第56話 酒禁止にしてみた

 奇妙な縁もあり、普段行動をともにしないスクイズとエミリーを加えた俺たち四人は、一緒にラングリッサー王国に向かうことになった。


 道中の馬車の中では俺とスクイズ、エミリーとテレサが話をし時間を潰していた。

 俺とスクイズは普段通りの馬鹿な話をし、エミリーとテレサは何やら一方的にエミリーが話し掛け、テレサが本を読む片手間に頷くという感じだ(話していないかもしれない)。


 そんな訳で、特に波乱もなく馬車に揺られること数日、食糧などの補給のため街へと立ち寄ることになった。


 数日の間、狭い馬車に押し込められ常に行動をともにしていた。

 久々にベッドで眠れる解放感から、本来なら今日くらいは羽目を外したいと考えるのが普通だろう。だが……。


「ラングリッサー王国に着くまでは酒はなしな」


 俺はきっぱりと三人にそう告げた。


「旅の楽しみをとるんじゃねえよ」


「せっかくなので少しくらい呑んだ方が良いのではないですかね?」


『お酒、呑みたいです』


 俺がそう告げると三人は三様の返事をしてきた。


「いや……だってな、お前ら酒癖悪いし……」


 スクイズはただでさえトラブルメーカーなくせに、酒を呑むと悪酔いしてますますたちが悪くなるし、エミリーも酔うと距離が近く接触してくるようになる。


 テレサはというと……。

 俺は彼女の方をみる。テレサは白銀の瞳を俺に向けると「どうしたのですか?」とばかりに首を傾げた。


 俺とテレサはパーティーを組んで半年になる。

 それまでの間、何度か旅先で酒も呑んだし、宿の食堂でも酒を含めた食事をしたこともある。


 だからこそ許すわけにはいかない。テレサは酒を呑むとより無防備になり、自分がどのような状態なのかかえりみなくなるのだ。


 ただでさえ薄着な彼女が、酒に酔えば見せてはならない部分を露出させてくるだろう。

 俺と二人の時は、さりげなく指摘をしたり、マントを被せたりして彼女の身を守ったのだが、ここにはスクイズがいる。


 テレサの雪の様に白い肌をこいつの欲望混じりの視線で汚すわけにはいかないのだ。


『ガリオン、本当に駄目なのですか?』


 数日の間、馬車に押し込められていたからかテレサもストレスが溜まっているに違いない。上目遣いの角度は60度、それが一番俺にダメージを与えると知っているのか、俺の胸元に手を当ておねだりをしてくる。


 普段の俺ならばこれで撃沈して頷いてしまい、テレサの希望を叶えていただろう。


「ああ、駄目だ」


 だけど、俺は学んでいる。甘やかすことが彼女のためにならないということを……。

 とはいえ、この言葉だけでテレサが納得するとは思っておらず、俺は彼女が俺のいないところで勝手に酒を呑まないかと危惧してしまうのだが……。


『わかりました、ガリオンが無意味に私に我慢をさせるとは思っていません。あなたがそう判断したのなら、従います』


 テレサは口元にかすかに笑みを浮かべると、酒を呑むのを諦めた。


「知るかよ! 俺は呑ませてもらうぞ!」


「でもお前、金ないだろ?」


 なおも酒を呑もうとするスクイズを俺は一言でバッサリ切る。


「わ、私も……ガリオンさんに言われたから我慢します!」


 テレサに対抗するかのように、エミリーも酒を呑まないと宣言した。


「いいか、明後日の朝には出発だからな、お前たち妙な事件を起こして迷惑をかけるんじゃないぞ?」


「それ、お前にだけは言われたくないぞ……」


「ガリオンさん流石にちょっとそれは棚に上げすぎでは?」


『ガリオンは自分をもっと正しく認識した方がいいですよ?』


 三人があり得ないという表情を浮かべて俺を見ている。


「お前たち、自分がいかに常識がないのか本気でわかっていないんだな……」


 俺は溜息を吐くと、


「はぁ、仕方ない今夜は(俺は)酒でも呑んでゆっくりするか」


「「『そう言うところ!!!』」」


 三人の突っ込みが木霊した。




……発売まで後1日!!!

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