第24話 決闘しにきてみた

 ざわざわと声が聞こえ周囲を見回す。


 ここはカプセの街が運営するイベント会場で、周囲を囲むように観客席があり、満席という程ではないが八割くらいは埋まっている。


 ルクスたちの宣伝効果なのだろうが、これ程多くの観客の前で戦うことになるとは想定外だ。


 俺の後ろにはテレサが杖とローブといつもの格好で控えているのだが、俯いており俺と顔を合わせないのでどんな表情をしているのか窺うことができなかった。


 今日はルクスとの決闘の日なので、始まる前に少し話したかったのだが、来てくれただけましと思うしかあるまい。


 仕方なしに視線を向けると、離れた場所にルクスたちが立っている。


 前衛のルクスは全身を高価そうな装備で包んでいる。


 腰に下げているのは魔剣だし、鎧や盾にサークレット、他にも首飾りに腕輪。いずれも魔力の気配を感じるので、何らかの効果を発揮する魔導具なのは間違いない。


 その背後には斥候の女と、僧侶の女。


 斥候の女はショートパンツで生足を晒し、太ももには短剣を何本も挿しており、僧侶の女の方は杖を抱えていて胸の谷間が強調されている。


 俺が何気なしに敵の戦力を分析していると……。


「ん?」


 踵に衝撃を受けたかと思えば、テレサが背後に立って俺を睨みつけていた。


「勘違いするなよ、あくまで脅威となる武器がないか確認していただけだから」


 その視線は「こんな時にどこを見ているのです?」とばかりに俺を非難している。


 実際、見所が他にないのだからいいじゃないかと考える。ようやく接触してきたかと思えばこうして不機嫌な態度をとられているのだから取り扱いに困る。


 俺が話し掛けると、テレサはプイッと顔を逸らす。


「この日を心待ちにしていたぞ」


 ガシャガシャと音を立ててルクスが近寄ってくる。その後ろには斥候の女、僧侶の女の他に数十名の冒険者がまばらに立っていた。


「その後ろに連れている冒険者たちは何だ?」


 俺がルクスに確認すると、


「こいつらは『栄光の剣』の新規メンバーだ」


 ルクスはニヤニヤと笑い、俺を馬鹿にするように答えた。


「勝負は『栄光の剣』の全メンバーとあんたの戦いよね?」


「いまからでも撤回しますか?」


 斥候の女と僧侶の女も挑発してくる。


 なるほど、こいつらは日頃ルクスから甘い汁を吸わせてもらっていた冒険者たち。万が一やつらが負けることを考えて、人員を補強してきたということか。


 俺は溜息を吐くと、


「そこまで恥を上塗りするとは、理解できないな」


「なんだとっ!?」


 俺が青ざめて謝罪する光景でも想像していたのだろうか?

 予想外の反応だったようで、ルクスは俺を睨みつけてきた。


「雑魚が束になってかかってきたところでどうにかできるわけないだろ? これだけ色々手を回して負けたら、お前の評価は地に落ちるだろうよ」


 真っ当な勝負を挑んで敗れたとしても、Bランクに留まることができるかもしれないが、大人数で挑んでおきながら負けるのは大恥もいいところ。


 億が一に勝てたとしても、汚点が残ると思うのだが、俺が憎いというだけで集まったやつらは自分を客観的に見られないらしい。


「減らず口をっ! 生きて帰れると思うなよっ!」


 やつらはそう言うと、自分たちの控え場所へと戻っていくのだった。




『やはり、私も戦った方が良いのでは?』


 決闘開始の時間が迫るころ、テレサはようやく俺に接触してきた。


 あの人数を前に不安になったのか、心配したような表情を浮かべている。


「いや、俺一人で十分だろ」


 あそこにいるのはBランクとCランクの冒険者がほとんどで、ルクスを除けば大した装備を身に着けていない。


 全員一振りで倒せる自信があるし、やつらの攻撃が俺を捉えるビジョンが一切浮かばない。


「いや、まて。やはり助けが必要かもしれない」


 俺が真剣な目をテレサに向けると、


「今の俺ではルクスを倒すには力が足りない。テレサの魔力を補充できれば余裕なんだが……」


 両手をわきわきと動かす。先日のことを思い出させてしまうが、冗談めかしていうことで水に流せないかと考えた。


『あなたは本当に馬鹿なんですか?』


 目論見は成功し、彼女が文字を書くとそれを吸い取り満足する。不安が取り除かれたのか、テレサは口元を緩めている。


「馬鹿とは失礼な。俺は今、悪漢から姫を守る騎士のような気分だぞ」


 ルクスたちでは力不足だが、こうしてテレサが信頼を寄せてくるなら気分が良い。

 普段は蔑まれてばかりいるので、評価を上げられるこのイベントはボーナスポイントみたいなものなのだ。


 そんなことを考えていると、いつの間にかテレサが近付いてきていた。

 彼女は俺の頬に左手で触れると顔を寄せてくる。


 不意に頬に感じる柔らかい感触と、流れ込んでくる魔力。


 少しして、テレサは顔を放し距離を取ると……。


『不本意ではありますが、今だけはガリオンを騎士扱いしてあげます』


 素早く文字を書くと顔を逸らした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る