突然クライマックス
第55話 決戦
傷だらけのランはよたよたと採石場を歩く。その足取りは重いものだった。
わき腹を押さえる左手が光っているのは治療魔法を使っているからのように見える。それでもぽたぽたと開いた傷口から血が流れ続ける。傷ついた身体では十分な魔力を発生させることが出来ないらしく誠もはらはらしながら見つめていた。
『でもやっぱり採石場か。ここはお約束だな』
自分の案の戦隊モノチックな展開に誠は手に汗握る。ランの周りにはすぐに不気味な黒いタイツに骨をかたどるような扮装の手下が現れる。
『ちょっとー!アメリアさんベタ過ぎ!ちょっとベタ過ぎ!』
そんな誠の声も届かずなぜか肉弾戦をランに挑む手下達。小さいとはいえランも教導隊の隊長をしていただけのことはあり、得意の剣を使うまでもなくあっという間に追い散らされる。
しかし、採石場を降りきったところでまた次々と手下が現れる。
「きりがないな。これがアタシの運命と言う奴か」
そう言いながらランは剣を抜く。傷ついた体は明らかに切れがなく、振り下ろされるたびに剣は空を切った。手下達は今度は一撃、一撃と致命傷にならない打撃をランに繰り出す。全身に切り傷が増え、剣の切っ先もさらに鈍ってくる。
「そこまでよ!」
突然の叫び声に手下達は採石場の反対側に目を向ける。
そこには二人の少女と一人の女性の姿があった。
「行くわよ!」
そう言うと石の上に立っていた三人が飛び降りる。
まずは小夏。瞬時にピンク色に画面が占められ、すぐに手にした杖のミニチュアが巨大化する。
「友情、愛、そして真実の為に!私は誓う!」
『あのー、また変身呪文が違うんですけど』
脳内で突っ込みを入れる誠の視界の中一杯に回転を始めた小夏の服がはじけとび、白と青の魔法少女のコスチュームが現れる。すぐにサラの変身シーンに切り替わる画面。同じように今度はオレンジの光の中、くるくる回り黒とオレンジの魔法少女のコスチュームがサラを包む。
『まさか……』
誠がそう思ったときは遅かった。
かなめのぴちぴちのレザースーツが黄色い光の中ではじけとび、魔法使いと言うより魔女と言うような胸をわずかに覆う金属製のブラジャーとぎりぎりのパンツ。そしてきらびやかな金色のマントを翻すキャプテンシルバーの姿が現れた。
『違うよ!シルバーじゃないよゴールドだよ!それ』
そんな誠の心の声を無視して三人がランを襲う手下の前に現れる。手下達は突然現れた新手に混乱して敵を認識できないでいた。
「こいつ等の処理速度では私達の技の特定はできないはずだ!行くぞ!」
そう叫ぶかなめが先頭を切って敵に切り込む。彼女の振るう鞭で手下達は次々と倒される。小夏も手にした鎌で次々と手下を倒していく。予想したとおり、どう見ても銃器を使えばかなめ達を倒せるだろうという状況なのに手下達はただひたすら白兵戦を仕掛けて吹き飛ばされる。
『やっぱり血を見るとまずいだろうからな』
そう安心してみていた誠の視界をピンク色の爆発が多い尽くす。
「ランちゃん!助けに来たよ!」
小夏は笑顔で爆発系の魔法を使って見せた。
『あのー!それまずいと思うんですけど!完全にクバルカ中佐巻き込んでるように見えますけど!』
しかし、爆発の煙が収まると一人無事に爆発を避けるためにマントに隠れていたランの姿だけがあった。
ランはそのまま力尽きたように倒れこもうとする。静かに小夏はそれを支える。
「ふっ。アタシが敵に情けをかけられるとはな……」
ランはそう言うと手にした銀色に光る剣をそばに来たかなめに手渡す。
「アタシが生きて貴様達の手に渡れば、アタシを慕ってくれた『赤色の魔法国』の民は皆殺しにされる。これで止めを……」
「馬鹿!」
そう言うと小夏はランに平手をかました。明らかに驚いたような表情のランは瀕死の人物の顔色ではなかった。
「ランちゃんが死んだらその人達は永遠に機械帝国の奴隷なんだよ!間違っている世界、間違った力。生きているからその間違いを正せるんだよ!」
熱い手でランの剣を握る手を引っ張って小夏は自分の胸に当てる。
「どう、私も生きてるでしょ。だからこうしてランちゃんに会えたの。だから機械帝国を相手に戦えるの。だから死ぬなんて……殺してくれなんて言わないでよ!」
そんな小夏を見てかなめは微笑むと剣をランに返した。
「そう言うわけだ。貴様に戦士の誇りがあるならこの剣を取れ。無いならもう一度機械帝国の黒太子カヌーバの前に行って殺してもらって来い」
かなめはランの視線を感じながら鞭を握り締めた。
「キャプテンシルバー、敵のアジトは分かるのか?」
殊勝に小夏がかなめを見上げる姿が誠には非常に新鮮に見えた。
「ああ、この先の廃鉱山の中に黒太子の秘密基地があるはずだ」
そう言うと歩き出そうとしたかなめだが、地鳴りのようなものが採石場全体を覆った。
「なに!なんなの」
ランに治療魔術をかけていた小夏が当たりを見回す。採石場の不安定な石は崩れ落ち、森の中から動物達が先を争って逃げ出す。
「私も分からない。何が起こったと……!」
かなめの目の前には信じられない光景が広がっていた。
そこには巨大な女性の像が廃鉱山のあった場所に立っているのが見えた。正確に言えば立っていたというよりも廃鉱山を壊して姿を現したという状況だった。
『へー、あの設定がこう生きてくるのか』
興味深げに誠はより機械的なキャラと言うことでアメリアに頼まれたデザインの巨大化した機械魔女メイリーン将軍こと渡辺リン大尉の姿を見つめた。
「これは最後の切り札だが、それを使わせた貴様等には敬意を表するぞ!」
巨大になった分良く響く声でリンが叫んだ。
「巨大化魔法を使うか……。あの魔法はを使えばゆくゆくは自滅するというのに」
そう言ってかなめはこぶしを握り締める。
「自滅?」
サラがかなめことキャプテンシルバーを見上げる。
「ああ、我々機械魔女の体の構成を魔法で組み替えることで巨大化する術だ。だが、これを使えば元には戻れないだけではなく、そのまま魔術に飲み込まれ人格さえ破壊されることになる」
そう言ったかなめの視線の先でリンは意味も無く山を崩して暴れまわる。
『誠ちゃん出番よ!ここからの台本を表示するから』
アメリアが淡々とそう言うと画面の下に文字列が流れ始める。
『無茶ですよ!こんなのすぐ……』
媚を売るようなアメリアの声に頭を抱えながら誠は自分の出番である場面へと画面を切り替えた。
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