第2話 出会い

『キミの推しを神の座へ!数多のデミゴッドの中からキミの推しを探せ!仲間と協力しライバルを蹴散らしコミュニティを強化!アップデートを重ねるごとにキミの推しは神に近づいていくぞ⭐︎ ウエポンズゲート!好評発売中! 〜バーチャルGOD〜』


 端末にコマーシャルが流れる。創設から瞬く間に世界有数の大企業になったバーチャルGODという会社から発売された、ウエポンズゲートというゲームのCMだ。


 ちまたで噂どころか世界中で人気を博している。世界有数の大企業が本気を出したその作り込みは凄まじく、やっている友人いわく「もうひとつの現実」と言えるほどらしい。


 僕もゲームは大好きだ。友人にそんなことを言われたらいてもたってもいられずに購入するくらいには。


 CMを見て気持ちを高めているうちにリンクの準備ができたようだ。よし、いくか!


「リンク:ウエポンズゲート!」

『リンクスタート:転送:ウエポンズゲート』


 どこにでもあるアパートの一室にを残し、僕の存在がゲームの世界へと転送されていく。どのゲームでもそうだがこの文字の羅列に転送される時間は本当に気持ちいい。本来の自分に戻れるというか、ファンタジー小説では母親の胎内と表現されるこの感覚が僕は好きだ。


 そんなことを考えているとあっという間にゲームの世界に辿り着く。降り立った場所は荒野。一面の荒野である。


「えっ」


 右を見ると手に手にメイスや斧、大楯を持ち白銀に煌めくフルプレートメイルをまとった一団が、左を向くとモスグリーンの外套を着て弓を構えたり炎を出したり消したりする集団が見える。どちらも千や二千ではない万単位の人数がいる。


「ちょっ、と待ってくれよ。チュートリアルじゃないよな?」


 両陣営の最奥から光り輝くオーラをまとった森に住んでいそうな女性が歩み出てくる。


「森は全部燃やす!!いくぞみんな!あたしに続けー!」

 オレンジ色のオーラを纏った女性が両腕をクロスさせると両の手の平から炎を生み出し腕を開く。


「これは愛、愛なんだ。そう、愛の試練!!団員さん!団長に続け〜!」

 白いオーラを纏う騎士のような女性が腰のメイスを抜いて天に掲げる。


「「「「「「オオオオーーー!!!」」」」」」


 オーラを纏った女性同士がお互いに駆け出すと、少し間をおいてそれぞれの背後の戦士たちが大地を揺るがすような雄叫びをあげ続く。


 つまり、こっちにくる!!!


「キミキミぃ〜、こっちこっち!」


 呆然としながら右と左から迫る危機を見比べていると突然後ろえりをつかまれ尋常ではない力で引っ張られる。


「ひぃぁああああ!?」


 まったく抵抗できず引きずられるどころか宙をぶらぶらする自分の体を見下ろしながら食い込んでくる襟ののどもとを必死に抑える。


 あっという間に遠くに見えるようになった一団同士がぶつかる。森を思わせる一団が炎や弓矢を放ちフルプレートメイルが盾を放り捨てて突っ込んでいく。オイ!?なんで盾捨てたよ!?


「ここまでくれば大丈夫か、もしも〜し?キミぃ?大丈夫?」

「はっ!」


 呆気に取られていたがハッとして慌てて振り向くと、小舟に乗った女性がこちらを覗き込んでいる。どうやら、この女性が僕を助けてくれたようだ。


「あ、ありがとうございます!おかげ様で無事です!大丈夫です!」

「なーらよかったよかった。見た感じこのゲーム始めたばっかり?」

「そ、そうなんです。ステ振りもまだしていなくて」


 そう言うと女性は楽しそうに笑っていろいろ教えてくれる。


「あはっ、本当にニュービー君だったか。実はこのゲームにステータス振りはないのだよ。」

「えっ、じゃあどうやって」

「って思うでしょ?それはねー、『現実世界で鍛えること』とこの世界でレベルを上げること!ちゃんとレベルアップで強くなれるよ。レベルは職業ジョブごと、ついてる職業と自分の行動で上がるステータスは変動するよ」


 なるほど?


「ちなみに職業って?」

「それはね、キミがデミゴッドに仕えることでつくよ。」

「で、デミゴッド?」

「そう、デミゴッド。まぁキミたちでいうところの推し?かな?ほら、あれ見てみ」


 女性が指差す先には先程の女性たちとその一団。


「あのオレンジのほうがバーニング・エルフ。あの子に仕えてるのがファイアエルフ」

「ファイアエルフ、、」


 つまり火属性のエルフってことか?


