お前昔と全然違うじゃん!
うさ公
第1話 ひゅっときゅっとなった
俺の幼稚園小学校前半の時期は、とても人に堂々と話せる思い出がない。
俺は当時いわゆるクソガキというもので、しょっちゅう親の目を盗んでは外に出ていろんなところを駆け回っていた。
どこかで車に轢かれて死んじゃうんじゃないかと、親はひやひやしていたらしい。毎日のように交通事故の恐ろしさを唱えさせられていたのをよく覚えている。
しかし、窃盗だとか不法侵入だとかを犯すことがなかったのは家族の教育の賜物だと思う。
そんな徘徊中に出合ったのが一人の女の子だ。なんか暇そうだからという理由で突っ立っていた彼女の腕を引っ張って近くの寺まで走った。
今の俺からするとその行動力が羨ましくて仕方ない。
それから俺は、俺達は本当の野猿になった。
町中中心の探索から山川中心の昆虫、動物を捕まえる探検に変わった。
その捕まえた生き物を持ち帰っては親にぶん殴られていた。
ガキ大将になったつもりで威張り散らかしていた俺は子分(女の子一人)を従ええっほえっほとしていた。
これが一番恥ずかしい。
俺と同じように山を駆け回っていた少女が今どうなっているのかが最近一番気になることだ。
俺は昼休み教室の隅っこで奇跡的に仲良くなったクラスメイトと一緒に弁当食べてる系に変わった。仲良くなったそいつがいなければほとんど口を開けることもないただのボッチだ。
「来週交流合宿あるじゃん」
「うん」
「部屋割りとかのデータ届いてるよ」
「そうなんだ」
一緒に弁当を食べている白坂誠が携帯をいじりながら教えてくれた。
交流合宿は入学したばかりの一年生が何泊かしていろいろして交流を深める目的の学校行事だ。
さっそく携帯を出そうとしたが、白坂がそのまま見せてくれるのでありがたく彼の携帯を覗き込んだ。
この学校はほとんどがプリントではなく専用のアプリに情報を送ってくる。教師から知らせられるが自分で定期的に確認しないといけないらしいので面倒くさい。
「全部一緒だね」
「よかった」
本当によかった。白坂がいなければマジボッチ感に苛まれるところだった。
「合宿全部、別クラスの人とも組むんだ。気まずくない?」
「ちょっと怖いね」
「……Sクラスの人いる」
「…………」
Sクラスは他のクラスと違って家柄だったり学力だったりがすごい人達が集まっている、特別クラスだ。
白坂が差す先にはさまざまなSクラスメンツ。その中で目に止まったのは『一紅衣宮子』という名前だ。
読み仮名も振ってある。
『いっこういみやこ』
その単語を理解した途端、喉がひゅっときゅっとなった。魂も彷徨い出ないくらい締まった。体の全機能も止まった気がした。
忘れることはない。
忘れられるはずがない。
噂をすればなんとやら。
過去を回想してたら来ちゃった。
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