第56話 巨大ロボ

 それはコックピットのようだった。


 一応、誠もアサルト・モジュールパイロットでありコックピットには慣れていたが、その巨大なコックピットにはなぜか燃えるものを感じた。


『これ!戦隊モノのロボのコックピット!一度、座ってみたかったんだ。ここに』 


 誠は二つとなりの小夏が座るコックピットを羨望のまなざしで見つめた。


「キャラットなっちゃん!キャラットサラ!キャプテンシルバー!ブラッディーラン!こちらはマジューンスペルター!」 


 誠の声に飛行する巨大マシンを見上げる小夏達。


「これが僕達のの切り札だ!転移を!」 


 誠の叫びに小夏とサラはうなづく。


「私にはその資格は無い……」 


 うなだれるラン。だが、小夏は叫ぶ。


「そんなわけ無いよ!ランちゃんは一生懸命やったじゃない。この世界を救うために力を貸して!」 


 小夏の言葉。彼女の治療魔術でほぼ傷の癒えたランは静かに頷いて手をかざす。少し恥ずかしそうにランが手を伸ばす。そしてランと小夏の手が重なった瞬間二人の周りの空気が輝き始めた。


 そして瞬時に全員がそれぞれの座席へと転移した。モニターには理性が崩れかけて破壊を繰り返す機械魔女メイリーン将軍の姿があった。


「変形よ!」 


『おう!』 


 小夏の声にあわせて全員で目の前の無駄に大きなボタンを押す。高らかに流れるクライマックスな音楽。


『心配そうな顔しないでよ、誠ちゃん。ああ、この音楽、権利的には大丈夫だからね。新藤さんの曲なんだって』 


 アメリアのあっけらかんとした声が響く。


『おい、俺の曲だからきっちりあとで礼をしろよ』 


 新藤の言葉を無視して超巨大戦闘機のような姿の機体が変形していく。


『いつも思うんだけどなんでこのときに攻撃を仕掛けないかな……』 


 そんな不謹慎なことを考えていた誠だが、やはり同じ意見のようなリンはきっちり肩のミサイルポッドからミサイルの雨を浴びせてきた。


「うわ!」 


 お約束は守るだろうと高をくくっていた小夏が顔面からコンソールに頭をぶつける様子が目に入る。笑いをこらえながら誠は叫ぶ準備をした。


「卑怯だよ!」 


「戦いに卑怯も何も無い!油断するな!キャラットなっちゃん!」 


 誠の台詞に小夏は元気一杯よみがえる。


「こんな攻撃で変形は止められないよ!」 


 そんな叫び声にあわせて変形が進行する。さらに高鳴る音楽を聴いてさすがのリンも空気を読んでおとなしくしていた。お約束の腕が伸び、首が回転し、ひざが伸びてロボットの形になる。そのままどういう理屈か良く分からないエンジン音を流しながらがっちりと採石場の中央に着地するロボ。


「マジューンシュペルターロボ!見参!」 


 小夏は得意げに見得を切ってみせる。今後突っ込みどころがあっても完全に出来上がったモードの小夏に誠は黙っていようと心に決めた。


 誠の目の前、五人全員からみえる巨大なモニターにはすでに第二波のミサイルが映し出されていた。


「うわー!」 


 小夏の大げさに過ぎる叫び声を聞きながら巨大ロボはそのまましりもちをつくような感じで倒れた。


『憎し!この世界!憎し!』 


 理性が破壊されているらしい渡辺リン大尉こと巨大化した機械魔女メイリーン将軍は巨大な鞭を手に倒れたロボに襲い掛かる。


「かわすよ!」 


 小夏の叫び声で右に大きく転がってリンの攻撃を避ける。リンは再び鞭を振るう。そして小夏が避けると言うことが繰り返された。


『良く動くな。このロボ』 


 誠は半分観客気分でころころ転がるので揺れまくっているロボの中でアトラクション気分を満喫していた。


「これなら!」 


 胸の前で腕を十字に交差させると言うまったく意味の分からないポーズをとったサラが目の前の一つしかないボタンを押す。いきなりロボのバックパックからジェットが噴射され、浮き上がったロボが体勢を立て直した。