「んであっちの白いのがマッスル・プラチナ。彼女の一団が聖騎士だね」

「聖騎士!」


 急にめっちゃ職業ジョブっぽい!!


「ちなみにファイアエルフは森特攻で、聖騎士は何かを守る時に補正がつくよ」

「なるほど、、えっ、じゃああの色のついたオーラのある2人はデミゴッドってやつなんですか?」

「そう、ちなみにあたしも」


 そういうと女性から光り輝く赤いオーラがたつ。


「デミゴッド!トレジャー・パイレーツ!」


 なんと表現していいかわからない不思議なポーズとともに名乗りを受けてしまった。


 〜〜〜


「それでその、トレジャーさんはなんでこんなところに?パイレーツなら海にいるんじゃないんですか?」

「あたしのことは船長と呼べ!!」

「えぇ、、船長は、どうしてこんなところに?」


 急にハイテンションで叱りつけてくるトレジャーさんに若干引きつつ質問を繰り返す。

 トレジャーは船長と呼ばれるとふふん!と胸をそらし気持ちよさそうに答えてくれた。


「決まっているでしょう、船長はトレジャー・パイレーツ!当然お宝を探しにきたの」

「お宝ぁ?こんな荒野にですか?」

「そう!船長のセンサーにビンビン、、ビンビンにきたからね!」

「で?どうだったんです?見つかりましたか、お宝」


 やや呆れつつ尋ねるとトレジャーさんは誇らしげに頷き僕の胸に人差し指をトン、とつきたてる。


「もちろん!もう見つけたよ。『キミという名のお宝を』ね、、?」


 やたらかっこいいウィスパーボイスで囁かれてドキドキする。えっ、、やだかっこいぃ。


「わかってる。わかってるぞ?キミ、船長に仕えたくなっちゃったんだろ?」

「いえ、そんなことはないですが」

「なんだと!?」

「ふふっ、冗談ですよ。船長が男ならころっといったかもしれませんね?」

「あぁ、なんだ。キミはソッチか」


 そういうとトレジャーさんが赤い光に包まれる。あまりの眩しさに手で顔を覆って目をつぶる。光が収まったのを感じて目を開くとそこには背が伸びて爽やかなイケメンになったトレジャーさんがいた。


「えっ、なん、なん!?」


 トレジャーさんは驚きのけぞる僕に壁ドンのポーズで迫ると片目をつむって耳元で囁いてくる。


「オレくらいのデミゴッドになるとこれくらいできて当たり前だろぉ?で?どうなんだよ?好きになっちゃった?好きになっちゃったろ?ん?」

「んんっ」


 どうしよう、お耳とけちゃいそう、、悔しいけど、悔しいけどかっこいい!!えっ、かっこいいんだけど!!?頭がぼーっとして嘘なんてつけそうにない。茹蛸ゆでだこのように赤くなった顔でトレジャーさんを見上げ


「しゅ、しゅきでしゅっ」


 サ行が!サ行がバグってりゅう!


「ふふっ、、じゃあ?いいよな?」

「は、はい、、」


 目を閉じてそう答えるとトレジャーさんは僕の頭にそっと手を置いた。僕の体が赤いオーラに包まれる。目を開けると女性に戻ってしまったトレジャーさんが屈託ない笑顔で僕を見つめている。


「あぁー戻っちゃったぁ」

「ふふ、サービスタイムは終わりだよ。では改めて、キミの神からのチュートリアルを受けたまえ!」

「はい!」


 トレジャーさんに教わりながらステータス画面をだす。あっ職業欄「パイレーツ」になってる。

 補正は撤退時の身体能力200%アップ?えぇー?


「キミぃ!何を言いたいかはわかる!だがねぇ、このゲームの醍醐味は自分の推しに仕えること、いいかい?『大好き』な『自分の神』に仕えることだよ?補正なんてオマケオマケ」

「大好きな自分の神、ねぇ」

「それより、あそこでぶつかってる両陣営の最奥にモノリスが見えるだろう?アレはお互いに本気で戦う『決戦』モードの時にでる『リスポーンモノリス』なんだけど、その名の通りやられたらあそこからすぐ復活するからね」

「えっ、それって!太古の昔にあったっていう戦争そのままじゃないですか!」


 そう、僕たちの世界ではその昔戦争があった。多くの種族が殺し合い、倒されては復活し『あいつオレを殺しやがった!殺してやる』という負の連鎖で長い間戦い合ったのだ。でも、僕たちは殺してもすぐ復活するけど街は壊れたまま。食糧もなくなったらなくなったままだからみんなすごくひもじい思いをしたという。なにより4.5回殺し合うとだいたいの場合相手も殺してスッキリするし、あいつらのここすごいよな!みたいなリスペクトが芽生えるものらしい。あと普通に餓死はつらい。


