幻想本〜10年後から来た僕は僕じゃありませんでした。〜

@jiji0001

第1話 リアリティと地縛霊

「リアリティが感じられない? 現実味がない? ふん。僕に言わせれば、それこそ妄想だ。現実がリアリティを持っているとは限らない。現実は、現実ゆえにリアリティを持つか持たないかという議論から、『特権的に解放されているにすぎない』のだ。君がいかに奇妙な出来事に遭おうと、それは現実に起きた以上、リアリティが感じられないだの現実味がないだの言うだけムダだ。いかに君の理性が否定しようと、君はその『地縛霊らしき女』に出会ったのさ。それが現実であり、それだけが現実だ。前置きはいいから、その非現実的だという話の続きを早く聞かせてくれ――タケオ」

と顔も上げずに我がパートナー、バイスはそう言った。

 まあ、こんな反応は予想どおりだが、こちらとしてはせっかく考えた話の枕をけとばされたような気分になってしまう。

 どこまで行っても目的最優先な男だ。

 しかし、ここでやめるわけにも行かず、うながされたとおりに話を続けた。

「バイスはオカルト現象に遭遇したことはある?」

「ないな」

 きっぱりとした即答であった。

 壁と会話するほうがまだマシだ。

「オカルトとされる体験をしたことが皆無だとは言わないが、科学的に説明がついてしまうものばかりだ。そして僕は科学側に立つ。それだけだ」

「なるほど」

 実に明快である。

「でもね、バイス」

と自分の中のモヤモヤとしたものを吐き出すチャンスを最大限に活用し、彼に食い下がる。

「世の中には『科学的に説明がまだついておらず、それをつけてほしい』現象が往々にして起こるんだよ」

 バイスはそこで顔を上げ、

「ほう」

と言ってニヤリと笑う。

 挑戦は受けて立つ。

 彼の信条の一つである。

「僕に謎を解いてほしいのか?」

「話を聞いてもらうだけで十二分だけど」

「君がよくする自己嫌悪を全面に押し出した身の上話よりは楽しめそうだな。続けてくれ」

 毎日語られる僕の自虐に辟易としているのだろう。聴衆の興味を引き、次を急かされるような魅力的な会話を心がけるだけ心がけることにする。

「実は、先日。帰り道にコンビニで買った肉まんをほおばりながら、歩いてたんですが、」

「肉まん?」

「あ。ええ。前にも話さなかったっけ? そのコンビニのはなんでか他のところよりも味がいいんだよね。値段も普通だし、見た目も特別なところはまるでない、wikiの肉まんの項目に載っててもおかしくないくらい、まあ普通なんだけど。僕が考えるに、おそらく中のあんに」

「話の腰を折って悪かった。先を続けてくれ」

 語り足りない部分はあったが、バイスに正面から見つめられながらそう言われては仕方あるまい。

 かの肉まんの特異性を語る機会はまた今度にしよう。

「そう、で、肉まんを食べながら歩いていたのは、住宅街の裏通りのほうで。わりと広めの道路がまっすぐと続くから見通しは全然よくて。その時間は、犬の散歩なんかはわりに見かけたのに、その時はなぜか人影がまったくなかったんだよね」

「なるほど。夕暮れ時、人影のない道……か。いかにもなシチュエーションだな」

「確かに頭を空にして味覚のみを働かせるのに絶好のシチュエーションだね」

「……わざととぼけているのか?」

「違う違う、ここから本題に入るから……」

「で、何が起きた?」

「はい。まさにその瞬間にそこで、」

 ◆

「僕はいきなり『誰か』にぶつかったんだよ!!」

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