2-3話
(考えるのは
「そっか。だから、わたしを次期組長の嫁にとお考えになったんですね……」
鬼灯組の次期組長と結婚すれば、華は必然的に生涯この屋敷で暮らすことになる。
そうすれば鬼灯組は、安倍晴明の子孫と彼らが受け継ぐ宝物を見守るという役目を果たせる。
(どうして組員たちが反対しているのに強行したのか、気になってたんだよね)
玉璽を見つけたら、華の役目は終了のはずだった。
そのまま組と手を切りたい華と、用無しになった華は部外者だという組員の気持ちは、結果的には合致している。
それなのに、組長が玉璽捜しの後に華を嫁入りさせると決めたのは、組の本来の約束事を忠実に守るためだったのだ。
組長としてその判断は正しいと思うが、勝手に人生を決められた華は複雑な気持ちになる。そもそも、自分が安倍晴明の子孫で鬼灯組と深い関わりがあるなんて、まったく知らなかったのだから。
組長は、早々に朝食を平らげて、緑茶の入った湯飲みに手をつけた。
「さて、次期組長を選んでいいと言ったが、跡目を譲るに足る妖怪は二名だけ。まずは、狛夜」
狛夜は、先ほど華に抱きついてきた、白スーツの美丈夫だ。
人並み外れた
「此奴は、鬼灯組で若頭を務めている。ヒラの組員や部屋住みとも上手くやっていて、特に獣の化生である
「あの、寡聞で申し訳ありません……若頭というのは何ですか?」
生まれも育ちも一般人の華には、聞き慣れない言葉だ。
「若頭は、組に所属する妖怪をまとめる役のことだ。組長に次ぐ鬼灯組ナンバー2の地位にある。そのため狛夜は
「そこは、人間とあまり変わらないんですね」
派閥を掲げての駆け引きは政治の世界でたびたび見られるが、妖怪も同じらしい。
「もう一名は、鬼夜叉の漆季」
名前を聞いた瞬間、華は、鮮烈な赤い瞳を思い出してドキッとした。
「漆季は、儂の一子分である直参の構成員だ。他の組員には任せられない汚れ仕事を頼んでおる。どんな任務も完璧にやり遂げる男でな。情に流されず標的を始末することにかけて右に出る妖怪はいない。鬼灯組において最強と言えるだろう」
九尾の狐と鬼夜叉。それが、この鬼灯組において有力なツートップのようだ。
「組長さんは、有望と最強のどちらに跡目を譲るかで迷っておられるんですね」
「左様」
「えっと、嫁入りは別として、わたしが決める必要はないのではありませんか? お二人のことは組長さんが一番良く知っていらっしゃるはずですし、時間をかけて納得できる跡目を選ぶべきでは──」
その時、ゴホッと組長が
口元に当てた手の平には、赤い血がべったりとついている。
「大丈夫ですか!」
慌てて駆け寄った華を、組長は片手で制した。
「情けないものだな……。儂が早く跡目を決めてしまいたいのは、これがあるからだ」
鬼灯丸が持ってきた懐紙で血をぬぐった組長は、息を整えて話し出した。
「儂は玉璽を盗んだ犯人に
組長が背を撫でると、鬼灯丸は大口を開けてあくびをした。
こんなにも恐ろしく、大勢の妖怪にかしずかれる者ですら、死からは逃れられない。
華の心に、胸ふたがる影が差した。
「狛夜も漆季も、あやかし極道を率いる才能はある。だが、どちらも決めかねる欠点を持っておる。だから嬢ちゃんに見極めてほしいのだ。嫁入りすれば、嬢ちゃんは鬼灯組とは
そうだろうか。組長の嫁入り宣言の後、大広間の雰囲気は最悪だった。
組員たちは、「今さら安倍晴明の子孫なんか見守るか」とか「おれらがどんだけ人間に辛酸を
(古くから組にいる組長さんは、初代の約束事にも忠実なんだろうけれど……。安倍晴明の子孫を見失った後に入った組員たちからしたら、昔話みたいなものだよね)
こんな状況では、華が誰を選んでも受け入れられないに違いない。
それに組長も、華が安倍晴明の子孫だから尊重しようとしているに過ぎないだろう。
ここは組員のためにも、何より自分のためにも一線を引かなければ、お互いに不満が募っていく気がした。
「組長さん、お願いがございます」
華は、畳に手をついて深く頭を下げた。
「事情はわかりました。次期組長を選ぶお手伝いはします。ただ、嫁入り話について、どうか考え直していただけないでしょうか?」
「……まだ言うか」
組長は、たるんだ
「ひっ」
その眼光は、先ほど目にした二人の気迫より恐ろしかった。
底の知れない威圧感は、岩のように重く、ガムテープより厚く華の口を
「これは決定事項。それに、鬼灯組への嫁入りは、嬢ちゃんにも利のある話だ」
組長の一声で、朝食はお開きになった。
結局、華は食事をご
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