リスカ
連喜
第1話 久しぶりの電話
『もしもし、元気?今大丈夫?』
スマホから聞こえてくるその声に俺はぎょっとする。
「ごめん、今外出先で・・・」
今は家にいるのに、とっさに嘘をついた。
目の前にいる同居人が変な顔をしていた。
『ごめんね。じゃあ、またかけなおすね』
「じゃあ・・・」
安西瑛子・・・。その名前は俺に恐怖を呼び起こす。電話番号を何度も何度も変えている女だ。
「今の誰?」
「ああ、昔から知ってる女なんだけど・・・ちょっと面倒な人で・・・」
「ストーカー?」
「うん。それに近い・・・」
俺は安西瑛子のことを思い出していた。
胃が痛くなる。
彼女とは20代の頃に合コンで知り合った。髪はフワフワのエアリーなパーマをかけていて、色白で透明感のある子だった。唇はピンク。目も茶色かった。色素が薄くてハーフみたいだった。何となく不思議ちゃん。
でも、気さくで話しやすかった。
あの夜、俺は終電を逃してしまい、家に帰れなくなってしまった。ホテル代よりも、タクシー代の方が高かったから、ネットカフェでも行こうかなと思う。俺が半分冗談で彼女に「今晩泊めてくれない?」と言ったら、彼女は答えた「じゃあ、ちょっと片づけるまで、廊下で待ってくれるならいいよ」
俺はびっくりしたけど、もしかしたら、純粋に泊めてくれるだけかもしれないと思った。ホテルに泊まるとお金がもったいないから、という理由かもしれない。そうだったらやり過ぎだけど、優しい子だ。
俺が彼女の部屋に行くと、「じゃあ、先シャワー浴びていいよ」と言われ、バスタオルを貸してくれた。寝る時にはTシャツとパンツで寝ようと思ったけど、彼女はさらに部屋着も貸してくれた。弟が泊まりに来た時用に置いてあるそうだ。歯ブラシも新品を下ろしてくれた。俺は彼女の気配りに感激していた。
俺は部屋でテレビを見ていたが、どう見ても部屋の中には布団が一組しかない。俺はフローリングで直に寝るのかと覚悟していたが、彼女は隣においでと俺を呼んだ。シングル布団に大人二人。もう重なり合って寝るしかなかった・・・。すごいいい子だなぁ・・・俺はフリーだったから付き合おうかなとさえ思っていた。
俺が目覚めると濃厚なキスの嵐。彼女の舌が俺の口腔内に入って来た。そのまま5分くらいそのままだった。朝の5分は貴重だから、イライラする。
「会社行かなきゃ」
「寂しい・・・」
「君も会社だろ?」
「うん。一緒に行く。あっち向いてて。うふん」
女は気持ち悪い声を出した。俺は女の裸は見慣れてる。今更、普通の女の裸を見ても嬉しくない。ものすごく、スタイルがいいとかなら別だけど・・・。その子はどう見ても普通だった。
俺はすぐに着替えた。男だから準備は早い。それに、こういう時のために、鞄には髭剃り、整髪料、アイブロウなどを入れているから、洗面所で手早く身だしなみを整える。
女は準備に時間がかかってなかなか出て来ない。
「ごめん。もう間に合わないからでるよ!」
俺は声を掛けて急いでアパートを出た。
俺は方向音痴で、駅までの道がわからなくなっていた。
何となく、人が歩いている方向へついて行き、無事に駅にたどり着いた。
もう、この駅は使わないだろうな。俺はそう思っていた。
泊めてもらって悪いけど、お礼のメールとかもしなかった。何故なら、連絡先を交換していなかったからだ。すごいなと思う。俺のいい加減さが・・・。
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