【短編完結】超えない五線譜(score)
るぅるぅです。
超えない五線譜(score)一
もう随分昔のこと。
私もすっかりおばさん。
みんないなくなってしまったわ。
…あら、聞きたい?
あなたによく面白い曲を作ってくれた、少し変わったおじさんのこと。
そうね。
私はその人の…何かしら。
…今日で最後だものね。
あなたにはいつか話さなきゃ行けないと思っていたの。
「君の音楽は美しくて完璧だと感じるよ。立派な仕事なんだね」
「それって、褒めてらっしゃるの?」
「お好きなように」
楽屋で初めて会った時の会話。
お好きなように。
まあ、世渡りの上手い人。
それが彼の第一印象。
コンクールで何度も入賞してる、プロのピアニストに向ける言葉ではないわね。
結婚も考えている私の恋人の演奏家仲間の恋人…というとても微妙な関係だった。
コンサートの広報や歯に布着せぬ独特の気持ちが良い評論が評判の、本業売れない作曲家の男性。
私の方が立場は上。収入も上。
お互い素晴らしい才能のある恋人もいる。
私の体調が急変しなければ、
彼と話したりは、きっとしなかったわ。
私の恋人はバイオリニスト。
私はピアニスト。
お互いにとても忙しく、時々日本より海外で落ち合う方が多かった。
それでも楽しかったし、幸せだった。
婚約をする話も順調に進んでいて、日本でやっと会えると思った時。
私の恋人はなぜかまたおかしな事を言ってきた男性を連れてきたわ。あちらの恋人も一緒。
きっと二人きりで突然現実的な話をする前に、わいわい久しぶりの友人達と騒ぎたかったのだと思う。
でも私は恋人と二人きりになれない不満を少し感じた。
相手の女性に何か嫌なものを感じたから。
それが女の勘だったと、後に知る事となったわ。私達は自分の時間があまりにも自由すぎたのね。
恋人を問い詰めたら、関係が会ったことを白状してきちんと別れると言った。
なにがきちんと別れるよ。
最初からだらしない二重交際をしているあなたがきちんとなんてよく言えますね。
そう私は言えば良かったんだわ。
でも言えなかった。
恋人の謝罪を受け入れて婚約と結婚式の話を進めてしまった方が楽だなんて思ったから。
自分はもっと前向きで強くて素敵な女性なんだと、信じていたから。
恋人が婚約者になり、結婚式も控え、周りの人々は祝福してくれた。
結婚式に私達は演奏家だから、おもてなしとお礼に一曲来賓へ贈る事となった。
その話が出てからだ。
私の体調が原因不明で急激に悪くなっていったのは。
一緒に。
私を騙して、他の女性の身体を直に触れていた、この人と、一緒に。
全て上手く合わせられるのに、音楽だけはどうしても嘘をつけない。
婚約者の指がバイオリンを弾くたびに、私のピアノを弾く指が動かなくなっていった。
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