第3話 リスカ
夜も電話がかかってきた。それで、かかって来たらそのまま放置。俺はネットを見てたりするけど、憂鬱で楽しくなんかない。もちろん、俺からはかけない。
「江田君!聞いてる!私の話、全然聞いてくれないじゃない!」
俺は返事をしない。
「私、独り言、言ってるみたい!」
俺はそのまま黙っている。すっかり鬱状態だった。
「私、もう〇ぬ!」
沈黙が訪れる。そう言えば、前の彼と別れた時に自殺未遂したんだった。
電話を切って、女友達に連絡をした。
「あの、瑛子って子が〇ぬって言ってるけど、どんな風に自殺未遂したの?」
「手首切ったみたい」
「どんな人と付き合ってたか知ってる?」
「けっこうイケメンの人。友達の彼氏とやっちゃって、それで別れてって言って、自殺未遂したんだって」
「どうやって?」
「リストカット。今住んでる部屋で手首を切ったんだって」
「あ、今キャッチ入った。かけ直す・・・もしもし・・・」
「私!今から△ぬ!」瑛子だった。
俺は電話を切った。
そして、女友達に電話した。
「今その彼は?」
「うつ病になって・・・今、働いてないみたい」
「あ、そうなんだ・・・」
わかる気がした。
「今も瑛子から電話来るって。あと、家に行ったりとかもしてるみたい。その人は引きこもりになっちゃって」
「ああ、そっか・・・」
また、瑛子から電話がかかって来た。
「私、今から本当に〇ぬから、バイバイ」
「バイバイ」
俺は言った。本気かもしれない。
でも、俺にはどうすることもできない。
次の日の朝、彼女は会社の入り口に立っていた。俺は無視して通り過ぎる。帰りはいない。取り敢えず外で働いているんだろうか・・・。俺は甘かった。彼女が自宅アパートの前にいるのを見たからだ。仕事帰りの俺のあとをつけて家を突き止めたんだ。夜、インターホンが鳴った。ドアスコープを除いたらA子だった。
俺は警察に通報する。
でも、被害がないから、女は口頭で注意されただけだった。俺は本気で参ってしまった。朝仕事に行くと、彼女は俺の会社の入り口に立っている。帰りはいないけど、家に帰ると彼女が外に立っている。どうして?何でそんなに長時間いられるわけ?俺は不思議だった。
でも、気が付いたら、彼女は俺の隣の部屋に住んでいたんだ。
仕事から家に帰ると、ドアノブの所にビニール袋がかかっていた。
そのまま放置する。すると、電話がかかって来る。
「今日、スーパー行ったら美味しいパンが売ってたから、江田君の分も買って来たの。食べてね」
「いや、いらない。俺、パン食べない人だから。ごめんね」
「え、せっかく買って来たのに・・・」
「本当に要らないから」
「私も食べないから困る・・・」
「冷凍すれば食えるよ」
俺は電話を切った。
女からすぐに電話がかかってくる。
「江田君、私のこと嫌いなの?ねえ、答えて!私のこと迷惑?」
「うん」
「ひどい!私のことおもちゃにして!もう、死んでやる!今度は本気だからね」
俺は警察に通報した。
「隣の人が死ぬって言って暴れてます。私は、隣に住んでいる者です・・・」
警察が来た時、瑛子はクビに包丁を当てていた。玄関のカギをかけずに・・・俺が慌てて来るのを待っていたみたいだ。瑛子は警察に連れて行かれた。
その後、彼女は入院したようだ。ぱったり会社に来なくなった。俺は急いで引っ越して、会社もやめた。
あれから25年くらい。彼女からは今も時々、電話がかかってくる。違う電話番号でかけてくる。男に着信拒否されるたびに携帯を変えるんだろうか。
「江田くん?元気?どうしてるかなと思って」
俺はいつも「今外だから、ごめん」と言う。彼女はまた掛けてくるけど、俺は出ない。まだ、相手が見つからないのか?電話に出てくれる男を25年も探し続けているのか?可哀そうになる。
だけど、俺もあの頃から何一つ進歩していない。
電話する相手もいないのに、今も携帯を持ち続けている。
俺より彼女の方がましなのかもしれない。少なくとも、かける相手がいるんだから。俺は彼女からの電話を待っている気がする時がある。俺なんかに、そんなに長い間固執する人は彼女しかいない。友達とは一人残らず疎遠になった。だから、彼女の気持ちはわかる。たとえ嫌がられても、反応があるだけで嬉しい。
俺は彼女からの電話を待っている。
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