『こういうのがあるなら早く使えば良かったのに』 


 そう思いながら隣を見ると、飽きたような感じのかなめことキャプテンシルバーがあくびをしていた。


「かなめさん、戦闘中ですよ!」 


「だって仕方がねえだろ?することねえしよ」 


 そう言いながら素に戻ったかなめは再びあくびをする。


「今度はこっちの番だよ!」 


 小夏の叫びとともに目の前の空間に手をかざしたロボ。光に包まれたその手には巨大な剣が握られていた。


「チャンバラか」 


 興味がなさそうにかなめがつぶやく。誠はただ冷や汗をかきながらそんな彼女を見つめていた。


「ふっ!たかが剣の一本で!」 


 そう叫んだリンの鞭がうなりをあげてロボを襲う。


「舐めるな!」 


 ランがそう叫んで目の前のレバーを下げる。ロボの頭部を襲おうとした鞭は空を切った。そしてロボの剣が鞭を切り落とした。


「なっ、何!」 


 巨大メイリーン将軍はうろたえる。再び剣を握りポーズをとるロボ。


「それじゃあみんな行くよ!」 


 小夏は笑顔でそう叫んだ。


 誠のバイザーの下に台詞が映し出される。


『マジ?これ読むの?』 


 その台詞に焦る誠。だが高らかに最終決戦を告げる音楽が流れる。嫌でも盛り上がる雰囲気。そして誠は見栄を捨てた。


「世の中に!」 


 誠はとりあえず恥を捨てて叫んだ。


「悪の栄えた!」 


 ランはすっかりノリノリだった。


「たとえなし!」 


 やけなのがすぐに分かるかなめ。


「今!」 


 短い台詞に明らかに不満なサラ。


「必殺!」 


 一番力の入っている小夏の雄たけび。


『一刀!真剣!瞬殺斬!』 


 その言葉とともにロボは明らかにばればれの避ければいいじゃないかと誠にも見える太刀筋で、目の前の巨大メイリーン将軍を一刀両断にした。


『グモー!!機械帝国万歳!!』 


 そう叫んで巨大メイリーン将軍は大爆発する。そしてロボは決めポーズを見せる。


『はい!お疲れ!』 


 アメリアのOKが出てほっと胸をなでおろす小夏達。誠も安心してシーンが終わるのを確認するとバイザー付きのヘルメットを外した。


 そこに香ばしいにおいが立ち込めていることを誠はすぐに悟った。


「ずるい!ずっこい!」 


 食べ物のことなら彼女と言う小夏が叫んでいる声が聞こえる。上体を起こした誠は嵯峨と春子、そしてなぜか特務公安隊の隊長、安城秀美までがどんぶりを抱えて誠達を見つめている光景に出くわした。


「なんだ、これが良いのか?」 


 そう言って安城がどんぶりの中の食べかけのアナゴのてんぷらを見せ付ける。


「あ!それ佃屋のでしょ!」 


 小夏がそのきらびやかな赤い柿右衛門風のどんぶりを指差した。


「いいじゃないの、さっき春子さんのお弁当散々食べてたでしょ?」 


 食べ終わったどんぶりを手にアメリアがそう言うが、小夏はじりじりとアメリアに近づいていく。


「へえ、餌付けかよ。ずいぶんな熱の入れようだねー、安城少佐」 


 ランは明らかに安城に敵意を込めてにらみつける。その先では余裕の表情で春子とランを見回しながらアナゴを食べる安城の姿があった。


「餌付け?何のこと?」 


 涼やかな印象がある美女、安城がとぼけたのが気に入らないと言うようにランは今度は春子を見つめた。


「ああ、これね。安城さんの差し入れ。他にもあるわよ」 


 そう言って奥に寄せてあったテーブルの上のどんぶりモノを指差す春子。


「やったー、じゃあカツどんある?」 


「オメエさっきもとんかつ食べてたじゃねえか!」 


 かなめの忠告を無視してサラはラップのかけてあるどんぶりを覗いて回る。


「サラの姐御!親子丼しかないですよ」 


 小夏はそう言って自分の分のどんぶりを確保する。サラも仕方ないと言うように小夏から親子丼のどんぶりを受け取る。


「アタシは天丼で、神前は?」 


 かなめに声をかけられて誠は我に返った。


「じゃあ僕も親子丼で」 


「残念!私が最後の親子丼を食べるのよ!」 


 アメリアはかなめが手を伸ばしたどんぶりを奪い取る。にらみつけるかなめだが、アメリアは気にせずラップをはがすと口にくわえていた箸をどんぶりに突き刺す。


「テメエは餓鬼か!」 


 呆れながらアメリアを見ていたかなめだが、サラやパーラ、マリア。そしていつの間にか来ていた島田と言った面々がどんぶりを取っていくのを見て仕方なく適当に一つのどんぶりを確保した。


「これで良いだろ?」 


 誠が受け取ったどんぶりは深川丼だった。


「ああ、僕は貝が大好物ですから!」 


 そう言って誠はうれしそうなふりをしてラップをはがす。


「嘘つくなよ、この前アサリ汁飲まなかった奴が……」 


 低い声でかなめがにらんでくるので誠は静かに箸を置く。


「じゃあ、私のかき揚げ丼と交換するか?」 


 誠の後ろに立っていたカウラの言葉に誠は自分のどんぶりを差し出した。


「俺のは?」 


 新藤が窓際で叫ぶ。両手にどんぶりを持っていた小夏がちょこちょことかけていって新藤にどんぶりを差し出した。


「……安城にしては良い差し入れだな」 


 喜ぶ部下達を見て複雑な表情でランがつぶやく。誠はその様子を見てアメリアを見つめた。


 アメリアはそのまま誠の袖を引き、入り口の嵯峨達から遠い場所で誠の耳に囁いた。


「あのね、安城さんもランちゃんも隊長に気があるのよ」 


 そう言われてみれば安城とランが微妙な距離を取っているのも、春子とばかり話す嵯峨を時々のぞき見るのも納得できた。

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