第11話 性癖
「ああ、それじゃあ隣の騒動止めに行かないといけないんで!」
菰田との交渉が成立したアメリアは立ち上がると誠の手を引いて管理部の部屋を出た。
廊下に出たアメリアと誠の前にぼんやりとたたずむのはかえでだった。そのしょんぼりとした瞳がアメリアと誠に注がれる。
「また僕だけハブられるんですか」
「そんなこと無いわよ……ねえ」
アメリアはそう言って天井を見つめてとぼけているかなめに目をやる。
「おう!ご苦労さん」
明石はそう言いながら二人を迎えた。ひしゃげた椅子が一つ、その隣には折れた竹刀が放置されている。
「ランちゃんまたやったの?」
「おい、アメリア。上官にちゃん付けか?」
ランが視線をアメリアに向ける。
「いえいえ、中佐殿の判断は実に的確であります」
完全に舐めきった口調でランをからかうアメリアだがランはそうやすやすと乗るわけも無く、すぐに視線を端末の画面に移した。
「楽しみですね!どれに決まるか!」
ニコニコ笑いながらはアンはアンケート用紙の裏に絵を書いている。それはなぜか馬の絵だった。
「私はどれでもいいよ。でもさあ、誰が脚本書くんですか……クラウゼ少佐ですか?」
天井を眺めていたリンの視線がアメリアに向かう。明らかにアメリアは自分が書くんだ!と言うように胸をはっていた。
「僕は出ないぞ」
ぼそりとつぶやくのはかえでだった。
「えー!何に決まってもかえでちゃんが出てくれないと困っちゃうじゃない」
第三小隊の机の一群でポツリとつぶやいたかえでにアメリアがすがり付いていく。アメリアに身体を擦り付けられるとかえでは顔を赤らめて下を向いてしまう。
「困るもなにもこれは職務とは関係が無いじゃないか!」
「それはちゃうやろ?」
そう言ったのは黙って静観を決め込んでいた明石だった。こういうことには口を出さないだろうと言う上官の一言にかえでが顔を上げて明石を見る。
「何も暴れることだけがウチ等の仕事やないで。日ごろお世話になっとる町の方々に感謝してみせる。これも重要な任務や」
「そうそう、それもお仕事なんだよー」
風船ガムを膨らませながらランが投げやりに言葉を継いだ。
「ですが、僕は……」
「大丈夫!どのシリーズでも私がかえでちゃんのかっこよく見える見せ場を作ってあげるから。そしたらかなめちゃんも喜ぶわよ!」
「喜ばねえよ!」
かなめが半開きの扉から顔を出す。だが次の瞬間にはその額にランの投げたボールペンがぶつかった。
「うるせー黙ってろ」
しぶしぶかなめは顔を引っ込めて、足で器用に扉を閉めた。だが一人、まとわり付くアメリアの身体をがっちりと握り締めているかえでだけが晴れやかな表情で何も無い中空を見つめていた。
「お姉さま!かなめお姉さま!僕はやりますよ!お姉さま!」
まず誠が、続いてラン、カウラ、明石。次々と恍惚の表情を浮かべるかえでに気づく。
「大丈夫か?日野?」
「かえで様……」
明石が不思議そうに恍惚の表情のかえでに声を掛けた。リンは心配そうにかえでを見上げる。
「やります!なんでも!はい!」
かえではそう言うとアメリアを抱擁した。
「あ!えー!ちょっと!離してってば!」
抱きしめられて顔を寄せてくるかえでを避けながらアメリアが叫ぶが、彼女を助ける趣味人は部隊にいないことを誠は知っていた。部屋の中の一同は黙ってそのまま押し倒されそうになるアメリアに心で手を合わせていた。
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