球技大会にて

 そうしてやってきた、球技大会当日。

俺たちは朝からジャージ姿に着替えて、過ごしていた。

 午前中に行われた予選試合では、フットサルもバスケもそれぞれ勝って次の試合に駒を進めた。

 俺たちの学校は種目が多い代わりに種目ごとの人数が少ない。そのためクラスごとに出る種目が違うこともあり、全体のチーム数が少ない。

 そして昼休憩をはさみ、残り一試合。つまり、決勝を残すところとなった。

 俺はバスケの決勝戦を見にきていた。


「ナイッシュー!」

「パス!」

「リバンッ!」

「切り替えて行こー!」


 今、試合は25対27で負けている。試合は後10秒もせずに終わる。その時、七海にボールが渡った。


「頑張れー!」


 七海はボールを受け取ると、スリーポイントラインを素早く確認すると、ゴール目掛けてボールを放った。放ったボールは弧を描き吸い込まれるようにネットを揺らした。それと同時に試合終了の合図を知らせるブザーが鳴り響く、うちのチームの勝ちだ。

そこで七海はこちらの方を向くと、


「ぶい!」


俺に向かって、ブイサインを送ってくる。

俺はそれに手を振り、七海の元へ向かう。

 しかし、彼女の元にはチームのメンバーによる人だかりができており、俺は近づくことができなかった。


「七海ちゃん!最後のすごかった!」

「ナイス!よく決めてくれた!」


 七海はみんなからの言葉に狼狽えつつ、嬉しそうにしていた。学校で隠さなくなってから、彼女も普通の女の子だと、少しずつ親しみづらさが緩和されていったらしい。俺としても、恥ずかしがり屋で上手く喋れなかった彼女に学校で楽しめる友達ができると嬉しい気持ちがある。

 人だかりが落ち着くと俺は近づき、七海にタオルを渡すと、


「最後のシュートすごかったよ」

「へへ。そうでしょ!」


 彼女はタオルで汗を拭い、嬉しそうに微笑む。


「次は、明人の番だね!私も見に行くから一緒に行こ!」

「そうだね。行こうか」


 そうして俺たちは次のフットサルのコートであるグランドへ向かうのだった。


「お、来たな」


 グランドへ着くとすでに翔太が待っていた。他の3人もコートの近くにいた。

 そろそろ試合が始まろうとしており、俺たちはコートの中に入った。


「頑張ってね」

「おう」


 七海の応援を背に試合が始まった。

 試合はずっと硬直状態で、攻めては守られ、攻められては守って、どちらも決めてを欠いている状況であった。

 試合終盤、相手のゴール付近、相手がちょっとしたファールをして俺たちはフリーキックというチャンスをを手にした。


「誰が蹴るよ?」


みんな疲れていて、肩で息をしている状態であった。


「なぁ、日野くんが蹴らないか?」

「え?いや、こんなチャンスサッカー部が蹴るべきじゃないか?」

「フリーキックを貰ったのは日野くんだし。彼女が見てるんでしょ?この場面で決めたらかっこいいけどな」

「まぁ、決められたらかっこいいが」

「大丈夫、外しても俺らがカバーするから」

「おう!全力で蹴ってきてくれ」

「分かった。全力で頑張るよ」


そう言って俺は蹴るための助走を取る。


「あきとー!頑張ってー!」


七海の声援を受け、俺はゴールの端っこを狙ってボールを蹴る。ボールは人の間をすり抜け、ゴールネットを揺らす。俺は先程の返しで、彼女にブイサインを送ると、彼女もブイサインを送ってくれる。


「よっしゃ!よくやった!」

「ナイスゥ!」


試合はそこで終了となり、球技大会は二人とも優勝という結果になった。

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