転生ヤンキー異世界無双 ~ダ女神のせいでご臨終のワイは証拠隠滅で異世界へ。けど隠遁生活とかやっぱ無理。男気見せてあれこれ首突っ込んでたら『覇王』認定されてましたw~

かがわ けん

導く者、導かれる者

第一章 異世界転生

第1話 神野譲慈

 20XX年東京。

 元号が改められた当初に起こった数々の厄災は嘘のように過ぎ去り、世は平静を取り戻した。東京の街では以前のように多くの人々が行き交い、老若男女問わず日々を謳歌していた。


 そんな中を一人の青年が歩いてゆく。下町ゆえ都心ほどの人出ではないとは言えここは東京である。だが彼の前を歩く人は極端に少ない。それもこれも彼の異形ともいうべき姿のせいであった。


 鋭い眼光を放つ切れ長の目。頭髪は長髪を後ろで括り侍風に仕上げている。更に何処で見つけてきたのか竜虎の刺繡が入ったスカジャンを纏い、不穏なオーラを撒き散らしてややガニ股に歩いてゆく。

 顔立ちそのものは整っているのだが、188㎝の長身も相まって尋常ではない威圧感から恐怖が先立ってしまう。その姿を端的に表すとすれば武闘派ヤンキー。それも昭和のヤンキーだ。


「ちっ、面白おもんないのう」

 不穏なオーラを纏った青年は、不遜な言葉を呟きながら何処かへと向かっていた。

「萎えるわ。大学ってもっと刺激のあるとこちゃうんけ。チャラい男と、ワンチャン狙ってる女しかおらん。お前らどんだけ頭ん中お花畑なんや。そんなにコーマン決めたいんけ。しょうもない」

 どうやら彼の怒りの矛先は、自らが通う大学のことのようだ。言葉の端々に学友への嫌悪感が滲み出ている。因みにコーマンとは80年代に一部で流行った性行為の隠語である。


「しかし、先生せんこーの言うことなんか聞くもんやないな。『君なら十分狙える』とか言いよって。おかんまでその気になって『あんたここにしぃ』って言うから入ってみたら、ボンボンと嬢ちゃんばっかりのクソ大学やないかい。業沸ごうわくくんじゃ」

 彼は祖父譲りの不可解な言語を操る。何でも播州弁というらしい。


「気分でも変えたいとこやけど、ちょくでバイト行くか。ちっとでも自分で稼がんとな。ガキやないんやから」

 そう呟くと彼は歩みを速めた。だがギラギラとを目を光らせた昭和のヤンキーが足早に進むことで更に威圧感は増してゆく。モーゼよろしく左右に開いてゆく人波のど真ん中を青年は颯爽と歩いていった。




 片側二車線のやや広い交差点に差し掛かった時だった。目前の赤信号を確認し、横断歩道の前で仁王立ちとなった青年は、ふと隣に立つ幼い少女に目をやった。

(小さいなぁ。一年生け? 俺も一年生やで。大学やけど)

 自分の背中より大きいランドセルを背負い、ちょこんと立っている彼女の愛らしい姿に青年の頬が緩む。心なしか全身から迸っていた不穏なオーラも小さくなったように感じる。


「しかしアレやな、大学生一年生と小学一年生が帰る時間同じて、世の中間違ごうとるんちゃうけ? ワイらの歳なら体力も気力も充実しとる。別に夕方までびっしり授業あってもええやんけ。寸法おかしいで。ホンマ萎えるわ」

 青年がぶつぶつと日本の大学の将来を憂いている間に信号は青に変わる。少女は左右を確認し、すっと手を挙げて横断歩道を渡り始めた。

(お、きちんと左右確認して偉いのぉ。今日きょうび、おっさん、おばさんでも平気で信号無視しよる。子供の方がよっぽど賢いで。お兄ちゃんも同じ方向や。一緒に横断歩道渡ろか)

 少女の様子に感心した青年はやや後方から見守るように横断歩道を渡っていった。


 キキーッ グワシャンッ!

 二人があと少しで横断歩道を渡りきろうとした時、強引に右折しようとした軽自動車と直進していた乗用車が接触した。その弾みでパニックになったドライバーがハンドル操作を誤り、軽自動車は一直線に少女へと向かって行った。


 突然の事故にも関わらず、青年の目は状況を正確に捉えていた。幼少期より空手を習い、競技空手高校チャンピオンに輝いた彼の動体視力の為せる業だろう。更に彼はこの状況下に置いて信じられない速度で思考を加速させた。

(このままやったら嬢ちゃんが轢かれてまう。ええい、クソ。ワイの方が頑丈や。軽四ぐらいなら何とかなるやろ。行てまえっ!)

 彼は疾風の如く加速して彼女を抱えると、くるりと身を翻し自らの肉体を軽自動車側に向けた。


 ドゴ~ンッ!

(くそっ思ってたより痛いやんけ。しかもめっちゃ飛んでるし。いやそんなんどないでもええ。嬢ちゃんは絶対守る。おらぁ、くそがぁ)

 軽自動車に跳ね飛ばされ、宙を舞いながらも彼は思考を加速させる。そして空中で体を捻りビルの分厚い硝子へと背中を向けた。


 ガシャン、ゴギッ、ゴリゴリ。

 数センチはあろうかという硝子が粉々に砕け散る。それでも青年は少女を覆うように抱きかかえて守り続けた。

(あ、かん。もう意識飛びそうや。何とか譲ちゃんは守れたやろか。ケガさせてるかもしれんな。か、堪忍やで……)

 視界はどんどんと狭まってゆき、やがて漆黒の闇に包まれる。騒然としていた周囲の音が徐々に遠のき、ついには静寂の世界へと彼を誘った。

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