第34話

「ハッ。あの屑助先生が6年の統括長様とはな」


 信号待ちの車内にて、四季先生が私達二人のかつての担任である屑巣先生と交わした会話を話し、私の後ろに座っている二宮君が呆れた様子で今の感想を述べる。


 バックミラーで見た感じ、怒り過ぎて疲れてしまい、その分呆れたって感じですな。


「違う違う。6年じゃなくて5年の総括長なんだってさ」


「え? そうなの? でも6年のクラスに居ましたよね?」


 四季先生の修正に首を傾げる。


「あー何でも本来の担任の先生である松ぅ……なんとか先生が夏休み前に交通事故に合って現在入院中なんだとさ。確か結構年配の人だったからそれで回復に時間が掛かってるっぽいね」


「あぁ、それで臨時って事か」


「そそ。で、屑巣先生を含めた3人の先生が3組を見てるんだってさ。まぁあの口ぶりだと、あの学校で一番若い屑巣先生が主体で残り二人がそのサポートって感じ」


「へぇ~」


 納得は納得。どうして5年の担任が臨時であっても6年の担任、しかも主体となっているのか分かりませんが特に興味が沸かないので納得しました。


「ちなみに梨君」


「ん? はい」


「屑巣先生、本来の担当クラスは5-2組だってさ」


「? はぁ……はい、そうなんですね?」


 名指しと、なにやら改まって何かを言おうとしてたので気持ち身構えてたのに四季先生の口から発せられたのは凄くどうでも良い情報だった。


「あの四季先生。ちょっとした伝手で聞いたんですが、総括理事長の選出基準は通知表に記載されてた人気投票で決めてるって話、本当ですか?」


「え? そうなの?」By四季先生。


「え? そうだったんですか?」By久遠少年。


「え? そうだったの?」By私。


 と、二宮君の質問は我々学生二人の反応と似たり寄ったりな返答で返されました。


「や、先生は今も昔も養護教諭。学校の先生ではなく保健室の先生なんで」


「いや昔って……あぁ確かに昔かぁ」


 実はこちらの四季先生、淳兄さんが生まれたその半年後に資格の養護助教諭を取得して淳兄さんが小学生の頃から保健室の先生をしていたとの事。以前その事をお父さんが居る時に聞いてみたところ「仕方なくってやつだ。これが全て」と、四季先生は私のお父さんに不気味な笑みを向けていた。


 ――! あぁでも確かその後に顔を背けて「でもそれお陰で良い未来を夢見れた」とも言ってたっけね? 保健室にやってくる命に別状が無い子供達を診るのに対し、病院では常に命に別状が有る子供達を診る。今にして思えば病院で擦り減った心を学校で癒してたのかな? あらあらまあまぁそれならなんて――あぁなんてっ!


「惨いねぇ」


「――……梨君、お父さん似の思考で馬鹿げた考えを巡らせるんじゃないよ」


「! あらあらまあまぁ」


「「?」」


 ついネットリ且つボソッと口に出してしまった言葉を拾いあげた四季先生に釘を刺される私。そしてほんの少しだったが四季先生の声質が変わった事をバックミラー越しに二宮棗達が訝しんでいたので別の話題を振る事にしました。


「久遠少年! こうして教えて貰った幼馴染ちゃんの家に向かっているけどさ、先にどっか寄る所とかってあるかい? この時間ならここにいるとか、嫌な事があったらここにきて元気を貰うとかって場所」


 車内のデジタル時計は15時50分を示している。ゲームセンターやカラオケとかは18時まで小学生の受け入れてるから外出している可能性も当然あると思って聞いてみた。


「!」


 すると久遠少年は何かを思い出したのか回収した幼馴染のランドセルの側面を見る。確かランドセルの両側面には安全ブザーやキーホルダーを付ける場所があったはずだ。そこを見ているっぽい?


「……袋のキーホルダー?」


 そう隣に座っている二宮棗が言う。位置的に私には見えませんが袋のキーホルダーが付いているそうです。


「あの! 九々の家に行くまでに1か所立ち寄って欲しい所がありますっ」


「! お、おう。何処?」


「ありがとうございます。寄って欲しい場所は――」


 と、寄って欲しい場所を言う久遠尾々。指定された場所は今いる場所から車で10分前後で行ける駅から一番近いゲームセンターだった。

 

 ――で、少し渋滞に巻き込まれつつも約20分後に指定されたゲームセンターの正面に到着。


「ふむ。中学生はいるけど小学生は居ないっぽい……? 幼馴染ちゃんはダンスの音ゲーが好きだってさっき言ってたけど、音ゲーエリアは奥にあるから中入って探してみるかい?」

 

 タイミング良くゲームセンター真正面の赤信号で停止中。その間に反対車線にある店内を見える範囲で確認し、発見できなかったので直接入って探してみるかと提案する。

 

「お願いします」


 私の提案に賛同する久遠少年。バックミラー越しだったがどうやら居ると確信しているご様子。これが長年一緒に居る人達特有の勘って奴だろうか?


 などと思ってたら、


「あ! 出て――ッ!? ごめんなさい降りますッ!!」


「「「!?」」」


 止めるどころか声を掛ける前にドアを開けて車道へ飛び出す久遠少年。


「――! あらあらまあまぁ」


 改めてゲームセンターを見てみると、丁度一人の女子小学生が私達と同じ学校の制服を着た女子生徒二人の内、身長が大きい方の女子生徒の手を振り払っているのを目撃した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る