2000字以内の短編集
てんとら
宝石の涙
むかしむかし、一人の少女は塔の中に閉じ込められていました。
なんでもその娘は、泣くと宝石がこぼれ落ちるようで、毎日悪人に叩かれる、蹴られる、煙草の吸殻を押し付けられる等をされて、瞳からこぼれ落ちる宝石を悪人は売っていました。
もちろん彼女は何度も塔から逃げ出そうとしましたが、悪人に見つかる度にひどい拷問を受けるため、すっかり逃亡意欲を失いました。
一日一食、お風呂は数日に一回、自由に歩ける時はトイレの時だけ、外に出してもらうこともなかったので、彼女は目に見えて衰弱していきました。
そこで彼女が死ぬことを恐れた悪人は彼女の願いを聞いてやることにしました。解放するという約束は無しで。
「ならば私は友達が欲しいです」
「私と同じくらいの歳の子がいれば絶対に逃げ出そうとはしません」
悪人は拒否をしようと思いましたが、彼女のいつにも見ない力強い瞳を圧倒され何も言えませんでした。
***
それから数日が経ち、いきなり部屋のドアが開きました。
「おい!約束の子を連れてきたぞ。これで少しでも俺に貢献するんだな!」
ハハハ!と笑いながら悪人は部屋に男の子を置いていき、どこかに行きました。
「あの、ごめんね、私が同い年くらいの子と友達になりたいって言ったばかりに君が連れてこられちゃった…」
「ううん!気にしないで、僕は元々奴隷の身分だったから、こうやって人と話すのがとても嬉しいの!」
ほらこれを見てと男の子が言い、首元を見せてもらうと番号が書いてありました。それは焼かれたようでした。
本人はケロッとしていましたが、その光景を想像するととても痛々しく感じました。
***
友達が出来てから女の子は泣くのを我慢するようになりました。
どんなに痛くても辛くても、あの子がいるだけでいつも耐えられました。
「くそ、なんでまだ泣かねぇんだよ。あいつを連れて来てから食費が2倍になったのに、宝石を出さねえとかお前の価値がねえんだよ!」
彼女は拷問部屋から部屋に思いっきり投げ飛ばされました。男の子が彼女の傍に駆け寄ってきてすぐに心配してくれます。
「大丈夫だって、いつものことだから慣れてるの。私はね、あなたがいるから毎日耐えられるの。だから楽しいお話をいっぱいしましょ」
そういうと彼は少し笑顔を浮かべて、たくさん話をしてくれました。
「なんであいつを連れて来てから泣かねえんだ!」
悪人は苛立ちながら部屋のものを壊していきます。
部屋の額縁に手をかけた時、彼は動きを止めました。
「あ、そうだ、」
彼は何かを閃いて、部屋の中で一人笑みを浮かべていました。
***
それから拷問はピタリと止みました。
その間に2人はとても仲良くなりました。好きなご飯。好きな色。好きな動物など今ではお互いの好みを把握するくらいには。
彼女は意を決して、長年考えていた脱出計画を彼に話しました。少年は同意をして、その日の夜に決行することにしました。
***
ついに夜がやってきました。閉じこめられている塔の周りは森で囲まれているため、普段色々な動物や虫の鳴き声が聞こえてきますが、この日の夜は不気味なくらい静かでした。
小さな2人組は、ついに脱走を始めました。少女が何度も脱走を試みていたお陰で、迷うことも無く玄関に一直線に進んでいきます。
あと少し、あと少し、そう思いながら玄関に向かって走っていくと、パン!と大きな音がなりました。
何事かと思い、後ろを振り向くと少年が血を流して倒れていました。
「アハハ!気分はどうだい?嬢ちゃん」
なんと悪人は猟銃で彼を撃ち抜いていたのです。
少女は悲しみから涙が止まらなくなりました。気付けば床にはたくさんの宝石で覆い尽くされていました。
泣き止まない彼女の頬に触れたのは少年の小さな手でした。
「ほら、今なら玄関が目の前だから早く逃げれるよ」
置いていけない、そう彼女は言いましたが、少年は言いました。
「僕は君に幸せになって欲しいんだ」
そう笑う彼に彼女は、泣くのを我慢して森に向かって走っていきました。
悪人は逃げようとする少女の足に向かって銃を撃とうとしましたが、少年が最後の力を振り絞って悪人に飛びかかりました。
もう一度少年は悪人に撃たれて、小さな命が一つ無くなりました。
***
それから彼女は何時間も森を走り続け、街に着きました。その頃には朝日が昇ってきていました。
あまりにも細く、ボロボロの布切れを着ていた少女を見て驚いた老人夫婦が彼女に温かいご飯と服を用意してくれました。
今ではその老人夫婦と仲良く暮らしているそうです。
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