刺客が容易く撃退されるとは」
「クッ、後手に回っておる。王女派は軍にも影響を及ぼし始めているのだ。このままでは我々の不正にも言及し始めるぞ。何かないのか!」
「ございますとも」
焦った王国軍元帥の声に反応したのは、幽鬼の様な男だった。
「本当か? 動かせる駒はもうないぞ」
「いえいえ。私が直接動きましょう。準備は生贄以外整っております」
「また誘拐か? しかし適した生贄のあの娘をまた攫うのは難しいぞ」
「生贄ならもう一人居るではありませんか。偉大なるロイヤルブラッド。かつ若い娘。王女殿下に生贄になって頂きます」
「何を言っておる! いかに対立しているとはいえ王族を生贄になど……、明るみになれば死罪は免れんぞ」
「気にする必要はございません。いままでの御協力に感謝します」
幽鬼のような男はそういうと、王国軍元帥の首を切り落とした。
「なっ!?」
返す刀で隣の将軍を袈裟斬りにする。
剣を抜く間も無く、将軍は息絶えた。
幽鬼のような男は黒い孔を生み出すと死体を投げ入れた。
「さて、予定はだいぶ狂いましたが始めましょうか」
返事をする者は誰も居ない。
男が部屋を後にすると、痕跡さえ消えた。
王女の行方不明の知らせが帝国に届いたのはその10日後だった。
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