第52話
「ふぁっ~……ん。いやはや遂に今日やね。良い感じの言葉は見つかったかい?」
遂に訪れたクリスマス会当日の12月24日。
クリスマス会の準備は順調。久遠少女との待ち合わせも”いつもの時間”に取り付けた。飾りつけに関しても昨日のうちに終わらせ、食事も手間が掛かってしまう工程は今日の朝に全て終わらせてある。
それとまぁささやかながらプレゼントも用意した。
で、学校にいつもの三人で向かっている最中に、妙に落ち着いている久遠少年に確認を兼ねて話しかけてみました。
「いえ残念ながら。探せば探すほど見つからなくて。見つけられなくなっていって。――だから話せるタイミングで思った事をありのまま全部伝えます。昔の様に、何時もみたいに」
「あらあらまあまぁ」
迷いが晴れた――。そんなスッキリした表情を浮かべる少年に思わず安堵の笑みを浮かべる。
これなら大丈夫。久遠少女も覚悟を固めてたし、最悪言葉に詰まっても久遠少女の方から話しかけちゃうと思う。
だから安心して二人の行く末を見守ろう――と、再度心の中で誓う。
「――ん?」
ふと私達三人の後ろから私だけが見覚えのある車が現れる。その車は私達の少し前で停止し、運転席の窓ガラスを下ろした。
「あらあらまあまぁ、おはようございます」
本来なら勤め先である病院に向かうべき人が窓の向こう側に居る。私はその事に驚きながらも、
「――お父さん」
と、私が親御さん捜査に個人的に依頼をしていた人に挨拶をした。
同刻。
「おはようございます」
「え……? あっ、はい。おはようございます!」
朝の挨拶が喧しいぐらいに飛び交う小学校の校門にて、オレ――久遠九々もオレ同じ言葉を言って校門をくぐる。こうして誰かに聞こえるであろう声量でしたのは実に5ヵ月振り、夏休みに入る前振りだった。
それほどまでに梨先輩達が誘ってくれた今日のクリスマス会に心が舞い上がっている。下手をすればその場で会う筈の帯々兄ぃとの関係は更に悪くなるかもしれない。修復出来なくなるかもしれない。
それでも不思議な事にオレの心に不安は一切無かった。
「……ます」
まぁそれは不特定多数の生徒や教師がいる校門だったからで、私のクラスメイト達がいる教室では一切通用しない。教室に入るなり”今日もこの教室で、オレを笑い者にして楽しむ奴らがいる教室で一日を過ごさなきゃいけないのか”、”今日は何もなく、何もされずに一日を終えられるのかな?”と、舞い上がってた気持ちは一気に静まり返った。
「あぁ」
今日ぐらいは休んでも、と教室のドアを開けて暖房の効いた空気に触れた時に思ってしまう。――でも!
「んっ」
自ら奮い立たせていつの間にか下を向いていた顔を上げる。
この前、クリスマス会に誘ってくれた時に梨先輩達に言ったんだ! 前に進むって!!
「おい捨て子。寒いから早く出てけよ」
「っ、スゥ……ハァ……わかった」
いつもオレを笑い者にして嘲笑う男子達三人の一人からの心無い言葉が耳に入る。オレは悪い意味で高鳴ってしまった心を落ち着かせて教室に入ってからドアを閉め、自分の席へ向かう。
「……」
道中、その男子達三人からいつも以上に色々野次を飛ばされたが、もうじき朝の会が始まるのを見越していつも通り無視をする。時間的にいつ担任が来てもおかしくないので男子達三人もわざわざ近づいたり大きな声を出したりまではしなかった。
嫌な事があるとしたら昼休みと掃除の時間だ。あの糞担任が授業変更しなければ苦手な英語と算数、そしてグループを自分達で決めさせられる授業は今日は無い。
「はいよー席に着け―」
オレが席に着いてランドセルの中にある教科書を机の中に入れた丁度その時に、担任の先生である屑巣先生が現れて朝の会が始る。
――で、数十分後に朝の会は無事に終了。毎度毎度、体調確認兼出席確認で名指しされる時に私だけ二、三度返事をさせられるという陰湿な行為も無事に終えられたし、急な授業変更も無く安堵する。あとは次の授業の準備時間にあの男子三人からちょっかいを掛けられないようにと祈りながらお昼休みまで過ごせばいいだけだ。
「あと……八時間」
下校時間まで約八時間。それを過ぎれば梨先輩達に会える。帯々兄ぃとちゃんと話す――前に大きく進めるんだ!
そうやってオレはオレに言い聞かせて一時間目、二時間目――と、授業を無事に越して行き問題の給食を食べ終えた後のお昼休み。
結論を言えば何も無かった。オレは何か嫌がらせを受ける前に図書室に入って、例の男子三人は普通に校庭で遊んでたから。
その後も油断する事なく五時限目、六時限目を無事に越す。残るは掃除。嫌がらせを受ける事が一番多い掃除だけだ。
「よし!」
と、気合を入れ直す。
これが終われば放課後だ。ようやく皆に! 帯々兄ぃに会えるんだ!! と、クリスマス会への楽しみな気持ちと明日から元の仲良し幼馴染であり帯々兄ぃの半身に戻れると希望を抱く。
が、幸福の前には試練が付き物な様で、
「痛ッ!?」
掃除をサボってチャンバラごっこしてた例の男子三人組の一人が机を運んでいたオレにぶつかってきて、自分の机を運んでいたオレは机ごと倒れてしまう。
「あ、わりぃわりぃ。――ん、なんだこれ?」
「テメェ……っ!」
身体の至る所からくる痛みに耐えながらオレはオレにぶつかってきた男子を睨みつける。睨みつけた男子はオレではなく、自身の足元を見ていてオレもソイツの足元に視線を向けた。
「あ」
不幸にもソイツの足元には小学校に上がる時にお祝いでくれた帯々兄ぃお手製の香り袋が転がっていた。どうやら転倒した時に紐がランドセルから千切れてしまったらしい。
「!」
目が合った。足元にオレの大切な物がある男子と目が合っちゃった。
「おいおい此処にまだ――」
「や、やめっ――」
「大きいゴミが残ってるじゃんかっ!!」
オレの反応が面白いのか、ソイツは薄っすらと意地汚い笑みを浮かべるなりゴミが入った塵取り目掛けて帯々兄ぃがくれた大切な香り袋を蹴り飛ばす。
次の瞬間、オレは叫び声を上げながら「ナイスシュート」と、ほざきやがったソイツに飛び掛かって楽し気に嗤っていたその顔面を殴っていた。
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