第21話
───よく寝てる…………。
零は自分を腕に抱いたまま眠る直斗の顔をそっと見上げた。
ベットに入ってからも直斗は何度となく「キスしちゃダメ?」と聞いてきて、零はその度に「ダメ」と答えた。
──こんな風に……好きな人と過ごす日が来るなんて思わなかった……。
あいつと……こんな風に寝た事……あったっけ……?……。
昔の記憶が蘇る───。
同性にしか興味が持てないことをずっと隠していた。
友達も誰も気付かなかったのに『あいつ』だけが見抜いた。
キスもセックスも全て教わった。
それまで誰とも恋愛経験が無い、まだ高校生だった零が夢中になるのに時間はかからなかった。
『家庭教師』と『生徒』
二人だけの時間はいくらでも作れた。
しかし本気になったのは零だけで、相手は見目の良い零を連れて歩き、自分好みにすることにしか興味が無かった。
そして……入院してしばらくすると連絡すら取れなくなった……。
───忘れなきゃ…………もう…終わった事だ…………。
直斗の寝顔にそっと触れる。
───可愛い…………。
直斗の体温に安心したのか少しづつ瞼が重くなる。
しばらくすると部屋に二人の寝息だけが重なっていた。
───あれ……ここどこだっけ…………。
直斗は目が覚めたばかりのぼんやりする頭で起き上がろうとして自分の腕を枕に隣で眠っている零に気付いた。
───そっか……零の家だ……。
薄暗いせいか零のただでさえ白い肌がより一層青白く見える。
部屋着から見える首筋が異様に細く見え不安になった。
──こいつ……ちゃんと飯食ってんのかな……
「───ん…………」
零が寝返りを打つと、顔が近付ぎ『ドクン』と心臓が飛び跳ねた。
薄く形の良い唇が薄ら開き寝息をたてている。
───ヤバい………………。
直斗の鼓動がトクトクと早くなる。
ついさっき不安にさせた白く綺麗な首筋が今はたまらなく色っぽく見える……。
───ヤリたい………………。
零の唇にそっと指を這わせる。
まるで初めての時の様に心臓が痛い程早くなるのが分かる。
零の顎をそっと上げ唇を近づける。
息がわかる程近付いて直斗はキスするのをやめた。
自分の腕の中で安心して眠る零を裏切れないと思ったからだ。
「……2週間……長ぇなぁ……」
直斗はため息と共にボソッと呟いて、何となく部屋を見回す。
──寝室も…なんも無えな……。
壁に備え付けのクローゼットがある為か、部屋の中にはベットとちいさなサイドテーブル、その上には照明用の小さなリモコン一つ。
そのくせベットだけはダブルサイズで狭い部屋を圧迫している……。
───あ…………。
前に車の中で直斗が付き合っていたヤツがいたのか聞いた時……『まぁ……一人だけね……』と困った様に笑っていた……。
──だから……ベットだけでかいんだ……。
そしてマグカップも皿も全てが二つづつだけの理由も解る…………。
───どんな……奴だったんだろう……。
胸が締め付けられる様な感覚に襲われる。
今まで嫉妬なんて無縁に過ごしてきた。
嫉妬して無駄に労力を使うのもアホらしく思えたし、下手に嫉妬して自分が縛られるのも真っ平御免だった。
その点莉央は直斗の扱い方を心得ていた。
決して縛り付ける様なことはしなかったし、直斗に嫉妬させるようなこともしなかった。
告白したのは直斗だったが誰の目から見ても惚れ込んでいるのは莉央だった。
──自分はまだ女と別れても無いくせに嫉妬とか…………調子よすぎだろ……。
直斗は再び零を見つめる。
愛しくて仕方がない頬をそっと撫で、抱き寄せた。
「───愛してる…………」
耳元で囁くと零が薄らと目を開けた。
「……直斗…くん…………?」
「ごめん。起こしちゃった」
直斗がニッと笑った。
嫉妬していることを気づかせたくなった。
「今日さ……、ちょっと家に帰ってくるわ」
直斗の言葉を零がまだ起ききらない頭で考える。
───ちょっと帰ってくる……って……また来るってこと……かな……。
「そしたら……一緒に買い物行かね?欲しいものがあるんだよね」
「いいよ……」
零が眠そうな顔で微笑むと
「じゃあ決まり!」
嬉しそうにそう言って直斗が零を両手で抱きしめた。
「ねえ……、もう『今日』が終わってるんだけど…」
「……え…………?」
言っている意味が解らず眉をひそめ直斗を見上げる。
「キス」
───あ……『今日はしない』って言ってたっけ……。
零は照れたように
「そうだね……」
そう言って笑う。
───結局何度も「キスしていい?」とは聞いてきたけどね
「零がしてよ……」
「──え!?」
直斗がそれ以上何も言わず零を見つめる。
零の鼓動が一気に早くなった。
───自分からって……あんまりしたことないんだけど…………。
顔が熱くなってどうしたらいいかすら分からなくなる。
黙って見つめ続ける直斗の早くなっている鼓動が抱きしめられた肌を伝わって届いた。
零は上半身を起こし直斗の頬に手を当て、それでも見つめる直斗の唇にそっと口付けた。
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