第67話
「――……ん」
「! 九々ッ!!」
と、四季先生の計らいで貸し切り状態の病室内で声が響き渡る。
時刻は深夜0時を回る頃。久遠九々を救出してから約5時間が経過した頃だった。
「兄ぃ? ――此処は?」
横たわったまま首を左右に動かす久遠少女に、起きるまでずっとその手を握っていた久遠少年は此処が病院だと、久遠少女のお母さんが入院している病院だと伝える。
「病院――。此処にオレが居て、一緒に帯々兄ぃが居る。帯々兄ぃがオレの手を握ってくれてる。――これってさ? 良い事なのかな?」
「っ、良い事だよ。怖い目に遭わせちゃったけど九々を守りきれた。僕も二宮先輩も無事だった。こうして九々をっ――無事に取り戻せたッ」
「――そっか」
握られてただけの手に力が入って握り返す。
「――……んっ」
「!? 駄目だよ九々! お医者さんが来るまで寝てないと」
長い沈黙の末に、久遠少女が起き上がろうとしたのでそれを止めようとする久遠少年。二人の傍に居た私も同じように止めようとしたけど、久遠少年の静止の声を聞かずに必死に起き上がろうとする姿を見て逆に少年の方を止めさせて握っていた手を放させた。
そして起き上がった久遠九々は久遠帯々の前で正座をし、深々と土下座をする。
「ごめんなさい。言わなきゃいけなかったパパ達の事をずっと隠しててごめんなさい。オレのせいで酷い目に遭わせてごめんなさい。オレのせいで辛い目に遭わせてごめんなさい。辛そうだなって、しんどそうだなって分かってたのに何もっ、出来なくて……ごめんっ……なさい。――ずっとずっと! 謝りたかったのに怖がって……今日まで謝れなくて本当にごめんなさいっ」
土下座のせいで小さい身体が更に小さくなり、聞いてるこっちが根を上げたくなるほどに声を震わせて謝罪を繰り返す。
「――……九々、顔を上げて」
久遠少年の言葉に久遠少女は一度だけ身体を跳ねさせる。そしてゆっくりと顔を上げて二人の目がようやく合わさった。
「意地悪だけどもう一度聞かせて? どうして怖かったの?」
「っ――帯々兄ぃ……お……兄ぃ――……」
言葉が何度もつっかえる。視線も顔ごと動く――が、意を決して再び目を合わせた久遠九々。分かりきった二人の生末を私達は暖かく見守った。
「嫌われる以上に恨まれて、”二度と姿を見せるな”って突き放されたらどうしようって……どうしようもなく怖かった。パパが消えて、ママが倒れて入院して。気づいた時には友達も皆離れてて。この上、帯々兄ぃまで失ったらオレには何にも残らない。自分勝手だけど帯々だけは失いたくて……だからこそ真実を伝えられなかった」
「――そっか。じゃあ僕と一緒だね」
「え?」
「僕もそうだったから。お父さんが交通事故で亡くなって、お母さんが消えて、唯一残った姉さんにはずっと苦しめられてて……此処で九々まで失ったらと思うと怖くて何もしてあげられなかった。お母さんの事、学校での事、大変で辛い目に遭ってると分かってたのに……余計な事をして九々を余計に傷つけて、”もう二度と現れないで”って言われるのが怖かったから何も出来なかった」
ランドセル。実は以前聞いたらあれは久遠少年が久遠少女に会いに行く為の唯一の口実との事です。
「そ、そんな事っ――あ」
腰を上げた拍子にベットから落ちそうになる久遠少女。久遠少年は落ちる前にそっと久遠少女の身体を抱いて受け止める。
「ずっと一人にさせてごめんね? 駄目な兄さんで、半身でごめん」
「っ、オレの方こそごめんなさい。酷い事言って本当にごめんなさい」
謝り合う二人の声が徐々に震えていく。抱き締め合う力も徐々に強くなり、握り絞める服の皺が深くなっていった。
「随分と……待たせちゃったけど――”九々の傍に居たい。居させて欲しい”」
「うんっ。傍に居てよ帯々兄ぃ。だってオレ達は二人で一人。血の繋がり以上の絆で繋がった兄妹なんだから」
