第32話

「6時間目の小学生と掛けまして、21日目の鶏の卵と説きます」


「「「その心は?」」」


「どちらも早く帰りたい孵りたいでしょう」


「「分かりみが深い」」


「これが現代教育の闇か……」


 と、私――六出梨のなぞかけに現役学生の二人が深く共感し、学生を卒業してしまった大人が落胆する。


 てなわけで私達学生組の母校である○○小学校に到着です。

 ちなみにこうなった経緯を簡単にまとめますと、久遠尾々の幼馴染ちゃんが昼休み頃に学校を脱走。それで幼馴染ちゃんの家は家庭崩壊しているので? 代わりに担任から久遠尾々に連絡が入り、これまた何故か大至急ランドセルや教科書等を代わりに持ち帰れとお達しがきたので四季先生にこうして車を出して貰いました。


「あ! そう言えばその幼馴染って何年生なんだい? それと名前。聞くのを忘れてた」


 下駄箱にて来客用のスリッパに履き替えながら、守衛所で守衛さんに提示していた『来訪者(在学者の親族)』と明記された2人の顔写真付き首掛けストラップをその首に掛けていた久遠尾々に質問をする。


「6年です。6年3組。名前は久遠くどう九々くくです」


「ありがとう。……ん? もしかして苗字の漢字、一緒?」


「はい一緒です」


「「「おぉ~」」」


 宝くじ3等レベルの奇跡的な偶然の一致に驚きの声を上げてしまう私達3人。そんな私達の反応が面白嬉しかったのか久遠尾々は話を続けてくれた。


「ちなみに出生を理由に名前の方も似せているそうです。僕が3/31の23時59分ジャストに生まれたのに対して、九々は4/1の0時0分39秒で生まれました。秒数にして99秒差。それに因んで九々と名付けたそうです」


「「「ヤバッ! 何それヤバッ!? ヤバタニエン」」」


 追加の情報に語彙力を失う我々3人。ノリだけで生きているギャルみたいな感想が精一杯です。


「――おや」


 雑談に華を咲かせていると6時間目の終了を知らせるチャイムが鳴る。


「確かこの後って掃除だったっけ?」


「――そうです」


「――そうだな」


「ん? どしたの?」


 含みのある沈黙と言い方にその意図を聞いてみたけど、二人は答えない。ただ二人して”教室に行けばわかるかも?”とだけ。

 そして久遠尾々を先頭にして廊下を進んで階段を登り、私と四季先生が少し遅れて目的のクラスがある3階に着くなり――、


「えっ……なんで……?」


「ん?」


「おや」


 と、聞き覚えのあるような無いような、そんなフワッとした感想の声が聞こえる。その方向に振り向いてみると、屋上へ上がる階段を清掃していた4人の生徒の内、その一人の男子生徒がドラマで見た事のある”長い事会う事が無かったDV親に偶然再会してしまった子供”のような恐怖と困惑にその顔を歪ませていた。


「四季先生、先生ってショタコンであらせられられらぁ?」


「あらせないないなぁ」


「じゃあ人違いの勘違いか。行きましょう」


 特に気にする事なく先で待っている二人の元へ。背後の四季先生から「人違いの勘違い……ねぇ……」という台詞が聞こえたけど此方も気にしない。


 少々遅れて二人が待つ6年3組の教室前に到着。そのまま私が教室のドアを開けようと取っ手に手を伸ばそうとしたら、


「(ガラッ)――うぉ!? 誰だ君達?」


 と、教室側からドアが先に開かれ、目の前で教師が一人、私達を見て驚いていた。

 

 そして顔見知りだったのか私の隣に居た二宮棗が小さな声で「あんたかよ」と、不機嫌そうな顔で囁く――。


「! あぁ」


「っ! 屑巣くずす先生。言われた通り久遠九々の荷物を受け取りに来ました」


 私達を観察した後、久遠尾々を見つけるやいなや相手を小馬鹿にした顔つきになる。久遠尾々はこの教師の対応に慣れているのか愛想笑いを浮かべて要件を述べた。


「あ、そう。じゃあ早く持って帰ってくれるかな? それと君の方からあの子に説教をしといて。うちは置き勉禁止なんだから帰るんだったら荷物を持って帰れってさ」


「すみません。本当にすみません……」


「「――ん?」」


 え? 勝手に帰る事への説教じゃなくて、荷物を持って帰らなかった事への説教なの? と、頭を下げて謝罪をする久遠尾々とは反対に、私と四季先生は首を傾げてしまう。二宮君に至っては――! あ、あの? 何故ちょっぴり笑みっているのです??


「変わってねぇなぁ屑助先生」


「っ!? お前……あっ! まさか二宮なのか……?」


「屑助……あ!」


「え?」


 二宮君の言葉に屑巣先生が驚愕。四季先生も1秒差で何かを思い出した様な声を上げ、この三人の内、私だけが頭に疑問符を浮かべたままだった。


 ――……え? 本当に誰ですか?

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