第51話
「仲直りのクリスマス会ですか?」
と、
「そうそう。ほらもうじき聖なる夜じゃない? 告白にはうってつけのイベントでしょう? 愛の告白然り。別れの告白然り。――そしてずっと胸の奥底にしまい込んでた諸々の告白然り、ね?」
「別れの告白……」
「ていっ」
何て所を復唱するんだい? と、沈んだ表情で復唱してほしくない部位を復唱したので軽くそのマイナス思考の頭にチョップを入れる。
「なんだい? 君は聖なる夜は親御さん達がコスプレを嗜む日でも無ければ性なる夜の大運動会の日でも無く、決別の日だとでも言いたいのかい?」
「いやあのそのっ! ――聖なる夜のドロッとした部分を直球で投げないで下さい」
「ん? ふふっ。そのドロさん粘度高くて生臭そうね」
「梨?」
「梨先輩?」
「おっほ」
自分が言った言葉に軽くツボっていた所に左右からの注意喚起。いやはや思わず変な笑いが出てしまったよ。
「でもまぁ良いんじゃないか? クリスマス会。ただ問題はあの甘えん坊な天邪鬼をどうやって帯々と会わせるかだな? 最悪、そのままで会ったら天邪鬼が邪魔して会話どころじゃなくなるぞ多分……」
「あぁ確かに。――あ、着ぐるみ? 当日は久遠少年に着ぐるみを着て貰うとかどうだろう?」
「却下――と言いたいが、着ぐるみは良い案かもな?」
「ならクリスマス仕様のクマさんでしょうか?」
「「それはやめておきなさい」」
久遠少年よ。君はクリスマスの夜に幼馴染を裸足で走らせて道端で泣かせる気かい? と、一緒に見たとあるアニメのワンシーンを思い描いてしまった。
あれはねぇ……グッときたよ。
「で、どうする? 実際問題、呼ぶ呼ばないは久遠少年次第なんだが?」
「っ――それは……あの……」
と、ここにも親の蒸発で生まれてしまった天邪鬼が邪魔をしているのか口を濁らす久遠少年。私はそんな少年の背中をちょっと卑怯な言い文句を使って背中を押してあげます。
「これまで家族と楽しい思い出だった筈のイベントをこれから独りぼっちの夜に変えるのかい?」
「っ、それはっ……そんなの嫌だッ」
「じゃあもう答えは出たね」
答えは一つ。想いは二つ。半身で幼馴染である女の子の過去と未来を想い、久遠帯々は力強い意志を抱いて私が暗示させた未来をハッキリと拒絶してみせた。
「お誘いやら会の準備やらはこっちがやったげる。だから久遠少年はこれが最後の仲直りチャンスだと思って、あの子の心に住み着いちゃった天邪鬼を追い出させる素敵な言葉を考えておくように」
「わかりました。――あのっ!!」
「! おぉビックリした」
急な大声にビックリしながら久遠少年の方を向くと、少年は深々と頭を下げる。
「本当に、ありがとうございます。先輩のお陰で僕は死なずに生きられました。先輩方のお陰で今日まで生きてこれました。先輩達のお陰で僕達は――」
「おっとそこまで。その先は二人揃って言いなさい」
少年の頭に手を置いて続きの言葉を押し留める。その先を言うのには一人足りないと思ったから。
「――はいっ」
「ん、よろしい! じゃあさっさと洗い物を終わらせて当日に久遠少年が着る着ぐるみでも探そうか?」
そう言って私は皿拭きを再開したのだった。
――後日。何時ものスーパーの焼き鳥屋の前にて。
『クリスマス会?』
と、久遠少女は少年と同じように首を傾げて復唱した――訳ではなく、実際には「行くっ」と即決即答迷い無しであった。
「あらあらまあまぁ、こんなあっさりと」
てっきり負い目と不安を久遠少年以上に感じちゃって中々答えが出せないかと思ってた。それがまさかの即決。しかも迷った久遠少年とは正反対にその眼に迷いなど無かった。
「ママが……オレのママがね? 言ったんだ……
「! おぉそれってつまり回復に向かっているって事かい?」
確か久遠少女のお母さんは自らの意思で限られた肉親以外の面会を拒絶していた筈。それを辞めようとしている。しかも自分の夫の方から手を出した事を知っている妻が相手の子供達との面会の望んでいる。
回復の兆しには十分! ――と、思っていたが久遠九少女の首は横に振られた。
「ううん。それは分かんない。お医者さんも突然の事で驚いてた」
「あらあらまあまぁ」
残念なのかな? と、気持ちを切り替えようとしたら久遠少女の表情が変わって笑みが浮かぶ。
「でも、前に進もうとしているのは確かだ! 娘のオレにはそれが分かるよ。――だから、だからさ? オレも前に進まないと! オレより重症のママに出来て娘のオレに出来ないわけないんだから!!」
「っ、二宮君! オバちゃん!! 子供の成長って奴ぁこんなにも早いんだなぁ……」
「全くだ!」「全くだね!」
ヤバい泣きそう。気づかぬうちに愛娘様がメッチャ良い方向に成長してたとか! こんなん涙腺崩壊ものやん!!
「あぁこれなら……」
学校を休みがちになったりで悪い方向に進んでいるとばかり思ってたけどそうじゃなかった。良い方向にもちゃんと進んでいた。
これならクリスマスもその後も二人揃って皆で過ごせる! と、私も二宮君も、事情をそんなに知らないオバちゃんでさえも確信に近い感情を抱いていたと思う。
――でもそのせいで私達は気づけなかった。久遠九々のお母さんが言った言葉に。
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