勘違いNTRから始まる青春譚。身に覚えのないハーレムを奪われたらしい私はどうすりゃいいですか?
白黒猫
0章
第1話
NTR――すなわち寝取り。
他人の配偶者や恋人と情を通じて自分になびかせることを言うのだとか。
大抵の場合はNTRされた方は一生消えないキズを刻まれ人間不信になったり、新たな性癖に目覚めてしまうだとかなんとかで、その後の人生が大きく狂う事柄として世間に認知されている。
――あぁっと、初めまして。私の名前は
唐突だが聞いてほしい。どうやら私はNTRをされたらしい。事情が事情なので事の発端の大分前から説明する。
私にはどうやら可愛い可愛い幼馴染が2人と、私なんかに15年の歳月を掛けて育てた初恋を捧げてしまった女子がいたらしい。名前は
島之とは小学生の時に気が付いたら隣に居て、毎朝起こしに来たり多忙な両親の代わりにご飯や弟と妹の面倒を見てくれていた女子さんで、姫島は中学1年生の頃からずっと同じクラスで何故か学校行事等では毎回誘われて組まされる女子さん。
次に相上。こいつに関しては高校1年次に同じクラスで委員長兼優等生だった事ぐらいしか知りませんし存じません。
この女子3人を3か月前、私が2年に進級した日に転校してきた転校生――
そんなこったで現在――。
「What?」
今、私が握っているスマホにはとてもとても破廉恥極まる乱交後の記念写真が3通送られてきている。
3通――そう、上記3名の女子達から。写真と共に送られてきたメッセージには『私の気持ちを裏切った。見向きもしなかったね? ロクデナシ』『好きだった。だから嫌いじゃなくて大嫌い』『”あの時”助けてくれてありがとうございます。あれがきっかけで私は恋をする事が出来ました。……でも、恋が辛く苦しいものだとも知らしめられました。自分勝手で誠に申し訳ないのですが、感謝すると同時に貴方を一生恨みます』――と、Whatな内容のものだった。
「とりあえず……あ、お早いことで」
クラスのグループチャットから当事者で主催者であろう転校生に電話を掛けると、呼び出し音1回目で出てくれた。
「やぁこんにちは。まさか君から連絡を貰えるとは思わなかったよ」
「私も転校生に私情で連絡する日が来るとは思わんかった。要件はわかる?」
「あぁわかってるとも。ただせっかく5分以上使って考えていたメッセージが無意味になってしまった」
「あらあらまあまぁ」
互いに平静を装う――訳ではなく平静そのもの。こちらに敵意がないのと同様に向こうも悪意は一切感じ取れない。
「ショック……は、全く1ミリも受けてなさそうだね? まぁ予想通りだったかな」
「あるのは困惑よ。この乱交写真をどうしろと? 抜きネタ?」
「さてね? 彼女達に聞いても泣きそうな顔で愛想笑いされたから深堀はしなかった。……まぁ、僕の指示ではないから安心しなよ」
「……僕なら目の前でキスする?」
「舌を絡めるお熱いのを見せつけてやる。ちゃんと君の目を見ながらね?」
「wow! ハラショー!!」
予想の斜め上の変化球に驚きと感激が同時にやってくる。
「八條君! ――中々良いね、いい感じに普通ってやつじゃない。良ければ友達にならないかい? お友達料金としてゴムを毎月8箱贈ろう」
八條朔八だけに8箱。上手い! 上手くない? いや上手い!
と、一人で自画自賛をしていると、転校生の乾いた笑い声の後に威圧感がのる。
「あははっ! ――それは無理。正直に言って無意識に恵まれていた君の事が大嫌いだ。それに以前、君は僕を猫と言ったしね」
「? ……あぁ! 保健室の。よく覚えてたね?」
彼が転校してから数日後、保健室で会った事を思い出す。
確か凄く眠かったのでお世話になっている保健室に寝に行ったら転校生君が私の愛用しているベットで横になっていたっけ? そして何故かその光景が一瞬だけ猫に見えてしまって思わず『猫?』と、口にした。
――あぁ! そういえばその時、私を睨んでいたようないなかったような? 眉を顰めていたようないなかったような? 忘れた。
「猫は僕がこの世で一番嫌っている存在なんだ」
「あらあらまあまぁそれなら仲良くはなれないね? 動物なら猫が一番好きなのよ私ぃ」
「そう。……どこが好きなのか聞いても?」
猫のどこが好きか? ――あのキュートな見た目? 否。仕草? 否。猫を吸って得られるネコ二ウム? 否だ。
「死にざまじゃないかなーうん! あれは――」
「――――は?」
突飛な返答に声を失う転校生だったが、それを無視してふと沸いてきた思い出に浸ってしまい滅多にしない昔話をしてしまう。
「子供のころ、一日に2度猫が死ぬ瞬間に立ち会った事があるのよ。両方とも危ない人達に痛めつけられた猫でね? でっかい親猫? が先に痛めつけられた子猫を助けようとしたんじゃないかな? 滅茶苦茶に蹴られたり壁に投げつけられてたっけなー」
子猫が息絶える数十秒間、親猫さんは大人3人から痛めつけられていた。私はまぁ……子猫が息絶えるまで見守りつつ観察をしていました。だって猫が死ぬ瞬間なんて滅多に見れるものじゃないでしょう?
――え、助ける? 面倒くさいです。それにあの時はタイミング悪く携帯電話の充電が切れてたし、近くに人もいませんでしたしね? しかも雨降ってたし。
「あぁいやね? ただね? 嫌いじゃないのよ本当に! まぁ……何と言いますかー……綺麗だった? 心がゾクゾクしたぁー……興奮した? ――とりあえず! 猫は好き」
「イカレ野郎」
「!? っ」
間髪入れずのシンプルな罵倒にしっかりと伝わってきた嫌悪感に吹き出しそうになるが何とか耐える――1秒ほど。
「ククッ!? ンフフっ」
いやはや中々にツボりましたな。ハーレムを築ける普通でない転校生からイカレ野郎なんて罵倒が飛んでくるとは思わなかった!
「な、なんかごめんなさいねー笑っちゃって。NTRの醍醐味である背徳感うんぬんを味わえてないよね今」
「――いや。むしろ感謝してるよ。君から彼女達を掠め取ったんじゃなくて、救ったんだと今はそう思えるから」
「あらあらまあまぁ……! あぁなら一つ伝言よろし?」
「彼女達に? 悪いけど彼女達が傷つく――」
「いんや? 担任様よ。悪いんだけどさっき親から連絡があって今日から1週間検査入院する事になってね? それを担任様に伝えといて下さる? 定期入院って言えば伝わるから」
学校に電話するのが面倒くさかったから助かる。
「……」
「?」
通話先から人の気配? 的な何かが消え、その代わり遠くで複数人の泣き声を拾う。なんだろうと思いながら”おーい”と呼び続けていると、5回目でようやく通話先から人の気配が現れた。
「わかった伝えておくよ――ロクデナシ」
「! あらあらまあまぁ! 私は逆に……と、切られた」
好感度爆上がり――と、伝えようとしたが切られてしまった。
「ハハッ」
名は体を表すと言うが正にその通り。私の名前は六出梨――読み方を変えればロクデナシとなる。私にあった名前であり私の為にあるんじゃないかと思えてしまうピンポイントな罵倒セリフ。
「いやはや……胸が打たれたなぁ最後の」
今後、如何なる事があろうと私はあの転校生――八條朔八を嫌いになる事はないだろう。それほどまでに最後の”ロクデナシ”には感情が籠っていました。
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