第9話

 翌日。

 私は授業が終わり教室を出ようとしている奈緒に近づく。


「奈緒」

 と、私が声をかけると、奈緒は足を止めこちらを向いた。


「なに?」

「一緒に帰ろう」

「いいよ」


 私達は帰る生徒達の賑やかな声が聞こえる廊下に出ると、肩を並べて歩き出す。

 昨日、優介に告白した事をなかなか言い出せなくて帰りになっちゃったけど、大切な親友だからこそ、言っておきたい。


「昨日の可愛い動物の観た?」

 と、奈緒が話しかけてくる。


「観た、観た。ネコ、可愛かったなぁ~」

「ねぇー」


 とりあえずこんな賑やかな場所でするような話じゃないし、様子をみるか。

 ――私達は世間話をしながら玄関を出る。


「ねぇ、奈緒。途中、公園に寄っていかない? 話しておきたい事があるんだ?」

 奈緒はビックリしたのか、キョトンとした表情を浮かべ「話しておきたい事って? ここじゃ駄目なの?」


「うん、ここじゃちょっと……」

「――分かった。じゃあ行こっか」

「ありがとう」


 奈緒と私は自転車置き場から自分の自転車を出して来ると、公園へと向かった――。

 

 ※※※


 公園に着くと、辺りを見渡す。

 今日は授業の終わりが早かったからか、親子連れや小学生等が、まだチラホラ遊んでいた。


「人気の少ないベンチの方へ行こうか」

「はいよ」


 私達は自転車から降りると、手で押しながら奥のベンチへと向かう――。

 自転車をベンチの近くに止めると、隣合わせでベンチに座った。


「――それで、話しておきたい事って?」

「あのね……私」


 本当は奈緒の顔を見て話したい。

 だけど悲しむ表情を見るのは、ちょっと辛い。

 私はそのまま口を開け「昨日――優介に告白しちゃった」

 ――奈緒は動揺しているのか、何も言わずに黙ってしまう。


「そう……それで、結果はどうだったの?」

「えっと……大丈夫だったよ」


 ベンチの軋む音が聞こえ、奈緒がスッと立ち上がる。

 私は奈緒の方に視線を向けた。


「そんな気がした。だってあなた達、そんな雰囲気あったもん」

「そうかな……」

「うん。だから私、焦っちゃったんだ。このままじゃ何も出来ないで後悔だけ残っちゃう!美穂より早く告白しなきゃって……」

「奈緒……」


 こんな時、親友としてどんな言葉を掛ければ良いのか、何も思いつかない。


「話はそれだけ?」

「うん」

「そう……」


 奈緒はクルッと私の方に体を向けて、いつもの明るい笑顔で二カッと笑った。


「話してくれて、ありがとう」

「うん!」

 と、私は返事をして立ち上がる。


「それじゃ帰ろうか?」

「そうだね」


 私達は自転車を押しながら、公園の出入口へと向かう。


「途中でコンビニ寄ってアイスでも買って帰ろうぜ」

 と、奈緒が提案する。


「うん!」

「なにアイスが良い? 奢ってあげる」

「え!? 良いよ、そんな……」

「遠慮するなって! 奢ってあげたい気分なの!」


 本当に優しいな奈緒は……失恋して辛い筈なのに、私を祝ってくれるんだね。

 

「ん~……じゃあ、モナカの中にチョコとアイスが入っているやつ」

「あー、あれ美味しいよね。私もそれにしよ!」


 これから何十年と一緒に過ごせば、喧嘩をする事だってあるかもしれない。

 だけど――。


「ねぇ、奈緒」

「ん?」

 と、奈緒が私の方に顔を向ける。


「いつまでもこうして、仲良しでいようね」

 

 私がそう言うと奈緒は照れ臭かったのか、顔を正面に戻した。


「――そういう事は優介君に言えばいいのに、まったく……これからも、よろしく」

 と、奈緒は頬を赤く染め、呟くような小さい声だったけど、確かにそう言ってくれた。

 

「うん、よろしく!」

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