竹と三

「ごめん。やっぱり、俺、帰るわ」


立ち上がったさんは、フラッとして机に足をぶつけた。


パリン…


グラスが落ちた。


「大丈夫か?怪我ないか?」


「ごめん」


三は、しゃがんで破片を拾う。


「危ないから、ホウキと塵取りとってくるから、ソファーに座っとき」


「これぐらい、大丈夫やから。いっ…。」


「刺さったんちゃう?」


さわるな。ホウキ持ってきて」


俺は、小さなホウキと塵取りとコロコロを取って戻ってきた。


「三、もう危ないから置いとき。細かいのは、取るから。って、何してんねん。」


三の手が、なぜか血だらけだった。


俺は、ゴミ箱に破片を捨てさす。


「手、広げて」


「いやや」


三は、手の中で破片を握りしめていた。


「三、いいから離せ」


「いやや」


「三って」


「こんなんじゃ足りん。足りんから」


「何ゆうてんねん。ここに、捨てろ」


「いやや」


バチン…


初めて、三を叩いてしまった。


三は、驚いて手を離してくれた。


「ちょっとそこ座って。先に片付けるから」


俺は、ホウキとコロコロで丁寧に破片を片付けた。


キッチンに持っていくついでに、救急箱を取ってきた。


よく、料理で怪我をする俺の必需品だ。


「三、手貸して」


「ごめんなさい」


ピンセットを使って、破片を抜く。


「痛い?」


「ごめんなさい」


三は、壊れたCDみたいに同じ言葉を繰り返す。


「ちょっと染みるで」


「ごめんなさい」


「謝らんでええよ」


「ごめんなさい」


三の目が、空っぽやった。


俺は、この目を知ってる。


俺が、おかんを亡くした時の目。


若が、はちを失った時の目。


めいが、芽衣子を失ったときの目。


若が、癌になって、大丈夫って言われる度に向けてた目。


手当てを終わらせて、三を引き寄せた。


「ごめんなさい」


また、謝った。


三は、俺が別の誰かにって言ったから壊れたんやろうか?


「三、俺が他を探せてゆうたから傷ついたん?俺で、ええの?三が、欲しがってるの与えられへんかもよ。答えてや、三」


「俺が、たつくんの寿命を縮めたんや。竹君も傷つけた。俺は、酷い人間や。ごめんなさい。許して下さい。」


「三、俺怒ってないで。泣いてたんわ。怖いのもあったけど、好きって思ってもらえんかったら嫌やって思ったからやで。俺、三が家に来て、ホッとした。忘れろなんてゆわへん。今までは、好きになってもらってとか思わんかったけど。三とは、小さい頃からずっと一緒におるから…。三が、ただ俺とやりたいとかそんな気持ちは嫌やねん。ワガママかも知れんけど…。少しだけでも、好きになってもらってじゃないと嫌やねん。それが、三を傷つけてるんやったら」


バフって音がしそうなぐらい三は、突然、俺の胸に顔を埋めてきた。


「たつくんの事は、忘れられへんよ。そやけど、竹君といたい。だから、体の繋がりなんかいらんから。俺をいらんってゆわんでよ」


俺は、三を抱き締めた。


「もっと強く抱き締めて」


「ワガママやな」


「あの頃みたいに、手繋いで寝てや。頭撫でてや」


「しゃーないな。歯磨きして、寝ようか?」


「うん」


俺は、三を洗面所に連れていく。


歯ブラシを渡した。


並んで、歯磨きをする。


あの、キャンプを思い出す。


口をゆすいだ。


「三、寝よか」


「うん」


俺は、寝室に三を連れてきた。


ダブルベッドに二人で寝転がる。


「おやすみ」


「手繋いでて」


「ええよ」


三は、俺の方を向いて両手で俺の右手を握ってる。


俺も三に向き合った。


左手で、三の頭を優しく撫

でる。


三は、目を瞑ってる。


あの頃みたいや。


16歳の俺を若の家族がキャンプに連れて行ってくれた。


三もどうしてもついてくるとやってきた。


「竹君、おしっこ」


「はいはい」


暗いのが嫌いな三は、俺を連れていった。


九は、若にベッタリだった。


寝る時は、テントだった。


俺達、四人のテント。


夜中、突然起きてきた三


当時、眠りの浅かった俺は、すぐに起きた。


若と九が、一緒に眠ってるのが見えた瞬間。 


「おしっこ、行きたい。こわいよー」


口を必死で押さえて、三は泣き出した。


「行ったるから、おいで」


俺は、寝袋を出てトイレについて行った。


戻ってきたら、三は怖いとまた泣いた。


寝袋を広げて被る。


「手繋いで」


「ええよ」


「頭撫でて」


「ええよ」


俺は、今みたいに三が眠るまでそうしていた。


「可愛かったな。あの頃の三。大人になったな」


よしよしと、頭を撫で続けた。


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