2-11話



◇◆◇◆◇



 妖怪カジノを出た狛夜は、エンジンのかかったミニバンに乗り込んだ。

 待たせている間に、華と豆太郎はいつの間にか肩を寄せ合って眠っていた。


「……君は優しいね」


 妖怪が怖くてすぐ涙目になるくせに、櫓から落ちた際には豆太郎をかばった。

 華にとって己は最も大切なものではないのだろう。

 翠晶の持ち主にふさわしい献身的な娘だ。


「若頭、愉しそうですね」


 というパンチパーマの側近に言われて窓ガラスを見ると、きょうしょうする細い面が映っていた。作り笑いでない笑みを浮かべたのは、いつ以来だろう。


「愉しいか……。そうだね、すごく愉しいよ」


 次期組長の座を得るには、この娘に選ばれなくてはならない。

 しかし狛夜は、跡目を継ぐためではなく、ただただ華を求めていた。


(君をどうしても手に入れたい)


 甘やかしてろうらくし、適度に飢えさせて渇望させるのは、九尾の狐の十八番おはこ

 他の妖怪にはできない芸当である。

 組長に特別に目をかけられている鬼夜叉は、特に苦手なはずだ。

 愛と財に飢えた華がこの手に落ちるのは時間の問題だと、狛夜はほくそ笑む。



『──狛夜。わたしが好きなのは、あなたじゃないのよ』



 遠い昔に浴びせかけられた言葉が、記憶の底から響いてくる。

 心から愛していたのに、〝彼女〟は狛夜ではなく別の男を選んだ。


 なぜ? どうして?


 選ばれなかった狛夜の胸は、じくじくとんだように痛んだ。

 だが、長い歳月を生きても消えなかった恋心は、華と出会って再び熱を持った。

 狛夜の手を離して遠くにいった彼女が、同じ姿に生まれ変わって戻ってきたのだ。

 華と出会った時に、そう直感した。

 それなら、今度こそ結ばれて永遠に一緒にいよう。

 他の男になんて絶対に渡さない。


「もう二度と離さないよ。僕の──」


 懐かしい名前を呼びながら、狛夜は、眠る華の頭をうっとりと撫でたのだった。


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あやかし極道「鬼灯組」に嫁入りします 来栖千依/富士見L文庫 @lbunko

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