 そんな歴史を繰り返し、もうずいぶん前に不毛なことはやめて最初から仲良くしようね!みたいな風潮になっていた。


「まぁね?でもさ、現実世界と違ってここには壊れて困る街もなくなって困る食糧もない。いや、どっちもあるにはあるけど私たちデミゴッドはなくても困らないしキミたちは現実世界に戻ればいいわけじゃん?ならゲームとして楽しまないと!」

「そう、なのかぁ?」

「そうなの!お互いにぶつかり合って、産まれるリスペクト!悪いものじゃあないよ?邪悪なヤツは出禁にできるし」

「そう聞くと悪くないのかも」


 一応の納得をしてみせるとトレジャーさんは説明を再開してくれる。


「それでね?この『決戦』なんだけど、シチュエーションや仕えるデミゴッドによって勝利条件が違うんだ。」

「勝利条件が?」

「そう、今回でいうとバーニングは聖騎士たちの後ろの森を燃やし尽くすこと。マッスルは逆に森を守り切ること」

「森めっちゃ向こうですよ?エルフさん有利っすね」

「チッチッチ、実はこの戦いは何度も繰り返されていてね。何を隠そうこの荒野、元々森なんだよね。」

「ええええ!?ここが元々森?うっそだろ...」


 周囲をキョロキョロ見る。見渡す限り広がる荒野。さっきいってた森はたしかに聖騎士たちの後ろにちょこんとあるがこの辺は完全にフロンティアとばかりに荒野が広がっている。


「まぁそういうことで、マッスルのやつは連戦連敗。負け続きなんだよ」

「どうしてそんなことに、マッスルさんも聖騎士さんもあんなに強そうなのに」

「脳筋だから」


 えっ、聞き間違いかな?と言う顔でトレジャーさんを見る。


「キミのお耳は正常だよ。あいつらは脳筋なんだ。遠距離攻撃されてるんだから盾で防げはいいのに走るのに邪魔だから捨てたりするし、それにつまずいて後続がこけたりする。しかもなんか攻撃受けるの大好きみたいでさぁ、なんなら鎧も脱ぐんだよね、自分から」

「えぇ、、なにそれ」

「まぁそれでも普通に戦えるあたりあいつらもちゃんと強いんだけどさ、身も蓋もないことをいうとマッスルはバーニングが大好きなんだよな」

「大好き?」

「そう、大好き。当然トドメなんてさせない」


 言われてバーニングさんとマッスルさんの戦いを見てみる。バーニングさんは接近されると飛び退いて炎を放ったりしているが、マッスルさんは炎を打ち払うことと近づくことしかしていない。


「ファイアエルフと聖騎士は普通に戦ってるけどまぁ実質じゃれあいみたいなもんよ。ちなみにあたし、トレジャーさんの勝利条件は、、」

「勝利条件は?」

「手に入れることか奪い返すこと、かな?」

「どういうことっスか?」

「シチュエーションにめっちゃ左右されるってこと。簡単に言うと、お宝をゲットして逃げ切ったら勝ち!」


 なるほど、そこでこの逃げ足が生きてくるのか!


「んで、それに役立つスキルとかはレベルアップしたときとかに手に入るよ。何かしらの偉業を達成したら称号とかももらえちゃう。それといまのそのキミの服装。うんうん、一目見た時から似合うと思っていた。それも装備の更新をしたり、、その、推し変をしたりすると変わるからね?」


 言われてステータス画面の自分を見る。頭にはバンダナ、どことなく海賊っぽい半袖シャツとズボンにブーツ。おおーなかなかかっこいいじゃん!


「これ、かっこいいっスね!!シャツがちょっとピチピチだけど」

「それはキミが屈強な体してるせいだよ!うーんいい!すごくいいよキミ!イメージにピッタリ!」


 そう言いながらぺちぺちと体を叩いてくるトレジャーさん。イケメンの時にやってほしかったような、それだとドキドキしちゃうからこれでよかったような。


「実は今回、さらっと参戦してんだよね。ソロで!でもってキミというお宝を見事ゲットしたバッチリ勝利をつかんだってわけ」

「えっ僕勝利条件だったんスか?」

「あたしの勝利条件はあたしが求めたもの!難易度も何もかもあたし次第なんだぜ?」

「わーぉ」


 思っていたより大変なのかも。

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