DUEL

弾、後晴れ

第1戦 相対




 どこまでも穏やかな草原が続く平和な島。そんな平穏が保たれていた場所に、会い対する人影が二つ。 

 長い黒髪を垂れ流す女は腰に刀を提げ、もう1人に青色の敵意の目を向ける。

 一方、黄金色の髪をした男は両手に自動拳銃をプラプラと下げ、ふざけた様子で挑発的にニヤニヤと笑っていた。

 「構えろ。ゲラ。」

 「おいおい一体何がどうしたってんだよルーマ。そんな仕事道具なんか持って。」

 女は柄に手を置き、再び繰り返す。

 「構えろ。身に覚えがないとは言わせんぞ。」

 「ったく…しょうがねぇなぁ。」

 ガシャッというコッキング音が辺りに響き渡った。



 「覚悟しろ…」

 相手に聞こえるかどうかも分からない囁き声、しかしこれが開戦の合図となった。踏み込み、抜刀。神速の太刀筋でゲラを二等分しようとするが、それを彼は紙一重で躱した。首のすぐ横を刃が掠める。素早く反撃。真横を通り過ぎる風をしっかり捉え引き金を弾く。左右の銃口から放たれた二つの弾丸。真っ直ぐ飛び込んでいくそれは彼女の頭と胸を貫かんという明確な殺意の意志を宿していた。それらがルーマに着弾する寸前、縦に銀の光が奔る。鉛玉は綺麗に二つに割れていた。余韻に浸らず距離を詰め、技を仕掛ける。ゲラに向けて放ったのは斬撃ではなく、蹴り。真っ直ぐ、彼の腹に向けて飛び蹴りを繰り出した。ゲラは腕を交差させガード、しかしその蹴りが眼前迫った時、彼は槍の幻覚を見た。防ぎきれないと確信し少しでも被害を抑えようと体幹を意識し、迎え撃つ。蹴りがゲラの腕に直撃、彼はこの時丸太に打たれたような感覚を覚えた。姿勢がよろめき、ルーマの姿が視界から外れる。彼女を捉えようと警戒したと同時に感じたのは、迫り来る圧倒的殺意。背後から押し寄せる刃は、ゲラの躰を貫こうとする。ルーマはこれが決定打になる、そう確信した。が、次の瞬間ゲラは────宙を舞っていた。刃は虚無を切り裂き致命的な隙を作り出す。ゲラはバク転の滞空時間、ルーマの真上を通り過ぎると同時に拳銃を向け5発発砲。彼女は瞬時に横にステップ。2発は避けることが出来たが、残りの3発はまだルーマを追っていた。ルーマはジグザグに走り弾丸の狙いを外しながらゲラに接近する。左右に駆け回り突撃してくるルーマにゲラは脳天へピタリと銃口を向け鉛玉を放つが、それは全て刃に吸い込まれた。顔面に、真正面から再びこれでもかという正直な突きが飛んで来る。ゲラは体を捩り、紙一重で躱す。反撃、的が比較的大きい胴体を狙うが弾丸が放たれた時には既に正面から消えていた。間を置かず斜め右後ろからの斬撃。反応し引き金を弾く。手応えは無し。真上からの振り下ろし。バックステップで間合いから逃れ、ルーマが着地し立て直すまでの隙に一気に弾丸を放つ。2丁から放たれる9mm弾は、さながらサブマシンガンのような連射速度で彼女を包みこもうとするが、ルーマは横にステップ。そのまま疾走、渦を描きながらゲラを追い詰めようとする。奔る彼女の足跡を瞬時に弾痕が埋め尽くすが、それがルーマに追い付くことはなかった。2人の間の距離が縮まる。そしてゲラは、彼女の間合いに入った。円を描く挙動から瞬時に切り替え、彼だけを見詰める。彼女の頭の中は、ゲラを斬り刻むことで溢れ返っていた。姿勢を低くし、居合の構えから、抜刀。

 めり込んだ足跡だけを残し、ルーマが消える。再び見えた姿は

────脚で受け止めるゲラと激しくぶつかり合う姿だった。破れたジーンズの隙間からは、黒光りする甲冑が覗いていた。

 「もう手札は無しか?」

 「後悔するなよ。」

 両者同時に力を抜き、仕掛ける。ルーマが袈裟斬りを放ち、それをゲラは上段蹴りで受け止めた。ルーマは蹴られた衝撃を利用し、そのまま反回転。遠心力を乗せ首を落とそうとするが、斬ることが出来たのは空気と自分に放たれた銃弾だけだった。

 気配を探り────後ろ。

振り返ろうとするが、

 「チェックメイトだ。」

 後頭部には冷たい銃口が押し当てられていた。諦めたのか、ルーマはだらんと刀を下ろす。

 「さ、早く刀を地面に置いてくれ。まったく怖すぎるぜ…。」

 降服の印をルーマに求める。

 「────私が、最後の最後まで諦めたことがあるか?」

 ニヤリとルーマが嗤う。

 「…?」

 「待ってたぜ!この時をよォ!!!」 

 「ッ!」

 その瞬間、ルーマの頭と脚が逆転した。そしてその脚はゲラの頭を掴み────そのまま地面に叩き落とした。虚をついたそれは2人の立場を逆転させ、ルーマがゲラを押さえつける形に強制的に移行させた。ゲラは反動で落ちた銃を手繰り寄せようとするが、喉に刃を突き立てられ身動きが取れない。

 「さて、私のミルクレープを食べた訳を聞かせてもらおうか。」

 「は?」

 「とぼけるな!」

 ゲラは必死に頭を回転させていた。いつ、自分がこいつのミルクレープを食べたのか、そう記憶の奥底に探りを入れた直後。舌に感じた甘味を思い出す。

 「あっ!」

 ゲラはルーマの今までに見た事のない表情に怯えていた。それにたじろぎながらもなんとか言い訳を振り絞る。

 「いや~ね?あれだよ、プレゼントだと思ったわけよ!ほら日頃の俺の感謝の気持ちかなーって思ってさ?知らなかったんだって~!」

 「名前も書いてあった筈だが?」

 それを告げられた瞬間、ゲラの動きが固まった。

 「どうやら…間抜けは見つかった様だな。殺す。」

 「わあああ待て待て待て!!」

 「辞世の句か?聴いてやるぞ。」

 ゲラは情けない声である条件を言い始めた。

 「こ、こうしよう。お前が好きなスイーツ1つ買ってや

 ゲラの顔のすぐ横に脇差が突き刺さる。

 「1つ?」

 「…ああ!わかったよ!ごめんって!好きなだけ買ってやるから!この刀を退けてくれ!!」

 「謝れ。」

 「えっ?!」

 「謝れ。」

ゲラは苦虫を噛み潰したような顔で、こう呟いた。

 「────す、すいませんでした…。」

 

 

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