第77話

 場所が変わって憩いの場保健室。四季先生と久遠兄妹と合流ス。


 どうして小学生の九々少女が我々が通う学校に居るのかと言うと、小学校に行きたくない&行かせられない。でも家に残すと基本一人で待つ事になるのでそれは私達が心配になる。――じゃあ! 憩いの場保健室登校で私達が通う学校に連れてくれば良いじゃない!! と、言う訳です。

 これなら寂しい思いをさせる事も無いし、お昼も一緒に食べられるので一石二鳥。なんだったら四季先生に勉強を見て貰えれば一石三鳥です。


 では続きを。


「柊? もしかして真揮中会長のお姉さんですか?」


 と、先に憩い場に居た帯々少年が柊生徒会長の自己紹介に今の問いを投げかける。ちなみにどうゆうわけか向こうは帯々少年の事を知っていたし、それどころか憩いの場保健室の主たる四季先生とは顔なじみ風だった。

 ※中会長とは中等部の生徒会長の略。


「あぁそうだとも」


「お知り合い?」


「知り合いと言うか……中等部の生徒会長にして僕の恩人です。僕が受けていたイジメを辞めさせようとしてくれました」


「あらあらまあまぁ」


 この帯々少年の言うイジメとは、GWの最終日に帯々少年の母親と九々少女の父親が不倫の末に失踪した事で始まったイジメの事である。

 当たり前だが、九々少女だけではなく、帯々少年も私達と出会うまでにそれなりのイジメをクラスメイト達から受けていた。しかも実の姉が流したDVの噂のせいでイジメが悪化。でも私と出会い、私達の庇護下に入った事で何故か沈静化したのだ。


 人殺しの先輩がバックに付いたとかなんとか……一体誰なんでしょうか? 二宮君は当然として、私だってまだこの手は潔白よ? 汚れてるとしたら病院で四季先生の患者を見送り続けたこの目です。


 しかし成程。DVの噂は高等部にまで広まっていたのに、イジメがクラスメイト達のみで、沈静化にも一週間と掛からなかったのはその中等部の柊生徒会長が色々と頑張ってくれたお陰だったのか。


「妹会長さんってどんな人?」


「――……近寄り辛い?」


「あり?」


 先に肉親以外からその妹さんの人物像を聞こうと思ったら予想外の回答が飛んでくる。


「孤高な人って事?」


「ん~……孤高と言うよりかは威嚇する猫っぽいと言いますか……! ご、ごめんなさい」


「ん? あぁ別に気に病む必要はないよ。私なんてあの子をヤマアラシだと思ってるから」


「や、ヤマアラシですか?」


「有難迷惑な方面のツンデレさんって事?」


 ヤマアラシってあれでしょ? ことわざにもなってる動物で、互いの針が刺さり合ってしまうから仲間同士で寄り添えられない。

 これを近づきたくても近づけない。近づいたら相手を傷つけてしまうかも知れないから――と、そんな風に被害妄想増し増しになってしまう人の心理描写をヤマアラシのジレンマと比喩表現したんだっけ?


「有難迷惑なツンデレねぇ? どっちかって言うとツンデレじゃなくて諦念ていねん者だね。良くも悪くも優秀な姉を誰よりも近い場所で見てたから」


「諦めが早いって事?」


「ちょっと違う。早いんじゃなくて諦めの沸点が人よりも低いのだよ。期待はするけどあくまで自分がカバー出来る範囲内で納める。そうすれば出来ずに失敗してもその人を責めるんじゃなくてその人の技量を図り間違えた自分のせいだとすんなり受け入れられるから」


「あらあらまあまぁ、この姉の妹と思えない卑屈さ」


 まだ出会って一時間と経ってはいないけど、それでもこの柊生徒会長からは自信を感じる。実際に”優秀な姉”と自分で名乗っていているし、聞き手の私も”でしょうね”と自然に納得できる。


「しかもあの子はこれをポジティブに捉えている。相手が傷つく、傷ついているって知っておきながらやり方を変えない。二度目のチャンスを与えて出来なかったら二度手間だし、余計に失敗した時に辛くなる。だから期待は然程せず、下げた期待は簡単に上げ直さない方が相手の為、延いては周囲や自分の為になると思ってる」


「あぁ……それは良くないな」


 四季先生の次に人生経験が豊富な二宮君が一石を投じる。


「確かに人によっては妹さんのやり方は間違ってない。でもそれは相手をそれなりに知った状態でやる事だし、ましてや誰彼構わずにそれをやってしまうのは駄目。自分勝手に自信を無くす奴はどうしようもないから良いとして、上司や先輩方に”もうこの程度なら出来んだろ”って哀れまれながら仕事の指示を貰うのは滅茶苦茶辛い」


「あら体験談かい?」


「あぁ恥ずかしながら。俺はこれで頭にくるタイプだから見返してやろうと躍起になるけど、そうじゃない奴は心を折られるし、既に折られてる奴は更に自分に対して期待も自信もなくなっていく。――これで俺の職場の若手が毎年三人以上辞めてってる」


「あらあらまあまぁ……」


「納得いかないって顔だな? ならお前さんが好きな料理を俺達が毎回”まぁ……うん。それなり”って顔して食べてたらどうだ?」


「美味しいと思って貰う為に頑張ります」


「じゃあそれでも駄目だったら? 一年以上料理教室に通って、俺達の味の好みも分析して、それでも毎回”それなり”って顔で食べてたら?」


「淳兄さん達と久遠兄妹なら外食。二宮君と四季先生なら舌のレベルを下げます♡」


「「おかしいおかしい」」


「おかしくない」


 当たり前だよなぁ!! 私が体験すら出来なかった病院食ショックをこの二人に味わわせてやる。――四季先生? だたの八つ当たりですがなにか?

 ※病院食ショックとは、長い入院生活が終わってシャバに出た際に好物を食べた時に訪れる”旨っ!!”である。


「まぁでも分かったよ。確かに頑張ろうとか再挑戦しようとか駄目な部分の分析とかしなくなるね」


「そ、そう……分かって貰えて何よりです」


 そう言って二宮君は複雑そうな顔を浮かべた。

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