「――うん……うんっ」
涙を流して二人の兄妹は互いの温もりを確かめ合い、求め合う。此処にようやく久遠帯々と久遠九々はあるべき姿に戻る事が出来た。
本当に良かった。心からそう思います。――さてと。ささやかなお祝いでもしましょうね? 折角のクリスマスなんだし。
「二人共。メリークリスマス」
と、持ってきたバックからクリスマス仕様の梱包された手の平サイズの箱を二人に渡し、開けるよう促す。
二人は丁寧に梱包を解いてゆき、出てきた見た目が上等な箱を開ける。
「鍵と――」
「――銀時計だ」
「そう。我が家の鍵と、梨さん作の銀時計さんだ」
「「え!?」」
驚く二人に私はニッコリとほほ笑む。
「鍵に関しては淳兄さんと麻紗姉さんから許可は貰ってる。何時でも帰っておいで」
「い、良いんですか?」
「良いの?」
この確認に淳兄さん達は微笑みながら”良いよ”と答え、麻紗姉さんの「寧ろ帯々君に関しては家に居ない方が違和感があるかなァ?」と言う台詞に「確かに!」と、皆が頷いた。
「ありがとうございます」
「! あらあらまあまぁ、やけにあっさりと受け取ってくれたね? てっきりもう少し粘られるかと思ってた」
「そんな事はしませんよ。だって凄く嬉しいんですから!」
「おやおや――そっか。なら良かった。――……そうだ! 二人共銀時計の蓋を開けてごらん?」
「? はい」
「蓋?」
二人は私の指示通りに銀時計の蓋を開ける。蓋の裏側には小さな梨が刻み込まれてあり、その後にそれぞれの名前がローマ字で刻まれていた。
二人の名前の前に刻まれた”梨”は時計屋”秋ノ月”のリスペクトである。ちなみに此方の銀時計の制作に店主である秋月大先生に色々と手伝って頂きました。
「これも梨さんが?」
「そうだとも。名前以外にも結構頑張ったので1年は使ってくれると嬉しいかな?」
「大切にします。1年と言わずにずっと大切にします!」
「オレも大切にする! 墓場まで持ってく!!」
「あらあらまあまぁ」
ちょっぴりとだけ重いなぁ――と、苦笑いを浮かべてしまう。でも喜んでくれたのは素直に嬉しかった。
「さてと」
それはそうと、こちらの銀時計は以前、妹達に無残な姿にされた時計達の無事だったパーツを再利用しています。
なので――、
「「「「え?」」」」
人数分あります。
久遠少年達に渡した箱の半分サイズの箱を淳兄さんと麻紗姉さんに渡し、その次に四季先生に同じものを。最後に二宮君には久遠少年達と同じサイズの箱を渡した。
中身は勿論、銀時計。そして我が家の鍵である。
「梨じゃなくて俺は棗だ! なんて言わんでくれよ?」
「いや言うかよ。てかマジかよ……」
最後に渡した二宮君に他愛のない冗談を言う。冷静を装っているものの、箱を開けた途端に頬が緩んだのが何とも言えない面白みがあった。
四季先生はというと――普通。普通に「ありがとさん」と言ってきた。まぁ四季先生なんで良いんですけど。
じゃあ淳兄さん達はどうだろう? 多分、久遠少年達よりも気持ち上で喜んでくれるかな? と、軽い気持ちで感想を聞いてみた――ら、雲行きが怪しい。
「――ねェ兄さん? 私、表参道と原宿に良い感じの個展が開ける会場を持った知り合いが居るんだけど?」
「俺はEP〇SとA〇ROに知り合いがいる」
「え? ちょ、ちょっと……?」
「「開くか! 個展!!」」
「「「賛成!!」」」
「やめてッ!?!?」
と、発案者二人と賛同者三名のせいで、12/25日になったと同時に私――六出梨の魂の叫びがフロア全体に響き渡るのであった――。
ちなみに四季先生は「宝石に紛れたビー玉か?」との事。
――……やかましいわ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます