次の目的地
妙なテンションのあか里を引き連れ、新駅舎の中に入っていく。旧駅舎のイメージがあるせいか、想像の倍以上の広さに感じた。駅構内を見回して見るが、特に変わったものは無いように思える。
「なんか広く感じないか?」
「わかるわかる!前の駅舎狭かったからね、そのせいかも。売店もあんなに大きいスペースじゃ無かったよね」
「前は売店なんて軽食と飲み物くらいしか無かったもんだけど、お土産とかもたくさん置くようになってんだな」
自分の地元の土産品を見るとこれお土産なのか?みたいな品が多々あるものだが、何となく栄えているようで嬉しくもある。だが、今の聰に取っては半分故郷、半分新天地、のような居心地の悪さを感じる場所になってしまった。
売店からは何も収穫を得られなかったので、構内をウロウロしていると展望デッキへの案内を見つけた。見晴らしの良いところから見たら何か気付きがあるかもしれない。上ってみることにした。
「わー、良い景色だねー!」
「そうだなぁ。何か意外に感動するわ。
でも、こうやって見ると知らない建物がポツポツ増えたなってくらいで、大きく変わったものは無いんだな。昨日見た風景とそんなに変わらないような気がする。…まぁ、一番大きな変化をした建物に立ってるわけだけど…」
「あはは、そうだね。私も同じかな、大きく変わったようには思えないかも」
これ以上の収穫は無いと思い、下へと降りる。すると、時刻表が目に入ったので見に行ってみた。
「結構本数増えたか?こんなにあったっけ…?」
「あったよー。これは変わらないと思う」
「そっか、普段使わないからなー。そういや、あか里って何時の電車で帰ってきたの?俺はお昼頃だったんだけど…」
「私?何時だったかな…。確か、お母さんが用事のついでに迎えに来るみたいな話だったから、私もお昼頃だったかも」
「お、共通点。こういうの見付けていけたら良いかもしれないな」
「だね!一歩前進!」
元の世界へはどれくらいの歩みが必要なのかわからないが、千里の道も一歩からよろしく、貴重な一歩を歩んだ気がした。
「他には変わったもん無さそうだし、別のところ行くか?」
「うん、良いけど…何処行くの?」
「うーん…。そう言われるとパッと出ないな。あか里はどっか思い付くところ無い?」
「私ー?私も特には………あっ!」
「なんだ?思い付いたのか?」
「うん!ねぇ、同級生のところに行ってみない?」
「同級生…?そりゃ構わないけど、そもそも地元に残ってるやつなんているのか?」
「それがいるんです!牧島未歩!覚えてる?」
牧島未歩。覚えがある。聰はそれほど親しくなかったが、高校時代あか里といつも一緒にいた親友の名前が牧島未歩だった。確か、最後に会ったのは同窓会の時だ。
「牧島ってあか里の親友の?」
「そうそう!あの子、今実家にいるんだー。この前こっちに来てからだけど、連絡があって実家の喫茶店手伝ってるから久しぶりに遊びに来ない?って言ってたの」
「喫茶店やってんだ?知らなかったな。…しっかし、普通に連絡来るんだな。そっちの方がビックリだわ」
「だよね。私も連絡来たときは一瞬ドキッとしたけど、いつも通りの未歩で肩透かしを食っちゃったよ」
こちらでも変わらず人は生活を営んでいるのだ。当然のことなのだが、違う世界から来た者に取っては何とも現実感のない出来ごとのような気がしてしまう。
自分が主人公になってゲームの NPC(ノンプレイヤーキャラクター)と触れ合っている。良くないことだが、そんな感覚に囚われそうになってしまいそうになる。
「じゃあ、その喫茶店行ってみるか」
「わかった!それじゃ、いやしのツアー再開だね!」
あか里が気分を変えるように宣言する。あか里も同じようなことを考えていたのかもしれない。これはゲームではない、現実に起きていることなのだと。聰は改めて自分に言い聞かせた。
車は駅を離れて、しばらく走る。すると、田園地帯が広がる道へと出た。車はそのままそこを突っ切るように走っていく。
聰が前に帰ったのは 5 年以上前で普段は通らない道なのもあり、知らない土地に来ているかのような気分だ。
勿論、厳密に言えば知らない土地だというのは確かなのだが。少し不安になってあか里に聞いてみた。
「喫茶店ってどこにあるの?」
「この道をしばらくしたら住宅街があるのわかる?ほら、あの辺」
あか里が指を刺した方に住宅が立ち並ぶエリアがある。喫茶店はそこにあるようだ。聰は知らない道を開拓するワクワク感と、どこに連れて行かれるのかという不安感がないまぜになる。知り合いがいる店だとはいえ、何だか落ち着かない。
そんな気分を振り払うかのようにあか里との会話を続けた。
「あか里、牧島に会うのっていつぶり?」
「えっと、お正月にあったかな。だから、半年ぶりくらい?」
「なんだ、わりと最近なんだな」
「うん、こっちに帰ってきた時は必ず連絡してたからね。今回は状況が状況だからとてもそんな気は起きなかったんだけど…。向こうから連絡きたし、良い機会なのかなって」
「まぁ、そうか。地元にいるやつの話は聞いといて損は無いだろうな」
「そういうこと」
車は田園地帯を抜け、住宅地へと入った。周りに商業施設らしきものは見当たらない、いわゆるベットタウンというやつだろう。似たような建物ばかりが並んでいる。目印が無いと喫茶店があったとしても見逃してしまいそうな雰囲気だ。
「あ、そこ曲がったらもう着くよ」
角にわかりやすく佇む道祖神を目印に曲がると、喫茶店が現れた。レトロな雰囲気を醸す、昔ながらの喫茶店といった趣きをしている。
「お、良い雰囲気の店だね」
「でしょ。用が無くってもたまに来たりするんだー」
わずかな駐車スペースに車を停め、外へと出た。時間を見ると、ちょうどお昼を回ろうかという頃だ。
「ちょうど良いからランチ食べてく?ここの結構美味しいんだよ」
「もう昼か。そういや、今日は朝も食べてなかったな。道理で腹が減ると思った」
「じゃ、決まりだね。入ろ」
聰は頷いて同意する。腹が減っては戦は出来ぬ。まずは腹ごしらえをしようと決めた。
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