第86話

「殺されかけた!?」


 音楽室を後にした私達は四季先生達が居る憩いの場保健室に到着。去り際の話で気になった五年前、つまりは私達は中学一年生の頃の話を聞いてみた所、初手一発目からとんでもない情報が柊生徒会長から発せられる。


「そうそう五年前に。二人が覚えてるか分からないけど、合唱祭を控えた11月後半の体育館で指揮者台を照らす特殊照明が練習中に落っこちた事故があってだね? その事故を計画しくされおったのが当時から先輩方に可愛がられていた翡翠部長で、狙われたのが当時から吹奏楽部の部員達から敵意やら嫉妬やらを向けられていたこの私。――ま! 頭脳明晰、才色兼備でしたから嫉妬も敵意も仕方ありませんがね?」


「いやあのっ……大丈夫だったんですか? 大怪我とかしたんじゃあ……」


 あっけらかんと軽口で語る柊生徒会長。それでも内容が内容なだけに帯々少年が戸惑いながら安否を問う。


「大丈夫大丈夫。なんせ私が指揮者台から離れた後に落ちてきたから――まぁそれでも、落ちた照明の破片が首を掠めたけど」


「あらあらまあまぁ、大怪我どころか死に掛けてるじゃない」


 頭脳明晰云々かんぬん言ってる場合じゃない。下手をすれば二次災害で逝ってた。


「そうだね。だから吹奏楽部を辞めたのさ。勝ち負け関係無く、命の危険を伴いながら部活をするなんてバカバカしいことこの上ない。もしもこれを逃げだと言うなら、きっとその阿呆は刃物を持った殺人鬼を前にしても逃げずにアニメや漫画の知識で立ち向かうんだろうね? 柔道の受け身すらまともに取れない癖に」


 過ぎた過去。故に変わらずのあっけらかんとした様子で答える柊生徒会長様なのであった。


 でもまぁ実際? 殺されかけたという相手に先ほど音楽室でマウントを取っておられたから本音なのだろう。

 でも、


「犯人が翡翠部長だってわかっていたなら簡単に潰せたのでは?」


 潰せるネタが上がっているのなら容赦なく潰す。付き合いは浅く、若かりし頃の柊生徒会長を知らないのにそう思えてなりませぬ。

 しかしながら柊生徒会長は横に首を振られます。


「残念ながらそうはいかないのだよ。去り際に言ったろ? 『人並の悪知恵が働くケダモノ風情』って。鬼畜にも自らのイジメが原因で転校する部員兼クラスメイトに照明落としをやらせたんだ。しかも私が調べられない様に担任と中等部の吹奏楽部顧問と結託して、イジメのネタまで使って登校させない様にもした。今はもうわからないけど、表沙汰になってないから相当卑劣なネタだったんだと思う」


「あらあらまあまぁ」


 凄ぉい。創作物級の悪女が現実にいらっしゃる……。


「それなら獅々神の弟レベルで要注意だな。最悪、妹さんが同じ末路を辿らせられちまう」


「確かに」


 二宮君に続いて同意する――が、柊生徒会長はその首を横に振った。


「それなら大丈夫。言ったろ? 『その矮小な悪知恵で私や私の妹に勝てると』って。戦う前からもう勝敗は決まってるのさ。それにこっちには六出君がいる」


「え? 私?」


 此処で私? と、首を傾げるとその隣で二宮君が納得したご様子で「だから後ろ盾。抑止力と言ったのか」と言葉を零す。


「そうゆう事。NTRされて逆に青春を謳歌、挙句には人の目を抉る様なヤバい人が後ろに控えていると分かれば幾ら悪知恵が働くケダモノだったとしても下手に手出しは出来ないでしょう? 噂では冬休み前にも一発ド派手にやらかしたって話も出ているし」


「あらあらまあまぁ」


 悪い意味での高評価。つまりはヤクザのケツ持ちと。なんか複雑……。


「まぁそんな顔をしないでくれたまえよ。代わりと言ってはなんだが創作物でしかお目に掛かれないであろう最高の”ざまぁ”をお見せしてあげよう!」


「おぉ!」


 あらやだ頼もしい。自身満々に言うその姿が実に頼もしい。まるで姿や仕草が麻紗姉さんと重なって見えてとても頼もしいのです。

 ――……麻紗姉さん達、元気かなぁ。


「あ! そうそう朝、妹と赤羽後輩の二人に会ってきたんだよね? どうだった?」


「ん? そりゃあ――」


 と、体育の授業の時に二宮君に伝えた事をそのまま伝えます。すると、赤羽君に関しては「流石に初手で尻尾は出さないよ。その内……本選が始まれば本性が現れると思うから要注意」と警告を。しかし、妹さんに関しては激しく同意する。


「確かに! 私を反面教師にしたのが真琴。あらあらまあまぁ、お姉ちゃんはお嫁の貰い手が現れるか心配です。昔は『ぇ、姉ぇ姉ぇ』と、愛くるしく私の後ろをちょこちょこ追い掛けてたのに。『姉ぇ姉ぇとお揃いが良い。姉ぇ姉ぇのお古が良い』って、私から服やらリボンやらを剝ぎ取ってたのに……」


「ちょっと人の口癖をマネしないで下さる? それと最後のは妹の所業か? 姉を狩るハンターじゃん」


「可愛いだろう? それが今や他者への期待を簡単に下げては一向に上げ直さない堅物。呼び方に至ってはいつの間にかただの”姉さん”になってたし、家族や親しい間柄相手との会話で私を出す時は”あの人”だぜ? 会話を聞いたり姉妹の会話をする度に壁を築かれてると感じて凄く悲しい」


「大袈裟な。思春期で難しいお年頃なだけでしょう? 寧ろ女子は高校生から荒れるって良く聞きます。――大丈夫。結婚式のスピーチで『素直になれなくてごめんね!』って、当時の心境を涙しながら語ってくれますよきっと」


「私は姉ぇ姉ぇであって父親じゃねぇ! でも妹の結婚相手は私が認めた相手じゃないと許さねぇ!!」


「うっわ! 重度の姉馬鹿がいるぅ」


 妹さんの結婚がどうとかって心配しておいて、姉の自分が最大の難所になってるじゃん。


「「「「……」」」」


「なんだね? 何故そんな目で私を見るのだね?」


 柊生徒会長以外の全員が私を見る。しかも疑る様な視線で。――な、なんだよう?


「いや身内の結婚に過干渉って点は梨君も同類の同レベルじゃん?」


「「「うんうん」」」


 四季先生のとんでも発言に頷く二宮君と久遠兄妹。――ほほぅ?


「あらあらまあまぁ……え? 私、結構寛容よ? 寛容っていうかノータッチよ? 淳兄さん達の事信用してるし」


 しっかり者の二人が選んだ相手様だ。寧ろ信用しないのは淳兄さん達を疑う事と同義。絶対にありえない。


「見た目がヤバくても?」四季先生。


「構わない」


「腹に一物を抱えてても?」二宮君。


「構わない」


「ギャンブル狂いでも?」柊生徒会長。


「構わない」


「「料理が致命的でも?」」久遠兄妹。


「――……塩と砂糖を間違える程度のドジまでなら許そう!」


「「「「「頻度は?」」」」」


「――――……月……いや年? いや半……月1でお願いしますッ!!」


「「「「「駄目じゃん」」」」」


「いやだってさぁ!?」


 と、二人への想いを握った拳で両膝を叩きながら訴える。

 炊事洗濯家事育児の両立は良き夫婦の最低条件! どれか一つでも欠いているのなら結婚は許しません!! 料理に至ってはなくてはならない必須級ですっ!!

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