第21話
「「――」」
奈々氏景隆と島之南帆は頬を叩かれたまま固まっていた。二人の口から出るものは何もない。呼吸すらしてるのかわからなかった。
それを見ていた俺とその他女子二人は息を飲んでその光景をただ見ていた。とてもじゃないが口出しできる雰囲気じゃなかったから。
「おい」
「(ビクッ)」
と、淳さんの呼び声に二人は身体を小さく跳ねらせるとゆっくりと横に向いていた顔を淳さんに、麻紗緋さんにそれぞれ向ける。
「自分達が何をしてきたのか? そして何をしたのかをそのボウリングの玉みたいな頭で考えろ」
そう言って淳さん麻紗緋さんと俺に「行こう」と、言って歩き出す。すると丁度そのタイミングで到着していたらしい四季先生が見知らぬ誰かと楽しそうに話しながら共にエスカレーターを上ってくるのが見えた。
「ぁ……あ!」
――と、四季先生達が近づいてきてようやくわかった。四季先生が連れていたのは長い髪を切って女物から男物の服装に着替えた六出だった。
ただまぁ? 六出が持っている危うさと儚さがチグハグながらも完成された芸術品のような妙な魅了のせいか、それとも元々の素材が女よりの中性的な顔立ちと身体つきのせいか、メンズファッションを着こなしたボーイッシュ女子みたいな感じに仕上がっていた。
「お待たせよー……どうです? オニューの私は!」
六出は俺と淳さん達の前までくると自信満々な顔で感想を求める。そしたら淳さんと麻紗緋さんが合図も無しにタイミングを合わせて口を開く。
「なんだ俺の妹最高か?」
「なんだ私の妹最高かァ?」
はい。全くもって同意見です。
「ほらな? 先生と似た反応だったろ?」
「あらあらまあまぁ……今日から男性ホルモンでも打とうかーしらん?」
と、どうやら四季先生も同じ反応をしていたらしく、六出は天井を仰いで虚しそうにそう言った。この反応から察するに相当気合を入れていたらしい。
今度、メンズファッションの勉強でもしてやるか。
「……」
――ふむ。やはり顔が良い、凄く良い。料理を手伝う度に思っていたが、こうして近くで見ると淳さんと麻紗緋さんの面影がある良い顔立ちをしてる。島之南帆は似ていないと断言してたが節穴かってぐらい何処を見ているんだ?
「……え」
ふと気になって島之南帆を見ると呆気に捕らわれ間抜け面を晒す彼女がいて、そのすぐ隣にる同じ顔をした奈々氏景隆と寄り添い合っていた。
「……おや? あらあらまあまぁ、八條朔八のハーレム要員ではありませんか! ――! あーだからここで会えたのか」
「! 居たのか?」
「居た。なんだったら四季先生と会う前に見つけてちょっと話してた。……なるほどなるほど。どうしてこんなところにいたのかを聞けなかったけどこれで分かった」
俺の質問に答えながら梨はその首を何度も縦に振る。――が、突如として縦に振っていた首がピタリと静止する。
「ん? ――ん?? ――……ん」
と、悩み込む素振りを何度か見せると、そのまま難しそうな顔で俺を見る。そして手を奈々氏景隆達に向けるといったジェスチャーをした。
「な、なんだ?」
「あ、いや……話してたって事は二宮君のご友人だったのかなって?」
「「「「「「「――は?」」」」」」」
言った本人とその隣の四季先生以外の全員の心が一つになる。決してありえないと思った事が梨によって引き起こされた。
「あ、勘違い? 挨拶してただけ? またオレ何かやっちゃいました?」
「梨君……彼等は君のご友人だった人達です」
「あらあらまあまぁ……え!?」
と、俺達の反応と四季先生の補足に慌てふためく六出と、それを呆れた様子で見る四季先生。小学校から一緒に居た相手を忘れるか? と、普通ならそう思うが慌てふためく今の六出を見ると嘘を付いている様には見えなかった。
「梨君こちらをご覧ください」
またかよ! と、いった感じで四季先生はポケットからスマホを取り出してはそれを六出の前に出し「まずこれが小学校の時の梨君だ。そして――」と、聞き覚えのある単語を言いながら画面をスワイプさせていく。
「ぁ……あ? ……ァ……あァ――……」
すると楽しそうだった六出の表情が段々と真逆の表情になってゆき、最終的には見ているこっちの気持ちが落ち込んでしまう様な沈んだ表情になる。
――が、俺は何故かその表情が酷く懐かしく思えた。
「――なんで、だ?」
「――なんでよ?」
そして六出の変化した表情に島之南帆、姫島瑞乃、相上綾香――奈々氏景隆までもが見ているこっちに罪悪感を感じさせてしまう程の痛々しい表情になり、奈々氏景隆と島之南帆の二人はまるでゾンビの様に梨に近づこうとした。
――が、
「あ、無理やめてっ。もう戻りたくない」
六出はそう拒絶して一歩下がり、それを見て聞いた二人の足が止める。
「戻りたくないってなに? なんだよそれ??」
「……」
「なんで何も言わないんだ? ――お前はッ!」
「「「! ――!?」」」
急に駆け寄る奈々氏景隆を止めようとしたが四季先生によって逆に止められてしまう俺と淳さん達。
「どうして俺達にはさっきみたいな楽しそうな顔を見せてくれなかったんだよ! なぁ!! なん――っ!?」
と、奈々氏景隆は思いの丈を吐き出しながら梨を肩を掴んでは六出の胸に自身の額を押し当てる。そして顔を上げた瞬間固まった。
「……」
――あの六出が、淳さん達でさえ息を飲んでしまう程の嫌悪感を滲み出しながらかつての友人を見下しているからだった。
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