第69話
「あらあらまあまぁ!!」
眼前に広がる絶景に目を奪われ、感情の赴くままに歓喜の声を上げてしまう。
水族館観光を終え、直ぐ近くの下田公園を回り、その後少し早めの夕食として特産品である金目鯛を使用した年越しそばを食べた私達は下田の町並みを見学しながらホテルへと戻り、今こうしてオレンジ色に輝く大海という名の絶景を前に温泉に浸かろうとしていた。
「おい梨。風邪引くから見惚れるのは後にしろ」
「! ouioui」
二宮君のご指摘を受け、皆が居る洗い場へ向かう。ちなみにこの場にいるのは私達のみで完全に貸し切り状態である。
「お背中流します」
「! あらあらまあまぁ」
洗い場の椅子に座るなり帯々少年がタオルを持って現れる。本来なら遠慮していたけど、家ではなく旅行先ということもあり折角なのでお願いする事にした。
「――痒い所はありませんか?」
「ないよ。むしろ心地よいわい」
「ふふっ。オジサンみたいです」
「ほっほっほ~」
と、雑談をしながら背中を洗ってもらう。
こうして誰かに尽くされる経験は中々ないから面映ゆい経験だったけど、中々どうして良いものです。
「――! おぉ」
「? なにかね?」
背中を終え、今度は髪を洗おうと私の髪に触れた瞬間、なにやら驚いたような声が漏れ出る。
「あ、いえ……僕と違って滑らかだなと思いまして――……あ! 本当に凄い。こうして手櫛で髪の毛を洗っているのに全然指に引っかからない」
「そりゃ不満なんてございませんから!」
髪を洗いながら驚いている少年に対し、褒められた私は自信満々にお答えする。
お父さんから聞いた話だと身体の異常はまず髪の毛から現れるんだとか。だから髪の毛の状態が良いという事はそれだけ身体の状態が良いという事なのです。
つまりは健康そのもの。ストレスなんてなんのその! なのです。――まぁ心臓と肺は置いといて。
「だから帯々少年もいずれはそうなるよ」
「! はい」
照れ臭そうに返事をし、泡だらけとなった髪をゆっくりと洗い流して温泉に入る為の事前準備か完了した。
で、お返しと言わんばかりに私も帯々少年の身体と髪を洗ってあげて、先に温泉に浸かっていた淳兄さん達と合流する。
――ふむ。羨ましい事に大人組の淳兄さんと四季先生のお二人さんは、いつの間に買ったのか海をツマミにおちょこでお酒を堪能していた。
「大人ってズルい」
「「全くだな・です」」
余りにも美味しそうにお酒を飲む二人に我々
「「これが大人の醍醐味よ」」
と、歓天喜地な様子で互いのおちょこに酒を注ぎ合う。
あらあらまあまぁ――きっと二人は風呂上がりの牛乳を旨そうに飲む私達をツマミに更に旨そうにビールなんかを飲むに違いないね。
これが大人の楽しみ方かぁ……良いなぁ……。
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