第8話
「――あらあらまあまぁ……って奴です」
「いや、あらあらまあまぁじゃないでしょうが。何があったんだ?」
「んー何があった……ですかぁ?」
四季先生の問いに事の原因となった光景が脳裏に過る。
「私のコレクション」
「コレクション? あの哀れに分解された時計達?」
「一言余計ですがそれです。確か……四季先生が薬を管理すると言った前日に、『薬はいいけど、時計を捨てたりしたら髪の毛引っこ抜くから』と、妹の春に壁ドンor包丁で脅しておいたんですよね確か。それで退院したら私のコレクションが見当たらず、代わりに作業台に黒のごみ袋が置いてあったんです。――中身は折られたり砕かれたりした時計のパーツでした」
私――六出梨には趣味がある。それは時計の分解。美しく仕上げられた物を分解するのが好きな性分なのです。コレクションとはそれを綺麗に並べてケースにしまった品々を指し、たまに取り出しては好きな音楽を聴きながら分解中の思い出に浸るのが私にとっての至福の一時になっている。特に淳兄さんと麻紗姉さんと交流を持ってからは一端の学生である私には無理をしないと手が出せないようなちょっとお高い時計を貰うようになり、至福の一時には極上が付くようになった。
「それで怒ったと」
「――いえ怒りとかは全然。泣かない程度に悲しかったぐらい」
子供が大切にしてた玩具が劣化で動かなくなってしょんぼりする――様な感覚? 多分。
「でもまぁ妹の春に関してはお仕置きするよと言っておいたので有言実行。一応、完全に捨てられた訳では無かったので……手心? 的なのは加えましたよ? 共犯だった弟の冬にもまた同様に、です。髪の毛は引き千切ってボブヘアーに、歯は数本残っていた乳歯のみペンチで引き抜きました」
「うわぁ……」
と、四季先生は露骨に引く。
「そんな引かなくても……仕方がないでしょう? 己で宣言したなら実行しませんと」
「――えー? そんな芯のある人間みたいなことを言われましても……」
渋い顔までして納得のいかないご様子の四季先生に私はとっておきの殺し文句を言う。
「有言実行は父親譲りです」
「なっ!? その殺し文句は卑怯だぞ!」
「ハッハーお父さん様々だぜぃ! ――と」
納得してしまった事に悔しがるそんな四季先生の姿を見れて大満足した所で授業終了のチャイムが鳴った。
「さて、と。久々の教室に行きましょうかねっと」
ベットから立ち上がって保健室に置かせて貰っていた携帯椅子を持ち出す。と、四季先生から――、
「もういらないよソレ」
と、言われた。
私はその理由を聞こうとしたが四季先生は頑なに理由を言わず、なにか――サプライズを受け取った際の反応を楽しそうに待つ仕掛け人の様なニヤニヤ顔で私を無理やり送り出す。
「――あぁっとそう言えば」
「はい?」
数歩進んだ所で何かを思い出したような声を出されて振り返る。
「コレクションが入ってたゴミ袋の中には例の銀時計も入ってたのか? あの
「――いえ、無事でしたよ? そもそもアレの存在を知っているのはお父さんと四季先生と淳兄さんと麻紗姉さんの4人だけです」
四季先生が言った親猫と子猫の写真が入ってる銀時計とは、以前転校生に電話越しに伝えた――私が子供の頃に例の親猫の死骸の近くに落ちていたものであり、私が初めて分解した時計である。
「おぉそうかい。――いやなに、前に見せて貰った時、他のどの時計よりも凄い大切そうにしてたからさ」
「お気遣いありがとうございます。あの時計は色んな意味で特別な代物なのでね。それなりの保管方法を使ってます」
「そうかい。――ちなみにその銀時計もゴミ袋に入ってたらどうしてた?」
「銀時計もですかぁ? そんなの――『生まれてきてごめんなさい』って、言うまでタオルと水を使って反省をさせます」
まぁ悲しすぎてやり過ぎてしまうかもですがそれはまぁ、長男であっても人間なのでね? 感情に左右されるのは致し方ない生理現象ってやつです。
「――んっ」
「――あらあらまあまぁ」
四季先生の引き攣った笑みに私はごく自然な笑みを返し、私は自分の教室に向かうのだった。
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