第25話


「何処に行きたいの?」


零が運転しながらチラッっと直斗へ視線を向けた。


「家具とか食器とか売ってる店あるじゃん?デカくて…全国チェーンのさ…」


直斗が名前を思い出そうと指で額を軽く叩いている。

その様子を見て笑いながら


「ああ…あるね」


と、零が頷いた。


———何が買いたいんだろう?


「あ……そう言えばさ…」


不意に直斗が口を開く。


「零って…22だよな?」


「———え………?」


「歳さ……大学4年だろ?」


家で美亜と話した事を思い出した。


「あー……………」


何となく零が口籠る……。


「違うの?」


「いや……大学4年だけど………」


「———?………」


零が小くため息ついてから


「……歳は………24なんだよね……」


「嘘だろ⁉︎」


思わず零を見つめる。


「本当に………」


———俺より6つも上なの!?……全くそう思えないんだけど…………。


「黙っててごめん………」


「別に謝ることないけどさ」


直斗は再び零を見つめる。


———どう見ても24には見えないだろ………


学校でスーツ姿の零を見た時は思わなかったが、今こうして見ていると高校生と言っても全く違和感が無いように見える。


───華奢で細いせいもあるだろうけど……。


「ってことは……2年間何してたの?」


直斗が思ったままの質問を投げる。


零は「あー…………」と困った様に


「まぁ……色々あってね……」


再び言葉を濁した。


───……なんか……こういう時だけ大人みたいな言い方して……ムカつく……。


「色々ってなんだよ」


「…………色々は……色々」


「………あっそ…」


直斗が機嫌が悪くなったのを隠そうともせず答えると


「……怒ったの?」


ちょうど信号で止まった零が直斗の顔を覗き込む。


「……別に…………」


───怒ってるじゃん…………。


信号が青に変わり車を発進させる。


「すぐ怒りすぎ……」


零がまたチラッと直斗を見ると


「怒ってねぇし……」


余計機嫌悪そうに答える。


「怒ってるじゃん」


そう言って零はため息をつき


「大学……行き直したんだよ。やっぱり教師になりたくて……」


直斗が横目で零を見つめる。


「だから……人より2年時間がかかったの。それだけだよ……」


「……じゃあ……なんで隠そうとするんだよ」


「カッコイイ事じゃないでしょ?親のお金で行かせてもらってる訳だし……」


「ふぅん……」


直斗はどこか納得いかないといった様に返事をした。


───別に……嘘って訳じゃない……。


「直斗くん……気が短すぎ」


零が肩を竦める。


「仕方ないじゃん。零のことは何でも知りたいんだから……」


直斗が不貞腐れる。


「気持ちは分かるけど……。俺だって直斗くんのことは知りたいと思うし。けど……知らない方がいい事だってあると思う……」


「そうかもしれないけど……」


直斗が不貞腐れたまま零を見つめ


「それでもお前の事はなんでも知りたい」


ハッキリ告げた。


零が一瞬目を見開いて


「独占欲」


そう言ってクスッと笑った。


「うるせぇ」


直斗が照れて余計口を尖らせる。


「でも……それで……俺を嫌いになるかもよ?」


零が前を見つめたまま感情の読み取れない言葉を口にした。


「は!?──過去の事で嫌いになるくらいなら、好きになんかなってねぇよ」


直斗の言葉に鼓動が早くなって顔が熱くなるのが分かる。


顔を赤くして不貞腐れる直斗を横目で見ながら零は「……そっか………」とだけ返した。




目の前に色とりどりの食器が並んでいる。

直斗がその前で立ち止まっているところを見ると食器が欲しいらしい。


──確かに……うちあんまり食器ないしな……。


横に並び零も食器を眺める。


───あ…………これ可愛い……。


その内直斗より零が楽しげに選び始めた。

その様子を直斗が笑顔で見つめる。


「お互いのコーヒー用のカップ買おうと思ってさ」


直斗の言葉に零が首を傾げる。


「あるのに?」


「いいの!」


二人で色々見ているうちに零がひとつのグラスを手に取った。


──あ……これキレイ……。


透明からブルーへとキレイなグラデーションになっている、夏らしいグラス。

余程気に入ったのか色々な角度から見ている。


「気に入ったの?」


「凄く……キレイじゃない?」


「買えばいいじゃん」


直斗がにっこり微笑むと


「──え?」


しばらく考えてから結局棚に戻した。


「なんで?買わないの?」


「んー…………別に……いいかな……って」


「…………?」


「マグカップ探すんでしょ?」


零が別の棚を見だした。


「あ!コレ見て」


零が棚へ手のを伸ばし


「あの子みたい」


猫の絵が描かれたマグカップを持って嬉しそう笑った。













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